第13話 行方

 この日を境にして澄子のうなされる夜は、――仁志が大阪に戻った日から毎晩のように続いていた彼女の悪夢は、すっかり影を潜めた。

 それから三月が過ぎた頃だったか、仁志は何かの折に実家の澄子に電話をかけ、図らずも崖下の夢の話をした。

「その鬼はお父さんだったんじゃない?」

 話を聴いた澄子は冗談交じりに言った。

「えっ、まさか……」

 母親の意外な反応に仁志は色を失った。彼女は受話器の向こうの息子の顔が見えているかのように、涼しげな口調でこう追い討ちを掛けた。

「だって昔は母さんが赤鬼で、父さんが青鬼だったんだろ?」 (了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

崖下の夢 one minute life @enorofaet

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