一三話 不在
「ふむ、今日は剣武殿とセイドリック殿が休みのようでござるな」
いつもの如く適当に挨拶をして去るというHRをした五里谷先生を見送った後、教室内を見渡したひろしの一言。
今更だけどなんか世界観が崩壊しそうな名前だ。剣武は知ってるけど……。
「セイドリックって誰だ?」
「拙者の隣席の女人でござるよ」
あの右半分と口元が割れて無くなっているお面をつけている子、そんな名前だったか。というかクラスメイトの名前と顔が全然一致しない。
「そういやセイドリックって洋風の名前だけど、言うのは別にいいのか?」
「名は名でござろう。正しく呼ばねば失礼でござるよ」
まあ確かに。
……できたらクラスの連中に俺を無能と呼ばないよう言いつけて欲しい。これだって相当失礼だと思うぞ。
しかし今はそれどころじゃない気がする。
なんだろう、この違和感は。
そうだ、俺は確か今朝、仮面の子を見た記憶がある。あんな目立つ格好をしているんだから見間違えるわけが…………。
しまった、この学校には目立つ格好のやつしかいないじゃないか。目立つから覚えているというのなら、校内の生徒全員を覚えていることになってしまう。
いやそうじゃなくて、仮面の子はどこで見かけたかな。
ああ登校時に下駄箱ですれ違ったんだ。
ん? 俺が登校したときすれ違ったということは、彼女が一度校舎内に入っているということだ。
すると早退したという可能性だが、何かひっかかる。
「なあ、おかしくないか?」
「何がでござるか?」
「あいつらの席にはカバンがあるぞ」
「む……確かに。これはどういうことでござるか」
「登校はしているってことだろ。でもどこかに行っている……にしては遅いな」
もう一時限目が始まりそうな時間だ。トイレにしては長すぎる。
しかも2人揃ってというのは怪しい。
今日からちゃんとした授業が始まるから、ばっくれてみたとか。
幼稚園児じゃあるまいし、そんなはずはない。
「ま、まさか、あ、逢引きでござるか!」
純情ひろしが顔を赤らめて叫ぶ。
その可能性は否定できないが、多分それは無いだろう。
剣武は無駄にイケメンだけど会話が噛み合わないというか、ちょっと自分の世界に入りすぎている。
……というよりもここにいる全員自分の世界に浸り過ぎているから、他人と恋愛的な繋がりを持てるような気がしない。
「剣武は多分そんなことをしないんじゃないかなぁ」
「ま、まあ剣武殿に限ってはありえぬでござろう。彼の者はまだ修行中の身故、おなごにうつつを抜かしている余裕はないはずでござる」
「そういうもんか? じゃあお前も恋愛していられないんだな」
「せっ、拙者は師範であり、もはや極めたと言っても過言ではござらんし、その、相手さえおれば……」
お? ひろしってば恋愛に興味あるんだ。だったらまずその珍妙な恰好をどうにかしたほうがいいぞ。あとは拙者とかござるとか、侍っぽい見た目をしてなかったらただのヲタクにしか見えない。
「まあそれはさておき、ひょっとしたら何かあったかもしれないな」
「かもしれぬでござるな。探したほうがよいかもしれぬでござる」
「とりあえず授業が終わっても戻ってこなかったらでいいんじゃないか?」
「そうでござるな。皆で探しに行くでござるか」
「だけど校舎外に出ていたら見つけられないんじゃないか?」
「ふむ。だがルキ殿ならたやすいかもしれぬでござるよ」
無理に決まっているだろ。あいつらにGPSが付いていれば別だけど。
でもそれを説明するのも気がひける。
「まあ授業が終わったら聞いてみたらどうだ?」
「そうするでござる」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます