四章 俺たちにできること
雷神の挨拶
『初めてお目にかかる、人間諸君。我が名は火雷天神。この地に古くから住まう神の一柱である』
いったいどんな手段を使ったのか、放送中の番組に割り込んでテレビのディスプレイに大映しになっていたのは見間違えるはずもない男の姿だった。
慇懃な口調とは裏腹に、凍てつくような瞳には敬意など欠片も見当たらない。
「ウソだろ!? なんでコイツが――ッ!?」
愕然とした。
追風と顔を見合わせる。
『おそらくは神通力で電波そのものを作りだしたのじゃろう。かの神の操る力を考えれば、不可能とも思えぬ』
スマホから響いた雅比の声があくまでも冷静に推論を述べる。
そういうことか……!
『諸君、我々は怒っている。なぜなら諸君が我々への崇拝を忘れ、我々を追いやり、我々をないがしろにしているからだ。ここ数日続いている火事は、すべて我からの警告である』
連続放火魔の傲慢な告白に、街を焼かれた人々から激しい非難の声があがる。
火雷天神の言葉をまともに受け取ったものは皆無だっただろうが、それでも傷口から流れる血がまだ止まってない今の状況では到底聞き流せるものではなかった。
しかし火雷天神は視聴者たちの反応が見えているかのように芝居がかった様子で首を振る。
『だが、諸君らは度重なる警告を無視した。よって遺憾ではあるが更なる実力行使に出るとしよう』
瞬間、炸裂音と共にディスプレイが白く輝いた。
火雷天神の背後で何かが爆発したのだと遅れて理解する。
同時、久住たちとの通話がいきなり切断された。
急いでかけなおそうとスマホの画面を見下ろすと、しかしそこには電波が受信できない旨のメッセージが表示されている。
キャリア会社のトラブルか?
なんだってこんなタイミングで、と舌打ちしかけたところで不意に一つの想像が脳裏をよぎった。
まさか――!
「携帯の基地局をぶっ壊したのか……!?」
俺の悲鳴を聞きつけた周囲の何人かがスマホを取り出し、目を見開く。
『手始めに諸君らの”つながり”を破壊した。これで我が本気だと理解できただろう』
今度は非難の声は上がらなかった。
平日夕方のストリートはいつしか静寂に包まれていた。
電気屋の店内から流れてくるはやりの歌が空々しく響く。
『二日後だ。それまでに諸君らが考えを改めぬのなら、さらなる災厄がこの街を襲うだろう。覚悟を決めておくがいい』
その一言を最後に、火雷天神は姿を消した。
火雷天神からの干渉が解かれたテレビは何事もなかったかのように放送を再開するが、俺たちはすぐに動き出すことができなかった。
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