続・ポニーテールは永遠に
「帰ってきたぞぉおおお!」
「うるさいバカ」
関東地方にある小さな街のどこにでもありそうな一軒家。
笹の立てかけられた庭を望む縁側に座る、タンクトップにショートパンツのポニテの少女と、両の手を天に突き上げる赤いTシャツに茶色い半ズボンの青年。青年のTシャツには「海は広い」と書かれている。丸ゴシック体で。
「というか最終回じゃなかったっけ。アンタ日本中ポニテを求めて旅してるんじゃなかったっけ。なんでここにいるのよ」
「細かい事は気にするな我が瑞希よ。今はポニーテールの日を楽しもう」
「世間一般的には七夕だから……もう、半年ぶりに帰ってきたと思ったら全然成長してないんだから……」
「ふ、この俺が、神前凌一が成長していないと……そういうか瑞希。く、クククク……」
幼馴染である希の言葉に、不敵に笑う凌一。そんな笑い方をするのはいつものことだが、されるたびにちょっとイラつく。
「これを見ろ!」
「……うわ、これはまた」
凌一はポケットの中から黄緑色の細長い紙切れを取りだす。七夕の日に、笹に付ける短冊だ。
そしてその短冊は、びっしりと、おびただしいほどに黒い点で埋め尽くされていた。
否、これは点ではない。文字だ。三ミリにも満たない字が、この短冊に書かれている。その中で一際目に付く単語、それは……。
「……これ、またポニテについて?」
「そう! ポニーテールについて!!」
瑞希は「はぁ」と溜め息を吐いて頭を抑える。
やはり凌一は変わっていない。相変わらず努力する方向がポニテで固定されている。
「ポニーテールほど完成された髪型はない。されどポニーテールほど千差万別の髪型はない。大きいポニテ小さいポニテ、長いポニテ短いポニテ、高いポニテ低いポニテ、二股に分かれたポニテに毛先の跳ねたポニテ。同じポニテなど一つもない。だがポニーテールは! 世にあまねくあらゆる人類の持つ至高の可能性! ポニテにすれば世界は変わる。ポニテにするだけで自分を変える事が出来る! たった一つのリボンで、ゴムで、ヘアピンでだ! 小道具一つで全く異なる自分を演出する事が出来るそれがポニーテール! 結い上げた髪が頭皮に適度なストレスを与えて気が引き締まり、溌剌として前向きになる! そう、それはポニテだから! ポニーテールとは偉大な髪型なのだ!」
「はいはい、そうですか……」
暑い夜がなお暑くなる凌一の熱弁を尻目に、ため息交じりに冷えた甘酒を飲む。
甘酸っぱい麹の味が、身体の熱を冷まして心地いい。
「ところで、お前は何を願うんだ?」
「凌一が旅先で馬鹿しないように……どうせまた近いうちに出るんでしょ?」
「ああ、明日には」
明日には出発する。凌一のその言葉に、瑞希の肩がピクッと震える。
「……そっか、もう、行っちゃうんだ」
「まだ北陸を旅しきれていないからな。七夕はお前と祝いたかったから、戻ってきたが」
「別に、無理して戻ってこなくてもよかったじゃない」
「そうは行かないさ」
凌一は頭を掻きながら、俯く瑞希の隣に座って自分の甘酒を飲む。
「今日は、お前と絶対に過ごさなきゃならない。今まで見て来た誰のものより素晴らしいポニテを持つお前と、一緒に過ごしたいんだよ」
「……そ」
凌一の言葉にそっけなく答えながらも、瑞希は凌一の肩に頭を預ける。そんな猫のような甘え方をする瑞希の腰に、凌一は無言で手を回して抱いた。空を見上げれば星の海。綺麗な天の川が、山の向こうまで流れている。
「……ねえ、凌一」
「なんだ?」
しばしの間続いた無言を、瑞希が破る。肩をもじもじとさせ、頬を赤く染めている。
「あの、さ、………………なんで私のお腹フニフニ揉んでるの?」
「いや、柔らかすぎず硬すぎず、触ったら跳ね返る弾力が心地よくて」
「変態」
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