ひとりだった君
1
君はいつもひとりだった。そんな君を、俺はずっと見ていた。
ひとりで、花を摘む君。
ひとりで、池の周りに来ては何かを眺める君。
ひとりで、散歩をする君。
ひとりで、動物たちと戯れる君。
楽しそうにしていた。笑っていた。
けど、時折見せる悲しげな顔を俺は知っている。
ほとんどの皆が知っている童話、赤ずきんちゃん。その話は知っている。だけど、その話と今の俺たちのことは関係ない。
俺はオオカミだけど、普通に村人と話すし協力して狩りもする。たまに物を交換したり、作物を一緒に作ったりもする。
仲が悪い?俺たちは危ない存在だと思われてる?
少なくとも、俺たちの中にはそんなものはなかった。だから、赤ずきんに俺の姿を見られたとしても、
「ひとりで、なにしてるの?」
こうやって、話しかけても大丈夫なんだ。
「……えっと、」
「いつも見かけるから、気になって」
なにかに納得したのか、ああと声を漏らす。
「私のこと、知ってたんですね」
「そりゃ、ひとりでいつもいるのを見たらね。誰だって気になってしまうよ」
少し眉を下げてしまった。
“ひとり”その言葉は、赤ずきんにとって言われたくないもののようだった。俺もいい気にはならないな。
いい子だと思うけどな。あんなに動物たちが懐くことも珍しいし、笑顔もふわりと優しい。小柄で、誰からも好かれそうなのに実際彼女の隣に人がいるのを、少なくとも森の中では見たことはない。村の中では、いたりするけど。
「ねぇ、君は寂しくないの?」
気づけばこんなことを言っていた。しまった、と思った時はもう遅い。目を少し開いて驚いていた赤い頭巾の君の姿が、あった。
「あ、っと……ごめん……その、」
動揺する俺に、ふっと笑みを零した君は俺の目を見て、
「寂しいです」
そう言った。
ストン……と俺の胸に落ちた言葉。それは重りとなって、ズキリと胸を一度だけ痛めつけた。
ああ、そうか。だから、時折悲しそうな顔をしてたのか。今わかった気がする、君の気持ちが。
「やっぱり、ひとりでいるのは寂しいです。こうやって動物たちと一緒にいても、どこかで誰かを求めてる。そんな自分がいるんです」
大人しく隣にいた子鹿を、優しく撫でると気持ちよさそうに目を細める。
「じゃあ」
ほっとけなかった。もう、そんな顔はしてほしくなかった。
「俺が、君の隣にいるよ」
そんな思いがあったから、口走ってしまった。
また、驚いた顔をした君を見て、俺は言ってはいけなかったのかと思った。迷惑なんじゃないかとか考えたり。
でも、そんな不安必要なかったようで。君はぱあっと顔を明るく輝かせた。キラキラと瞳が輝いているように見える。そんな気、だけど。
「ほんと、ですか?」
「え?う、うん」
俺から顔をそらして下を向いた。ちらっと覗くと、そこには頬をほんのり赤らめて口元を緩めていた。俺は、伝染したように顔が熱くなる。俺もきっと赤くなってるんだろう。
可愛い、ほわほわとした気持ちが溢れ出る。なんだこれ。
「……友達」
「ぅえっ……!」
「だっ、だめですかっ」
すみません……と、小さく呟く君がいて慌てて謝る。
「ごめん、考え事、してて」
「そうだったんですね、よかった」
「それで、さっきの続きって」
せっかく言おうとしてくれた言葉を俺は、遮ってしまったんだ。その罪悪感から、もう一回言ってくれるだろうか。そんな考えが浮かぶ。
「そばにいてもらっても、いいですか……?」
それはあまりに唐突で。さっきの言葉の続きとは違っていて、驚きを隠せないでいた。
さっきは友達……って言ってたよな?
でも、嬉しい。嬉しすぎる言葉。「友達になってほしい」その言葉よりも、もっと、もっと嬉しい。願ってもなかった言葉だ。
「お、おう。そばにいるよ、俺が」
そう言えば、ふにゃっとした笑顔を向けてくれた。胸が鳴る、聞こえるんじゃないかってほどの音で、一度だけ、バクリと――。
俺は、まだ見ぬ未来を想像した。これから、どんな季節が巡るのだろう。君がプラスされた一年になる。それはきっと、想像を超えた一年になる。俺は、それが楽しみで楽しみで仕方なかった。
「よろしく、赤ずきん」
手を差し出し、笑ってみせた。
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