七話 檻園帝林具(オリエンテーリング)
思わぬ仲間に出会い、遅い時間まで盛り上がっていたからせいか朝が遅かった。
目が覚めたらもう朝食の時間。
みんななんで起こしてくれなかったのかはさておき、流し込むように胃へ送り込む。
食い終わったところで全員バスに乗せられ、山のふもとまで連れて行かれた。
今日は確かオリエンテーリングだったな。
見知らぬ土地に放り出し、自分達の力だけでゴールへ行く。
なるほどこれはクラスメイトとの信頼感や結束力がつきそうだ。
でもせめてジャージとかで行きたかった。なんで制服なんだよ。
ということを先生に言ったら周囲のクラスメイトから露骨に嫌な顔をされた。ジャージで歩き回るのが嫌らしい。
お前らのその格好はどうなんだと言いたかったが多勢に無勢。黙るしか道は残されていなかった。くっそぉ……。
「まずは他クラスの妨害に備えなければならないな」
妨害とかあるの? たかがオリエンテーリングで。
とりあえずルールを確認してみるか。
6クラス6コース。それぞれのクラスが同時に別々のルートを歩き、山頂を目指す。
ようはクラス対抗戦だ。
勝負ごとに妨害はつきものとはいってもかなり難しいものだ。
まずはある程度地理に詳しくないといけない。
先回りしなくてはいけないし、その道を通る確証がないと無駄になってしまう。
仲間内に地元のやつがいなければ到底無理な話だ。
いや、なまじっか道を知っていても罠をしかけることはできない。
なにせこっちは素人だから予想もできない場所を通るはずだし。
せいぜいお互い思わずばったり出会う程度だ。意識していれば不意を突かれることはないから放っておいても大丈夫。
「それでは全員の携帯電話、時計、方位磁石などは回収させてもらうぞ!」
オリエンテーリングだから携帯とか卑怯なのはわかるが、方位磁石は必須道具じゃないか。
それに時計も……といっても最近は携帯で時間がわかるから、時計なんて持っていない奴が多いと思う。
……いた。というかけっこう持っている。しかも何故か全員懐中時計だ。
それ以外は何でも持って行ってもいいらしく、みんな武器だけは携帯している。
みんな狩りに行くのと勘違いしていないか?
女子は女子で様々なものを持っている。
ルキはいつものカンテラだし、他も似たり寄ったりだ。全くどいつもこいつも。
そういえば暫定まともな奴、ジャスティスがいたっけ。
「なあ」
「何かしら」
「お前は何を持っていくんだ?」
「山登りでしょ。荷物があると無駄に体力を消耗するし、邪魔だから何も持っていかないわ」
近所の川原を散歩するのとはわけが違うぞ。もうちょっと考えろ。
俺だけか、まともなものを持っているのは。
救急セットと筆記用具に水。無いものといえば地図くらいか。
「先生、地図とかは無いんですか?」
「なあに、行く先は山頂だ。ここから見えるんだから行けるだろ」
山頂が見えれば行けるのならエベレストでも登れることになってしまう。
「オリエンテーリングって目印とかがあったりすると思うんですけど」
「だから山頂が目印だ。がんばれ!」
無茶苦茶過ぎるだろ、遭難はしないだろうが危ないぞ。
体育教師が脳筋。それもまた基本か。
「一番に頂上へ辿り着いたら褒美をやるぞー!」
褒美ねぇ。あまり期待できないけどやってみるか。
といっても困ったぞ。とりあえず山頂を目指せと言われてもな。
確かにここからなら山頂は見える。だけど山に入ってしまうと見えなくなってしまう。特にこんな木が生い茂った森のような山では尚更だ。
登っていれば着くほど山は簡単ではない。起伏のせいで登りと下りがわからなくなり、自分がどこへ向かっているかを見失うことはよくある。
地図も無い。方位磁石も無い。あるのは知恵だけか。
とにかく出発して山まで歩き、その間に各々で考えてもらおう。
「さてここから山に入るわけだが、どうすればいいと思う?」
これだけいるんだから一人くらい知っている奴はいるだろう。子供の頃ボーイスカウトに入っていたとか、山村生まれとか。
見た感じ舗装路とかはない。適当に歩くのも危険だから、まず最初に詳しい奴に手解きをしてもらいたい。
「ふむ、拙者は山のことはよくわからぬでござるからな」
「とりあえず登ってみればいいんじゃないか?」
「式神、式神を召喚する」
「やまー、やまぁー」
「待っていろ。今俺が思念体を上空に飛ばして──」
「私には森の精霊達が教えてくれるわ」
駄目だ。全員駄目だ。
三人寄れば文殊の知恵というが、知識が無いものが何人寄ったって無駄な時間を過ごすだけにしかならない。
「あなた、無能なうえに馬鹿なのかしら?」
ジャスティスが挑戦的なことを言ってきた。
「なんだと?」
「先生も言っていたじゃない。ここは山なんだから斜面を登れば山頂に着くわ」
「富士山登るわけじゃねえんだぞ! 木々に覆われていたら山頂なんて見えないんだから方角を見失うかもしれないんだ」
「だから斜面を登るのよ。少しはものを考えて」
「……山には起伏があるんだよ。登ってるだけで山頂に着くわけじゃない」
「そうなの?」
駄目だ、こいつとことん非常識だ。適当に常識人ぶっているところがムカつく。
というようなクソ会議を行っている俺らを無視し、ルキが一人で歩いて行った。
「おいルキ、無闇に歩くと危険だぞ」
「こっち」
うんわかっている。山に入るにはそっちに行くしかない。
だけど問題はその先なんだ。今のうちにプランを立てておかないと、入ってからでは混乱してしまう。
とはいえこいつらと話し合ったところで無駄な時間を過ごすだけだ。
それにルキの足取りに迷いが無い。まるでこの山を知っているような……。
無策すぎる俺らはそれに賭けるしかなさそうだ。
「行くでござるか」
「そうだな」
ルキが通る道は誰かが足を踏み入れていたような場所だ。なるほど、人が通った形跡らしきものを辿っていけば山頂でないにせよ、何かしらよさげな場所まで出られるわけか。
と思ったのも束の間。道らしきものが二手に分かれている。
どちらも人が歩いたような形跡がある。足跡とかじゃなく、踏み慣らした感じだから選択するのは難しい。
「次……こっち」
だというのに悩むこともなくルキは行く道を示す。
「なあ、本当に道あってるのか?」
「前に言った……。私は人を導く者……」
知っているけどさ、そんな設定に具体性は無いだろ。
とはいっても他にあての無い俺たちはそれに従うしか術がなかった。
ルキはカンテラをちらちら見ながら歩いていく。
「そのカンテラって何の意味があるんだ?」
「……この光は導きの光……行くべき道を示してくれる……」
確かに薄明かりが見えるが、ランタンなのにロウソクが入っているわけではない。一体何があの中で光っているんだ。
少し早歩きをし、ルキと並び軽く横を見る。
えっ!? 中身が空!? いやでもさっき光ってたのを確認している。
いやよく見ると何かおかしい。何かが……あっ。
鏡だ。恐らく中で三角錐のように鏡を配置しているんだ。だからこちらを反射しないせいで錯覚してしまう。そんなマジックがあった。
「……何?」
「あっ、いや、なんでも……」
いかんいかん。ルキを疑ってはいけない。
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