第15話 季節外れのサンタクロース

 大きな音が笑美の背後――暖炉の方から響いた。


 一瞬でみんなの視線がそこに集まる。

 何かが落ちた音。

 だが暖炉という構造から、煙突から何かが落ちて来たのではないかと容易に想像がつく。


「うぬ? 鳥でも――」


 落ちたのだろうか。

 笑美のその疑問の言葉は発せられることがなかった。

 絶句したからだった。

 先程の大きな音の後、ボスンと鈍い音がした。

 何かが落ちてきた音だった。

 ソレは歪に転がって、皆の視線に触れる所まで移動する。

 誰も悲鳴を上げなかった。

 それは実感が湧かなかったからかもしれない。

 そこにソレがあることが信じられなかっただけかもしれない。

 だけど、僕は知っている。

 ついこの間、同じようなモノを見たことがある。

 経験者はかく語りき。

 だから敢えて言おう。

 この転がってきたモノ。

 歪な長い肌色の物体。

 これは間違いなく――


「……


 人間の腕だ。

 腕だけだ。

 右腕だ。

 指は中途半端に曲がっている。

 肩から先は何もない。

 切断面は歪であり、所々内部の肉や骨が露出している。

 その色はどす黒く、生体反応など皆無だった。

 残念なことに僕は腕だけの状態のモノを見たことがここ最近であった。

 心が慣れていたんだと思う。

 だからすぐに暖炉の方にも目を向けることが出来た。

 普段使用されていないダミーの、インテリアとしての暖炉。

 煤がない。

 故に太陽光に照らされて、目を凝らせば明確になっていた。


 ――


 ただそれは足だけだったわけではない。

 その先も当然あった。

 だが、暖炉の大きさでは上半身がつっかえてしまい、足元しか見えていなかった。

 だが、そこに人がいるのは明白だった。

 ……いや、ある、と表現した方が良いのかもしれない。

 確かめる必要がある。


「おい久羽。何をするつもりだ」


 僕の動きを察した美玖が問い掛けてくる。

 だが答えず、暖炉へと足を運んでいく。


「おい!」


 美玖の怒鳴り声が聞こえる。

 他の人達が動いている様子は全くない。僕だって以前の経験が無かったらみんなと同じような反応だっただろう。

 だからこそ、動くべきだ。

 暖炉の前に立った僕は一つ大きく息を吸い、


「……」


 その足を引っ張って――引きずり出した。



 恐怖に歪んだ表情。

 濁った目を見開いたまま。

 口も半開きのまま。

 頭部から黒色に変色した血がこびりついている。

 だがそれでも、誰だかはハッキリと分かった。



 目戸日土。



 両腕を切断された彼の死体が、そこにはあった。

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