とある放送委員の憂鬱
近くにあったファーストフード店にて。
「ダメ。全っ然ダメ」
コーラに突き刺したストローをすすりながら、園村は大いにむくれていた。
「出火場所に火の気がないから放火だと思うんだけど、手口がわからないってみんなピリピリしてる。ネットにも全然情報が流れてこないし。どうでもいいような噂ばっかり」
「……噂って、たとえばどんなやつ?」
「どれも眉唾だよー。謎の教団の陰謀、他国の工作員が起こしたテロ、政府の秘密の計画、超能力者の攻撃、とかなんとか」
はぁぁ、と重たい息を吐き出す園村。
すげえな。どれもこれも神のしわざよりか、よっぽど現実味があるぞ。
「……のわりに元気そうだよなお前。珍しいかっこしてるし」
つまんだポテトの先を園村の服装へと向ける。
紺のジャケットにボトムス。インナーは白いシャツ。
わかりやすく言うと会社勤めのOLみたいな格好をしている。
「あ、これ? へへへ、かっこいいでしょ。安物だけどね。こういう服着て『国津東放送ですう~』って名刺出しながら言うと案外みんな色々喋ってくれるの。大人の魅力、どやー!」
言いながら本当にドヤ顔してくるので吹き出す。
たくましいやつだ。
「あ、そうだ。せっかくだしさっきのデータ、園村にも見せてみるか?」
「おお、あれか。そうだな」
俺の提案に久住も頷く。
俺はスマホを取り出し、警察官にも見せた火災現場で撮影した火雷天神の画像を表示させる。
「何これ。CG?」
スマホを受け取った園村は、首を傾げながら画像を指で拡大する。
「いや。火災現場で撮影したらふつーに撮れた」
「はぁ?」
何いってんのキミたちと言わんばかりの声に、俺たちは真剣に頷く。
俺たちの反応に園村は幾分まじめな顔になって画像をためつすがめつしていたが、やがて困ったように眉を下げる。
「悪いけど、信じられないよこれ」
「だよなぁ……」
肩を落とす俺たちに園村は少し思案した様子で、「まぁあたしが撮ってもそうなるなら別だけど」と続ける。
再現性があるかどうか、か。確かに。
でもこれは雅比が細工をしたスマホだからできることだしなぁ……。
そこで久住がはっと何かに気づいた。
遅れて俺も久住の考えを理解する。
そうか、園村ならもしかすると火狐神の話を真面目に受け止めてくれるかもしれない。
「園村、ちょっと今からうち来れねえ?」
久住が言うと、園村はわざとらしく自分の身体を抱きしめるようにしながらえへりと笑みを浮かべ、
「なぁにー久住ー? いきなり『うちに来ないか』だなんて、エロい!」
「ち、ちげーよ! ちょっと見てもらいたいものがあるんだって!」
大いにうろたえる久住。
そこで俺は気づく。
「あれ? 久住、火狐神ってノートパソコンに移動とかできねえの?」
すると久住は重大な見落としに気づいたと頭を抱える。
「あああそうか! そうだよな! なんで気づかなかったんだよオレ! ブラウザは対応してるんだし! ……あ、園村やっぱ来なくていいわ。明日学校持ってくから」
「えーなんだよー。せっかく久住の部屋で宝探ししようと思ってたのにー」
わりと残念そうな園村に、久住は絶対通してなるものかという顔になる。
「まぁわかったよ。明日学校でね。放課後になったらLINEとかで適当に声かけてー」
言いながら園村は席を立った。
どうやらこの後もなにか予定があるらしい。
「それじゃねー」
手を振って店を出て行く。
俺たちはスーツの後姿を見送りながら、
「一歩前進、かねえ?」
「わかんねえけどな。オレも一旦家に帰るわ。さすがに疲れたし」
ぐうっと身体を伸ばす久住。
「ああ、じゃあ今日はここまでにしとくか。お疲れ。また明日、学校でな」
店から出たところで久住とも別れた。
さて、こっちはどうするかな。
スマホを見ると午後二時半。中途半端な時間帯だ。
そんなに天気も良くないし俺も帰ろうかと考えていた時、道路の脇にバス停を見つけ、それで一つ用事を思い出した。
追風の母親のお見舞いに行くのだ。
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