第6話 ユキと遊び
ティアの美味しいお昼ご飯をいただいた後、俺は再び縁側でのんびりしている。何だかこの場所が俺のお気に入りになりそうだ。ティアは自分の部屋で勉強中だ、真面目でえらい子だな。はあぁぁぁ、ちょっと寝るか。食べたら寝るのが引きこもりの行動パターンなのだ。あの世に来ても身体に染みついたパターンは変わらないらしい。
しばらく目を閉じてぼーっとしていると近くで小さな声で誰かが俺を呼んだ。寝ぼけ眼で目を開けるとそこにユキちゃんが立っていた。
「あれ、ユキちゃん?おかえり、早かったね」
「あ、ただいま。私の学年はいつもこの時間で終わりなの」
「そっか・・・」
止まる会話。お、女の子との日常会話スキルを俺は持ち合わせていない!!一体何を話せばいいんだ!!
「あの、ユキちゃん」
「レイさん。私もレイさんと仲良くしたいと思ってるから・・・だから、これからはレイって呼んでいい?」
「うん、いいよ」
「にへへ~、私のことはユキって呼んで。呼び捨てため口が仲良しの基本なんだよ」
・・・どこで覚えたんだろう。
「じゃあ、ユキ。仲良しになるために何かして遊ぼうか」
「うん。いいよ!にへへ」
「何して遊ぶ?おままごととかかな」
「・・・レイ。私そんなに子供じゃない」
げっ!メーターが出た!!そうか、このぐらいの子は子ども扱いされることを嫌がるのか!
「そ、そうだよね。もうユキは立派な大人だもんね。じゃあ何して遊ぼうか」
「う~ん。鬼ごっこ、かな」
鬼ごっこはいいんだ・・・。俺は今日はもう散々、鬼(に弄ばれる)ごっこやったんだけどな。
「よし、じゃあ鬼ごっこしようか」
「最初はレイが鬼ね。よ~いドン!」
そう言うとユキの身体は光に包まれ超高速で空のかなたに消えていった。そ、それはずるくありませんか、ユキさん。
しばらくするとユキが戻ってきた。
「ごめんね、レイ。レイが人間だって忘れてた」
「あはは・・・いいんだよ。でも天使って飛ぶ時は背中に生えた翼で飛ぶのかと思ってたよ。そうじゃなかったんだね」
「うん。翼が生えるのはもっと成長してからだから、翼が生えるっていうのは天使として一人前になりましたっていう証なの。私の目標なの」
「そっか。翼の生えたユキ、きっと凄く可愛いんだろうな」
「にへへ、いっぱい頑張るから楽しみにしててね、レイ」
「うん。期待してるよ」
「じゃあ次はかくれんぼ。かくれんぼしよう、レイ。これなら天使と人間でも関係ないでしょ」
「そうだね」
「今度はレイが先に隠れて、家の中限定ね。10数えたら探しに行くね」
「よし、分かった」
かくれんぼか、懐かしいな。まだ俺に友達という存在がいた小さい頃はよく遊んだ記憶がある。それで俺だけ見つからなくて最後に置いて行かれたりして・・・はあ、何だか落ち込んできた。いやっ!今はユキとのかくれんぼに集中しよう。さて、どこに隠れようか。みんなの部屋に勝手に入るのは悪いし・・・よし!あそこにしよう。
やって来たのはトイレ。このトイレ今朝見たところ、便座の上に大きな収納棚があったはずだ。うん、あった。ここを開いてっと。中にはいくつかのトイレットペーパーとさっき買ってきたトイレ用の掃除道具が入っていた。まだ結構空きスペースがある。これなら物をどかさなくても入れそうだ。ここなら簡単には見つからないだろう。俺は収納棚に入ると息をひそめ、ユキが探しに来るのを待った。
「レイ~。レイ~」
ユキが俺の名前を呼びながら探し回っている。ふふ、ここだよ~。
「あっ、クロエ。お帰り」
「おう、ユキ。ただいま」
「クロエ、服。ちゃんと着なきゃだめだよ」
「ああ、そうだった。まだ慣れないなあ」
クロエが帰ってきたみたいだ。また裸だったのか。もしかして天使の学校って通っている生徒全員が全裸で勉強しているのか?ちょっと見てみたいかも。おっ、足音がこちらに近づいてくる。ユキが来るかな。
がちゃっとトイレの扉が開かれる。さあ、棚に隠れている俺を見つけられるかな?
