第35話 俺

 ……やってしまった。

 来てしまった。

 混乱して頭が働いていない時に、スムーズに交替されてしまった。

 交替。

 何のことか判らないかもしれないが、聞いてほしい。

 信じられないかもしれないが、信じてほしい。

 先程の台詞は――『伊南クウ』のモノだ。

 でも、僕じゃない。

 一人称で言うなら……『俺』の台詞。


』ではない――『』。


「な……何なのよ……あんた……」


 僕の突然の変化に戸惑っている美玖。僕はそんな彼女の言葉を聞いたり、姿を視認したりすることは、このように述べている通り可能である。

 だが、


「何って、俺は俺で俺でしかないさ」


 応えることが出来るのは、今は――『俺』。

 その『俺』は唇の端を歪めて、言葉を紡ぐ。


「久しい羽と書いての『クウ』とは、今まで接してきていたがな。この『俺』とは初めましてだな、葦金美玖」

「初め……まして……?」

「驚いたか?」


 俺は口の端の歪みを大きくする。



「コイツが――この『俺』が、『クウ』を孤独にさせる病原菌にしてひょうきん、能力は暴力、活発でハツラツ、おっとCMじゃねえぞ。オフコース! 古いか。はっはっは! ってなわけで、俺の名は究極の雨と洒落まして


 ――『究雨くう』だ」

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