第13話 公太郎の知る力

 氷雪の嵐に包まれて壁へと吹っ飛んでいき、倒れ落ちた公太郎の姿を見届けて、氷の怪鳥フリーザーは広げていた翼を小さく折りたたんだ。


『終わったか。この程度の戦いをご覧になって神もさぞ失望されたことだろう。やはり通常の人間ではこの程度』

「失望するのはまだ早いんじゃないか?」


 ダメージを受けながらも公太郎は立ち上がった。だが、すでにその足はふらついている。


『まだ立てるか。だが、もう無駄だ。お前にはもう望みはない。このわたしに勝てる望みも、良い戦いが出来る望みもだ』


 フリーザーはすでに公太郎を対等の相手とは見ていなかった。その見下しの視線が公太郎の癪に障る。


「ないかどうか、その腐った目でよく見ていやがれ!」


 熱く燃え上がる闘志とともに公太郎の双剣に炎が灯った。


「これで氷に対する攻撃力は2倍!」


 公太郎の足が大地を蹴る。


「3倍の速度で6倍!」


 公太郎は跳躍し、次に2つの剣を1つに合わせて振りかぶった。


「2つの剣で12倍!」


 そのままフリーザーに向かって振り下ろす。


「そして、1.5倍×3を合わせて、終わりだああ!」


 炎の斬撃が走る。公太郎の想いを乗せて。

 今度こそフリーザーの体を真っ二つに切り裂いて、公太郎は着地した。


「悪いな。お前を舐めてたんだ。まあ、俺が本気を出せばこんな物だな」


 戦いが終わったと確信した公太郎の足元に冷気が漂ってくる。その違和感に気づき、公太郎は背後を振り返った。

 氷の渦が巻き起こり、真っ二つとなっていたフリーザーの体が一つに合わさって再生していく。


『だから、お前に望みはないと言ったのだ!』


 氷の鳥はすぐに元の姿となった。公太郎はただ驚いて見上げることしか出来なかった。


『ここは氷の世界。この程度の傷などいくらでも治るのだよ。どうだ? わたしを倒せたと思って満足出来たかな?』

「そんな……チートかよ……!」

『お前がそう思うのならそうなのだろうな。お前の中ではな。さあ、どうする? 戦うか? それとも逃げるか?』

「くっ」


 緊張に息をのむ公太郎に、ちっこい少女の姿をした神様が話しかけてくる。


「公太郎、ここは素直に逃げてフィオレに助けを求めてくるんですよ。勝てる手段があるのに取らないのは愚か者のすることです」

「冗談じゃねえ。あいつに頼って逃げるぐらいなら最初から来たりなんてしねえんだよ!」

『良い気迫だ。だが、これで終わりだ』


 フリーザーの口に氷のブレスのエネルギーが集中されていく。


「させるかよ!」


 公太郎は動こうとして、だが、その足は動かなかった。


「なに!?」


 見下ろすと自分の足が凍り付いて、氷の地面に固定されてしまっていた。


「フリーザー! てめえ!」

『フフフ、最初から逃がすつもりなど無かったのだよ』

「くそっ!」


 公太郎は剣を氷に叩き付けるが、それは少し砕けてもすぐに再生して公太郎の足をより強く縛りつけていくだけだった。


『そのままの体勢でどこまでの冷気に耐えられるものか。さあ、試してみようか!』

「くっ!」


 フリーザーの氷のブレスがまさに発射されようとしたその瞬間。


「待ちなさい!」


 凛とした少女の声が氷の広間に響き渡った。


「ちっ、時間切れかよ」


 公太郎は舌打ちしながらも、どこか自分の中で安心したような心地を感じていた。


『現れたな、神に選ばれしものよ』


 フリーザーが向き直る。すでに興味を失った公太郎から、待ち望んでいたフィオレに向かって。

 フィオレは公太郎が無事なのを見ると、すぐに目線を敵へと移した。


「こいつがフリーザーなの? 思ったより弱そうな奴ね」

「お前にとってはそうなんだろうな」


 公太郎は半ばあきらめの気持ちで呟いていた。彼にとってはもうこの戦いは終わりが見えたも同然のものだった。

 フリーザーは今こそが戦いの開始とばかりに翼を広げて宣言した。


『神よ、ご覧ください! 今からこのフリーザーがあなたの選んだ少女と戦います! では……始めるぞ!』


 フリーザーは空中へと飛び上がり、氷のブレスを吐いた。フィオレはただそれを剣で一振りしただけでかき消してしまった。

 当然の結果だ。チート能力者に攻撃は通用しない。公太郎もかつてはそうだったからよく分かっていた。

 フィオレは跳ぶ。両手で大剣を振りかぶり、空中にいるフリーザーに向かって振り下ろす。

 フリーザーは激しい吹雪の風を巻き起こしてそれを迎撃しようとするが、どのような手段を取ろうともチート能力者には通じない。

 フィオレの大剣はいとも容易くそれを突き破り、巨大な氷の怪鳥を一刀両断とした。

 だが、まだ終わりじゃない。


「気を付けろ! そいつは再生するぞ!」


 公太郎は自分でも気づかないうちに叫んでいた。

 だが、無敵のチート能力を持つ彼女に助言などというものは必要ない。公太郎はすぐに自分の言った愚かさに気づき、その行いを後悔して奥歯を噛みしめた。

 フィオレは一瞬驚いたように公太郎の方を見たが、すぐに戦う者の目つきとなって、再生を始めようとする二つの氷の塊に向かってさらに大剣の斬撃を走らせていった。

 フィオレの大剣がフリーザーの体をさらに細かく分断していく。さらにフィオレは剣を片手へと持ち替え、もう片方の手に炎の渦を巻き起こした。そして、それを放つ。

 氷の広間に炎の爆風が広がっていき、公太郎は地面に倒されて目を閉じた。



 次に公太郎が目を開けた時、氷の広間の半分は融けかけ、氷の化け物の姿は消えていた。まだあちこちには炎の名残が燃え残っている。


「これぐらいやればもう復活は出来ないかな」


 フィオレは戦いの終わりを確認すると、大剣を背の鞘へと納め、公太郎の前へと歩いていって手を差し伸べた。


「もう大丈夫よ。敵は倒したわ」


 公太郎はその手を掴まなかった。それどころか払いのけて立ち上がった。


「冗談じゃねえよ! 俺が倒すはずだったんだ!」

「公太郎ちゃん……?」


 公太郎の中には様々な感情が渦巻いていた。自分でもわけが分からず整理も出来ないままそれを目の前の少女へと叩き付けていた。


「余計なことしやがって! 俺だってあと一息で奴を倒せてたんだ! 助けてくれてありがとうなんて俺は言わねえからな!」


 公太郎は感情のままに吐き捨てると足早に洞窟を出ていった。



 外では吹雪が止み、昇り始めたばかりの朝日が雪山を淡く照らし始めていた。

 足を止めた公太郎の側にちっこい少女の姿をした神様が現れて声を掛けてきた。


「あれほど厳しく言わなくても礼ぐらい言えばいいのに。素直さをアピールして相手を良い気分にさせておくのも付き合いを円滑にするコツというものですよ」


 神様の話を公太郎は話半分ぐらいにしか聞いていなかった。


「分かってるんだよ、ありがたいってことぐらいは。でも、俺はもう誰かに甘えて頼るなんて生き方はしたくねえんだ。俺自身の力で切り開く。もう、そう決めてるんだからな!」


 公太郎は昇り始める朝日を一睨みすると、一人で穏やかさを取り戻した雪山を降りていった。

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