中話 実態
部屋のベッドで寝転がり、今日あったことを整理してみる。
ライトノベル作家、脳書猛。それが理事長であり、この学園の元凶とも言える人物なのだろう。少し調べてみるか。
ひろしが言う通りかなり有名な作家らしく、ネット検索したら異常とも思えるほどヒットした。様々な出版社からシリーズ単発問わず恐ろしい数の作品を出している。これを全て1人の人間が書いたのかと驚愕してしまう。
あっ、これ読んだぞ。それも読んでいる。同じ作家だったのか。絵が違うから気付かなかった。
マンガの絵担当文章担当みたいに、大抵同じ人間同士が組んでいるというわけじゃないんだな。今更知ってしまった。
っと、そうじゃない。確かジンバブエとか言っていたな。
検索してみたら南アフリカの経済が崩壊した国ばかり出てくると思っていたのに、意外とラノベがヒットしている。
これが
しかし本当に主人公の名前は劣等斎なんだな。酷い話の予感がする。
仁刃不壊
主人公である
そして500年後の現代にその記憶を受け継いだまま生まれ変わる。
熱風斎は自らを死に追いやった武家の子孫に報いを受けさすため、探そうと躍起になった。
しかし幼少の身分ではそれが適わず、修行に明け暮れる日々を過ごす。
時が来たのは高校入学時。なんと同級生に仇である武家の子孫がいた。
だがその子孫は栄華を極めた武家とは異なり、すっかり落ちぶれていたのだ。
生まれつき体が弱く、家は貧しくいじめられていた。
熱風斎はそんな彼をこれが報いだと笑ったが、それでも健気で一生懸命に生きる彼の姿を見て心を打たれ、自らの小ささ浅ましさを恥ずかしく思う。
熱風斎は自らの名を劣等斎と改め、彼を守るため自ら──熱風斎の呪いと戦う決意をする。
なるほど、あらすじを読んだ限りだとなかなかの好漢じゃないか。おかしな名前は自らへの戒めということだろう。
仇の子孫である彼を見て500年という長い間苦しめられ、もうその家は充分に報いを受けたと判断したんだろうな。これ以上苦しめる必要はないとか。
仁という心の刃は決して壊れない。酷い名前だと思ってたのになにこれかっこいい。タイトルやキャッチフレーズってやっぱ重要だな。
まあ心の刃というものは研ぎ澄ますものであり、仁とは些か異なるような気もするが、目をつぶろう。
それにしてもこれを踏み台としているひろしもまた正義感の強い男だ。見た目はアレだがそういった影響は悪くないと思う。
あとは……おっ、こいつもクラスで見たことあるぞ。それにこれもそうだ。
目を通してみると、クラスの2割程度が脳書猛作品の何かしらに影響を受けているように感じられた。あとは別人の作品やマンガ、アニメ、ゲームといったところか。
おっ、これルキじゃないか? フードかぶってる小さな子。ひろしより断然興味あるぞ。どれどれ。
これは少年向けというよりも少女向けっぽいな。絵柄が少女マンガみたいだ。
腐ってるのかな。腐ってたらやだなぁ……。
世界が崩壊寸前になり、瓦礫のようなビルなどで細々と暮らしている人々に、自らを人形と称す少女が救済を与えようとする物語。
辛い選択を強いたり、現実を見せようとして人から嫌われてしまうのだが、自分は人形だからと感情を表に出さない。
誰にも見られないところでは1人で泣き、苦しみながらも他人へ手を差し伸ばす。
手に持つ燭台の炎で人を導く。その炎は自らの魂を燃焼させ、命を削る作業だと知りつつも。
うーん、結構ダークな内容の話っぽい。ルキがカンテラなのはアレンジだろう。ひろしも眼帯してるから元作品との違い、オリジナリティを出しているのかな。
とりあえず電子書籍版もあるし、タブレットで落として読んでみるか。
────はっ、しまった! つい読み耽っていた。
主人公のシルキエルはマジ天使だった。何度か泣きそうになってしまった。
だけどこれは名作だぞ。時間は……19時か。まだ本屋は開いているはず。
俺はダッシュで書店へ走った。
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