人間さまたちの事情
枕元のスマートフォンが着信を告げたのは、午前三時のことだった。
俺はそのとき古代迷宮リンドブルムの第七層を攻略中で、しかし突然天井から流行りのアニソンが聞こえてきたかと思うと足元で即死の罠が発動。
夢の中から強制ログアウトさせられる。
なんだ。
なんだよ。
誰だよこんな夜中に。
くそっ。
スマホの画面のまぶしさで死にそうになりながら、まぶたを狭めて相手の名前を確かめる。
……おいおい。
「……………………もしもし」
『おぉ
聞こえてきたのは高校のクラスメイトの普段とまるで変わらない声。
こんな時間に電話してきたことについて微塵も悪いと思ってないらしい。
もしかして何かあったのかと一瞬でも心配した自分がバカみたいに思えてくる。
「大丈夫なわけねぇだろ、いま何時だと思ってやがる……!」
『はあ? おまえ何言ってんのまだ27時だぜ? しっかりしろよ起きてるだろ普通』
「寝てたに決まってんだろこのバカ! LINEにしろ!」
『あぁ電話代の心配してくれてんのか? 今月の無料通話まだ残ってるから気にしなくていいぜ』
「そうじゃねえよ夜中なんだからメッセージ残しとけって言ってんだよ音声通信から離れろよ!」
ああくそ、怒鳴りすぎて完全に目が覚めてきた。
「ンでいったいこんな時間に何の用ですかねェ! 事と次第によっては友人関係を打ち切らせていただきますが!」
すると久住はあくまでも自分のペースを崩さずに用件を伝えてくる。
『あぁ。前から作ってた例のアプリ。G3Sだけどさ。さっき完成したわ』
「え、」黙る。眠気も怒りも全部どこかに行った。
「え、マジで!?」思わず両手でスマホを握りしめる。
『マジマジ。ネットで拾ったデータで適当に試してみてるけど結構ちゃんとした結果が出てる。あ、LINEで画像送るわ』
送られてきたのはアプリのスクショで、それを見る限り確かに上手くいっているようだった。
他はともかくアプリのことで久住が嘘やごまかしを口にすることはない。
つまり、本当に完成したのだ。あの冗談みたいなアプリが。
「久住」
『ん、なんだ?』
「お前、天才だな」
すると電話の向こうからけたたましい笑い声。
『まぁな! まかせろよ! じゃあまた今日学校でな! 放課後になったらテストしようぜ!』
通話が切れた。
室内に静けさが戻り、しかし身体の熱が引いていかない。
勝手に笑いがこみあげてくる。
やばい。やばいこれ。
ちょっとマジで眠れそうにない。
子供の頃の遠足の前の日みたいにどうにもじっとしていられず、何度も寝返りを打ってしまう。
こ……ここでスマホとかいじりだしたら完全にアウトだよな。
いいか、寝ろ。
寝るんだぞ、俺。
自分自身に命令して、無理やりまぶたを閉鎖する。
そうして訪れる暗闇。
――楽しい一日になりそうだった。
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