第2話.異世界ですか?
「ぶべふっ!?」
顔面に鈍い衝撃が走る。
一体、何なんだ?
突如の出来事に脳内処理が全く追い付かない。
部屋に自称魔王が現れたかと思えば、謎の空間に拉致られ、漆黒のダストシュートに投げ込まれた。
「いつつつ・・・・・・」
俺は強打した顔面の鼻頭を押さえながら、ゆっくりと状態を起こした。
「一体どこなんだよ、ここは・・・?」
辺りは薄闇に染まっており、宙に浮かぶ赤月から発される妖しげな光が不気味さに拍車をかけている。
周囲には、古びれ、壊れた墓標が無数に並んでいる。
帰りたい。
ここがどこなのか見当もつかない。
いや、まさかとは思うがここは、この世界は、あいつの言っていた異世界なのか?
不意にカラスの嘲笑うかの様な鳴き声が墓地に響き渡った。
帰りたい。
俺は素早く立ち上がると、がむしゃらに走り出した。冷静にならなければいけないと言うことは分かっていた。しかし、冷静にはなれない。なれるわけがない。
「お待ち下さい」
叫びながら走る俺の前に、謎の声と共に上空から何かが降ってきた。地面がクレーターの様にへこみ、凄まじい砂埃が巻き上がる。
「トオル様ですね」
もくもくと立ち上がる砂塵の中から姿を現したのは、一人の少女だった。
浅黒い肌に、対照的な銀色の毛髪。
全てを吸い込むような闇色の眼からは、儚さが感じられる。
整い過ぎた容姿も去ることながら、何よりも豊満な胸が凄かった。
「初めましてトオル様。私はアークデーモンのアトリスです」
少女は深々とお辞儀をすると、土まみれで尻餅をつく俺に目をやり。
「まずは・・・お風呂にでも入られますか?」
クスリと笑った。
前言撤回、帰りたくないです。
○
「これは・・・・・・」
アトリスに連れられてきた俺の目の前には巨大な城がそびえ立っていた。西洋風の古城で壁をツタが這っている。
「あちらの城がトオル様に住んでいただく居城です」
「住むって、俺がか? どうして?」
俺がそう問うと、アトリスは不思議そうな表情をした。
「先代からご説明を受けられて無いのですか? トオル様は二代目の魔王となられるのですよ」
魔王。
散々耳にしたフレーズ。本当にあいつは、あのおっさんは魔王だったらしい。
あいつの言っていた事は嘘偽り無いことだったということか。
「何で・・・俺なんだ?」
あのおっさんは曖昧な理由しか教えてくれなかった。まあ、あの時の俺は信じようとはしてなかったが。
「申し訳有りませんが、私めはそこまでは存じておりません・・・しかし、先代に選ばれた時点であなた様は魔王になられました」
アトリスが顔を俯かせて答える。
しかし、魔王。理由はどうであれ、この俺が魔王。
ここはそういった者が存在してもおかしくない世界のようだ。証拠にアトリスには二本の角と、一本の細い尻尾が生えている。人間ではない。
本当にここはスライムやゴブリン、ドラゴンの存在する異世界のようだ。
何かそう考えると興奮してくるな。
「アトリス、魔王って一体何をするんだ?」
俺は熱のこもった声で尋ねた。
まさか、人里や国を襲い、世界を闇に陥れるとかじゃないだろうな。
アトリスは一呼吸置くと、にこやかに答えた。
「はい、トオル様には魔王として世直しをしていただきます」
「は?」
聞き間違えだろうか、魔王とは正反対の様な言葉が聞こえたんだが。
「世直しです。トオル様には配下を率いて悪を討って頂きます」
どうやら聞き間違えでは無かったらしい。
世直し?魔王がか?
意味がわからん。
「何で魔王がそんなことを・・・?」
「はい、魔王であれば世間体や騎士、国家を気にすることなく悪を討つことが出来ます。勇者や冒険者では世直し等といった事は難しくなりますからね。悪を持って悪を討つ。これが、先代が魔王になられた理由です」
無茶苦茶だ。
しかし、確かに理には敵ってる気がする。多分。
「で、俺にそれをしろと」
「はい」
責任重大すぎる。
だが、配下がいるなら案外楽かもしれない。俺は戦場には赴かず、後ろで指揮をすればいいだけだ。
「配下、は一体どのくらいいるんだ?」
「私一人です」
アトリスが自分の胸を右手で押さえながら言う。
はい?
「一人って、アトリスだけ!?」
「はい。先代が晩年に配下を解散させました」
「何で!?」
アホかよあのおっさん!
「次の魔王の座を争って、戦争が起こる可能性があるからです。その為、遺産も存在しません」
嘘だろ・・・これじゃあ、無一文の無職と変わらないじゃねえか。
「ですので、トオル様にはまず配下集めをしていただきます。目標はただ一つ、悪を叩きのめす事です。共に頑張りましょう!」
帰りたい。日本に。
○
「うおおおおおおおおおお!!」
心地よい青空の下、草原に俺の絶叫が響き渡る。
昨日、魔王になった俺は配下集めに勤しんでいた。
魔王の俺は魔物と話すことが出来るそうで、会話を通して配下を募集しようとした。
しかし。
「アトリス! 助けてくれ!!」
「話し合いは上手くいかなかったのですか?」
「あの狼の第一声が『コロス』だぞ!? 話し合いの問題じゃねえよ!!」
背後からは数匹の狼が牙をむき出しにして追いかけてきている。
失敗した。話が出来るからといっても、仲良くなれるといった事はない。そんなことが出来るなら元の世界で友達いっぱいルンルンルン♪だっただろう。
「はあ、はあ・・・」
俺の微々たる肺活量も底をつきはじめ、今にも追い付かれそうになったそのとき、 アトリスは足をピタリと止めると、狼の方に向き直り、何かを唱えた。
「『魔衝破』!!」
アトリスの両手から放たれた暗黒色の衝撃破が狼達を襲う。
『キャウン!!』
狼達が宙に浮かび上がり後方に大きく飛んでいった。
そして、狼達は俺の視界から消えた。
アトリスはクルリと再びこちらを向くと、
「続けますか?」
「ノーです・・・・・・」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます