第10話 過去

 一瞬の静寂。

 後に、究雨の大爆笑。


「あーっはっは! おーっとかなり直球で来たね。もうちょっとオブラートやら何やらで包んでほしかったけれどっていう顔をしているよウチの相棒はよ」

(いや、どちらかというと呆けている方が強いんだが……)

「こまけえこたあいいんだよ。で、姉ちゃん」


 逆に究雨が身を乗り出す。


「かなりひどい質問していることは知っているか?」

「知っている。かなり突っ込んでいる質問をしているのも分かっている。だけど、ずっと気になっていたのよ」


 美玖の目は真剣だ。

 彼女がどれだけ意を決して問うたか、僕にはよく分かった。

 そして彼女は正しい判断をしていた。

 僕なら絶対に話さないことだから。


「ああ。だぞ、俺は」


 ――こいつは、制止する間もなくあっさりと話してしまったが。


(おい、究雨! 何で言ったんだよ)

「いいじゃねえか。ずっと隠しっぱなしで行くのか? あ?」

(だとしても、覚悟ってやつがな……)

「……どういうことなの?」


 美玖は眉間に皺を寄せる。無理もない。唐突にあんなことを言われたら誰だってこんな表情になる。

 更に助長するように、究雨は言葉を紡ぐ。


「俺――つうか。で、心が壊れて誕生したのが俺だ」

「なっ――」

「究雨!」


 思わず大声を出してしまった。

 そして人格を交代させてしまった。

 これ以上。

 これ以上は。


「喋るな……っ」


 自分で自分の太ももを殴る。

 その行為で究雨にダメージが与えられる訳ではない。

 だが、無意味だと判っていても、思わず手を出してしまった。


「……」


 当然、目の前の彼女は唖然とするしかないわけで。

 僕は頭を下げる。


「……ごめん。つまらない話をしたね」

「今は……久羽、か?」

「そうだよ。あいつは無理矢理引っ込めさせた」


 内部でギャアギャアうるさいが、あと二分もあれば大人しくなるだろう。あいつは寝ている方が多いから、そろそろ静まるだろう。


「さて、と」


 僕は彼女に向き合う。

 先程の唖然としていた表情から一転、真剣に僕を見つめる瞳がぶつかる。


「さっきの究雨が言ったことは嘘だ……って言っても信じないよね」

「信じる訳ないだろう。今ならばあっちの方が信用できる」

「そりゃそうだよな……」


 頭が痛い話だ。

 実際、うるさすぎて頭の中でガンガンと痛んでいるのだが。

 ……分かった分かった。

 覚悟を決めればいいんだろ。

 僕は大きく息を吸い、そして告げる。


「つまらない話だよ。それでも聞く?」


 美玖は静かに、だが確実に首を縦に振る。


「そうか……じゃあ、ちょっとだけ語るよ」


 心臓が痛い。

 やはり自分の奥底に引っ掛かっていることなのだと今更ながら強く感じる。

 誰かに話すのは初めてだ。



 僕の――罪を。

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