第12話 対決フリーザー
みんなが寝静まった夜の宿屋の薄暗い廊下を少女は足早に歩いていく。
フィオレは再び公太郎の部屋に向かっていた。
「時間のことを言い忘れていたわ。わたしってどうしてうっかりしているのかしら」
ファイタンとマホルスになら朝と言えばいつもの時間だからそれだけで伝わっていた。だが、公太郎がそのことを知っているはずはないのだ。時間を伝える必要があった。
「もう寝ているかしら」
目的地の部屋のドアの前で立ち止まり、しばらく迷う。
「まあ、いいか。無礼なのはお互い様なんだからね」
やがて、意を決して踏み込んだ。
「公太郎ちゃん、朝の時間のことなんだけど……公太郎ちゃん?」
その部屋に人の姿と気配はなかった。
「公太郎ちゃん、どこにいるの?」
フィオレはしばらく部屋のあちこちを探し回った。
その時、外で大きな音が響き渡り、フィオレは慌てて窓へ駆け寄って外を見た。
月明かりに照らされて山の方でもくもくと雪煙が上がっているのが見えた。
「まさか、一人で行ったんじゃ」
そう思いながらもフィオレは戸惑いを感じていた。
彼女にとって、自分との約束を破られることがあるなど全く想定外のことだったのだ。
その迷いが彼女の行動を遅らせていた。
公太郎は雪山へ来ていた。
「半チートの力じゃたいした道は作れねえか」
双剣をしまい、山頂への道を進んでいく。登るほどに吹雪が強くなっていくが、半チートの能力を持つ公太郎の進行の妨げになるほどではない。
そこにちっこい少女の姿をした神様が現れて声をかけてきた。
「公太郎、どこへ行くつもりなのですか? 朝まで待ってデートへ行くのではなかったのですか?」
「うっせえ。俺はあいつの犬じゃねえんだ。素直にはいそうですかと尻尾を振って後なんざついていってたまるかよ。この夜のうちに俺がフリーザーの野郎をぶっ飛ばしてやる。そして、俺は村を救った英雄になり、あいつは何も出来ないまま城へ帰るのさ。それがこの俺の目指すハッピーエンドというものだぜ!」
場所は分かっている。あの氷の鳥は山頂へと飛び去って行った。公太郎はその方向を目指して歩いていく。
「それもいいですけど、利用出来るものを利用するのも上に立つ者のあり方というものですよ」
神様は何とかしてフィオレを利用したいようだった。だが、公太郎はそれが不満だった。
「俺はもう誰かに問題を解決してもらう自分は卒業したんだ。俺は俺自身の力で前へ進む。それが今の新生公太郎なんだ!」
公太郎の決意に神様はそれ以上何も言わなかった。
雪の音だけが響く山道を進み、公太郎はやがて山頂付近へとたどり着いた。そこに黒い大きな洞窟が口を開けている。
「奴はこの洞窟の中だな。いかにもそれっぽい感じだぜ」
公太郎は自分の勝利だけを確信してその中へと足を踏み入れていった。
暗い凍えるような洞窟を抜けていくと、その先には綺麗に整えられた巨大な円形の広間があった。
何か不思議な力が働いているのか周囲の氷の壁はきらきらとした光を放ち、広間を明るく照らし出している。
その奥の祭壇のように一段高くしつらえられた場所に、公太郎の目指す敵は眠りについたように鎮座していた。
「お前がフリーザーだな」
公太郎の声を聞いて、巨大な氷の鳥は頭を上げて目を開いて見つめてきた。
『現れたか。神に選ばれし者よ。いや、お前は我らの神に選ばれし者ではなかったな』
自分の元に届いてきたその声に公太郎は驚いた。
「驚いたな、喋れるのか。俺は公太郎だ。この前は世話になったな」
公太郎はここへ来たばかりの頃に空へ連れ去られそうになった時のことを思い出して言った。氷の鳥はたいした興味はないといった感じに答えた。
『あのことか。あれは勘違いだったのだ』
「勘違いとはどういう意味だ?」
『お前から神の力を感じた。だが、違っていた。我はお前に用はない』
「用がないだと?」
『そうだ。我ら三魔獣は神に選ばれし者と戦うために各地で暴れ、その者が来るのを待っているのだからな』
「ふざけたことを抜かしやがる。お前らが待っているのはどうせフィオレのことなんだろうがな。この物語の主人公はこの俺なんだぜ!」
公太郎は双剣を抜いた。
「見せてやるぜ、主人公の力って奴をな!」
公太郎は走って一気に距離をつめて跳び上がり、動こうとしない氷の鳥の頭に剣を叩き付けた。
始め、それはびくともしないように思われた。だが、公太郎の半チートのエネルギーはそれを押し切った。
フリーザーの頭が地響きを立てて地へと叩き付けられる。氷の祭壇がひび割れ、地面と一体となって崩壊していった。
公太郎は剣を叩き付けた反動を利用して離れた場所へと着地した。
「どうだい? 目が覚めたか、この鳥頭野郎」
氷の煙が立ち上る中から、フリーザーはゆっくりと頭を持ち上げた。
『初めてだ……』
「あん?」
『この三魔獣を人が動かすのは初めてのことだ!』
起き上がったフリーザーは鋭い目つきで睨み付けてくる。公太郎は微動だにせず怯まなかった。それを見たフリーザーは興味深そうな目で見つめてきた。
『ほう、我が凍てつきの眼差しで凍らぬか。余興ぐらいには楽しませてくれるのだろうな?』
「あいにくと俺は余興を楽しむためにここへ来たんじゃないんでね」
『なに?』
「俺はお前を倒すためにここへ来たんだー!」
『いいだろう。ならばこの戦いを神へと捧げよう!』
フリーザーが大きく翼を広げる。一瞬辺りが不思議な色に輝いた。
「なんだ?」
その微かな違和感に公太郎が少し意識をそらした瞬間、フリーザーは氷のブレスを吐いてきた。
公太郎はその攻撃をジャンプしてかわした。
「めんどくせえ、チートさえあればかわす必要もないのによ。だが、これで終わりだぜ!」
公太郎は今度は本気の攻撃を放つ。1.5倍×3の威力を乗せた半チートの攻撃だ。
普通の攻撃でもあれだけ効いたのだ。これで終わるはずだった。
だが、その予想に反し、フリーザーの体はびくともしなかった。
「なに!? なんでだ!?」
『悪いな。今のわたしは油断をしていない!』
氷雪の嵐が公太郎を包み込む。公太郎はそのまま氷の壁へと叩き付けられていった。
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