一七話 真実

「ありがとう。後は一人で大丈夫だよ」

「……もう授業始まってる……。急いで」


 戦いに集中していてチャイムが鳴ったのに気付かなかった。

 みんなはもう教室に向かっただろうな。

 俺もとっとと終わらせて戻らないと。


「失礼します」

「いらっしゃい。どうかした?」

「ちょっと見てください」


 俺は上着を脱ぎ、打たれたところを見せようとした。


「いきなり脱ぎ出すなんて大胆ね。何して欲しいのかしら?」

「ち、違います! 怪我を見てください!」

「あら……勇ましいわね」

「ただ階段から転げ落ちたのかもしれないじゃないですか」

「ここから見てたからわかるわよ」


 確かにここの窓からだとさっきの場所が丸見えだ。だったらどうかしたなんて聞く必要ないじゃないか。


「ちょっと押すわね」

「いつつつつっ」

「ほら動かないで。痛いのはわかるから」


 鉄の棒で殴られているんだぞ。わかられてたまるか。

 しっかし見事に青あざができているな。直撃しないでこれじゃあまともに食らっていたら大事になっていただろう。


「そういえばここにセイ……女子が来ていませんでしたか? 割れたお面をつけて長い金髪ストレートの」

「洋子ちゃんね。軽傷だったからすぐに帰ったわ」


 洋子っていうのか。セイドリックよりも100倍かわいい名前だ。


「気になる子なの?」

「なんか意味が違っている気がするんですが、無事ならいいです」

「ふぅん、本当かしら。あの子けっこう綺麗だし、以外と体も──」


 この話を長引かせたくないのに、一人で妄想を始めてしまっている。

 しかしあの子、いい体してるのか……。

 じゃなかった。切り替えだ切り替え。


「しっかしこの学校、本当にどうしてあんな連中が集まっているんですか」

「キミは違うのかしら?」

「全然違いますよ、一緒にしないでください!」


 なんで同列に見られるのかわからない。


「大体キミはこの学校が何て呼ばれているか知っているの?」


 何かそういういわくのある呼ばれ方しているのか?

 受験前にちょっと調べた程度で、その他の前情報は皆無だった。


「え? いや……さあ」

「ここは別名、中二病棟よ」


 え?

 ………………。

 中二……病棟……? 


「ど、どういうことですか?」

「どうもこうも、聞いたままよ」

「そんな話聞いてないですよ!」

「じゃああなたはなんでこの学校を選んだの?」

「この学校に行けば、本当の強さがわかるって言われて……」

「そういう子、多いのよね」


 やばい、十把一絡げにされている。


「いやいやいや、そうじゃないんですって! 俺は──」

「大体ね、『自分はみんなと違う』とか、『自分の強さを知りたい』なんて中二の基本じゃない。何を今更」


 え、そ、そうだったのかあああぁ!

 まさか俺もあいつらと一緒だったとは。

 でも俺は違うはず……って考えが駄目だというのか。

 ベクトルが違うだけで同属ということか。はあ……。


「だけどクラスにはそういう中二が大嫌いなやつがいるんだけど……」

「はい終わり。この程度の打撲なら歩いて帰れるでしょ」

「いててててっ」


 なんで治療が終わったら叩くのがお約束になっているんだ。


「えっとそれで──」

「自分で考えなさい」


 わかっていたら聞かない。


「うーん…………無理」

「仕方ないわね、ヒントをあげるわ。大きな反動を得るにはそれ以上に引き込まないといけない。つまり高二病ね」


 うむ。

 高二病はよくわからないが、前者はなんとなくわかった。

 つまりジャス子あいつは中二病だった。それも極度の。

 その過去を払拭するかのように、かなりの嫌悪感を抱いていると。

 詳しく知りたいところだが、本人に訊ねるのは野暮か。


 教室に戻ると案の定授業が始まっていた。

 席に座り、教科書を取り出そうとしたら机の中に紙が入っていた。


 『授業終わりに裏門』


 女子の字でそう書かれていた。

 俺にはルキがいるんだけど……無能を卒業したらモテ期到来したとかでき過ぎだろ。

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