ポニテはたくさんあればいい。ポニテは一本あればいい

「ふむふむ……」

 午後四時前。関東のとある高校の、その屋上。一人の男子生徒が双眼鏡を覗きながら、グラウンドを見下ろしている。彼の名前は神前こうさきりょういち、普通の人よりポニテが好きな男子生徒である。

「いやはやなんとも……」

 双眼鏡が向いているのはグラウンドの右側。そこでは陸上部が、順番に走り幅跳びの練習をしていた。次に飛ぶのは、黒い髪をポニーテールにまとめた、背の高い女子だ。

「2年B組広崎ひろさきたか。常時ポニーテール。髪色黒。長さ26センチ、最大径は3.5センチ。細めで長い。クールな姉御肌で女子からも人気が高く本人は男子を苦手としている。そのポニーテールは彼女が走る度に夜風にたなびく柳の木が如く流麗。健康的な太ももは一見白く見えるが程よく焼けていて健康的……と、あっちは?」

 広崎高音が飛び終えると同時に、凌一は双眼鏡を巡らせてポニテを探す。目についたのはテニス部だ。

「3年E組沢北さわきたともえ。運動時ポニーテール。髪色ライトブラウン。長さ12センチ、最大径4.3センチ。太めで小さい。リーダーシップのある明るく社交的な女子生徒で運動部代表も兼ねる。プレイ時、左右に揺れる茶色いポニテはせわしなく、じゃれてくる仔犬を思わせ可愛らしい印象を与える。ふくらはぎから足首にかけて引きしまったラインが美しい」

 そうぽつぽつ呟きながら、凌一は他のポニテを探す。

「……おお」

 凌一の目に留まったのはラクロス部の少女。髪は桜色で、もちろんポニテだ。

「1年B組水上みなかみはる。常時ポニーテール。髪色ピンク。長さ39センチ、最大径5.2センチ。長めで太い。桜の花びらが次々に散り行くが如く流れ清々しい。腕はか細く白く、まだ頼りがいがないが、ぜひともマッサージしてみたい」

 まだ活動している部活はまだまだあるが、反対側にある校門の方を見てみようと場所を移す。そろそろ帰り始めた生徒達が減って来る頃だ。だが。

「お、やっぱり来たか」

 凌一はまるで宝物を見つけた子どものようにニィッと口角をあげ、双眼鏡を覗く。

「2年D組白石しらいしかず。常時ポニーテール。髪色水色。長さ35センチ、最大径4.5センチ。長めで太い。星型のアクセントがついたヘアゴムを愛用し、そのポニテは箒星の如く。ポニテとポニテを構成するヘアゴムとの相性は抜群といえる。小柄な体系をしていて後ろからすっぽりと抱き締めてみたい」

「へえ、誰を?」

「だから同じクラスの白石……を?」

 後ろから声をかけられ、双眼鏡を覗いたままサッと振り向く。そこにいたのは怒りに震える顔のドアップ。

「……2年D組境さかいみず。常時ポニーテール。髪色小豆、長さ42センチ、最大径3.3センチ。細めで長い。俺の幼馴染で俺の好みに合わせていつもポニテにしている。長さ太さ共に俺好みでコイツは絶対に俺のことを好いてごぶふ!」

「思い上がるなド変態……」

 瑞希は額に青筋を浮かべながら凌一の頭に踵を落とす。目玉が飛び出るような衝撃に耐えかね、凌一はその場を転がりまわった。

「な、何をする瑞希! 俺は何もやましいことはしていないぞ!」

「あんたの事よ……その双眼鏡でポニテ探しでもしてたんでしょ?」

「そうだ、だから疚しいことはしていない!」

「覗きは十分疚しくて反社会的な行動だと思うけど」

 瑞希が呆れて大きく溜め息を吐くと、凌一は涙目で起き上がってまだ反論する。

「確かにポニテは、大きな胸やくびれの真ん中にあるへそや柔らかい二の腕や頬ずりしたい太ももに小ぶりなお尻や汗ばむうなじや浮き出る鎖骨並に魅力的な部位だ。だがあそこまでひけらかされているものを見ないなど! 据え膳食わぬは男の恥だ!」

「あんたのフェチが予想以上に多くて引くんだけど……それとその言葉使い方間違ってるし。別にポニテにしてるのはあんたに据え膳出してるわけじゃないのよ」

「なに、違うのか!?」

「もう一回言うわ、思い上がるな……。全く、他の人に迷惑かけないように私がポニテにしてるのに、これじゃあ意味ないわね……」

「あ、それは違うぞ」

 瑞希の「情けない」というようなか細い声を、凌一は手で制して真面目な表情になる。

「俺が心に決めたポニテはお前一人……他のポニテを見ても、お前以上のポニテは知らん。俺が好きなのはお前一人だ!!」

「……あんたは、唐突に何言ってんのよ……このヘンタイ」

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