棚の扉を少し開けて外の様子を見る。あれっ!?ユキじゃなくてク、クロエ!?これは見つかったらやばい!今朝の二の舞だ。
クロエは俺に気付かずにズボンを脱ぎ、ぷりっとしたお尻が露わになった。うわっ、凄く良いお尻だ。思わず触ってみたくなってしまう程に。ていうかノーパンかよ!?たしかに服を着る習慣が無いなら下着もはかないか。って冷静に分析している場合ではない。ここは微動だにせずクロエが用を足すのを待っていよう。
そして、トイレ内にはクロエが用を足す音が聞こえてきた。出来れば耳を塞いでいてあげたいけれど、それは体勢的に無理だった。ていうか身体がつっかえてしまってこのままのぞく体勢を取るしかないみたいだ。ごめんね、クロエ。でも悪気は無いんだ、許してくれ。しかし、クロエはいつの間にか上半身も脱いで全裸になっている。全裸でするタイプなのか?
「レイ~。レイ~」
ユキがまだ俺を探している。俺はここだぞ~。助けてくれ~。
「どうかしたの~?ユキ」
用を足し終えてトイレットペーパーを手に取りながらトイレのドア越しにクロエが聞く。
「うん。今レイとかくれんぼ中」
「あはは、随分と子供らしい遊びをしてるな~。よし、じゃあクロエお姉ちゃんが天使力を使ってヒントをあげよう」
「お願い、クロエ。絶対見つけるんだから」
ふ~む。ユキって意外と負けず嫌い?いやっ!それよりもクロエの天使力ってたしか!や、やばい!!
「よ~し、レイは今~わ・・・たしのすぐ上・・・に・・・。お、おい!!レイ!!今すぐそこから出てこい!さもないと~!」
「ごめん!!これには事情があって、別にのぞくつもりなんて全く無かったんだ!信じてくれ!!」
ぴんぽ~~~ん
ああ~・・・そうですよね~・・・。
怒りながらトイレから出ていったクロエと入れ替わりに青鬼が中に入ってきた。収納棚から顔を出す間抜けな格好の俺と目が合う。
「あ、どうも青鬼さん・・・今回は赤鬼さんは来ないんですか?」
青鬼は黙って頷く。どうやら青鬼は無口らしい。そして、青鬼は自分の隣を指差した。そこに立てってことかな?こ、怖いな~・・・。
俺はもぞもぞと収納棚から出て青鬼の隣に立った。そして青鬼は無言のまま棍棒をどこからか取り出し、それを振った。ああ、赤鬼に負けず劣らずいい振りです・・・。
はっ!
気付くと今朝と同じくトイレの前に倒れていた。
「レイ~、お前にトイレをのぞく趣味があったとは思わなかったな」
後ろを振り返ると腕を組んで怒り心頭のクロエがいた。
「違うんだ!誤解なんだよ!ユキとかくれんぼをしていて、トイレに隠れていたらクロエが帰って来てトイレに。だからたまたま偶然なんだ」
「でも見たんだろ、あたしの放尿シーン」
「う」
「そして聞いたんだろ、あたしのおしっこする音」
「うう」
「じゃあ、アウトだよな」
「はい」
長く美しいクロエの脚が俺に向かって振り落とされる。かかと落とし。お、お見事です・・・。俺はまたしてもトイレの前に突っ伏した。意識を失う直前、ユキの声が聞こえた。
「あ、レイ、見っけ」
夕暮れ。俺とユキ(とテディベアのホタテ)は家の近くにある河原に遊びに来た。やっぱり海は無いみたいだけど川はあるんだな。川の水は凄く浅いがとても透き通っていて夕暮れ時の太陽の光をきらきらと反射してまぶしい。ユキは川に入り水をぱしゃぱしゃと足で飛ばしては無邪気に笑っている。その光景は天使というより女神のようだ。俺はその姿をホタテと一緒に見守る。
「レイ」
「ん?」
「こっちきて」
お誘いを受け、俺も靴を脱ぎ川の水に足を浸けた。うわ、結構冷たいな。でも気持ちいい。ユキと一緒にぱしゃぱしゃと水を跳ねて遊ぶ。幼い頃から都会で暮らし尚且つインドア派だった俺は、川遊びなんてやったことなかった。
「レイ。楽しい?」
「うん。とっても楽しいよ。ありがとう、ユキ」
「にへへ、私も楽しい」
その笑顔がとても可愛くて、そしてたまらなく愛しい気持ちになった。思わずユキをぎゅっと抱きしめる。
「レイ?」
「ごめんね。ちょっとだけこうしててもいいかな」
「うん、いいよ。レイ、あまえんぼさんだね」
「あはは、そうだね」
何故か俺の目から勝手に涙が溢れて零れる。こんな愛しい気持ち、現世では一度も味わうことが無かった。この時、俺はこの子のことを絶対に幸せにしようと自分の心に誓った。もちろん他のみんなのことも。家に帰ったらまずはクロエに改めてちゃんと謝ろう。そしてみんなで楽しく夕食を食べよう。
「レイ。もう日が沈んじゃう」
「そっか。じゃあそろそろ帰ろうか」
「うん。ねえ、おんぶして」
「あれ?ユキ、飛べるのに?」
「いいでしょ~。今度は私が甘える番」
「あはは、いいよ」
日が沈み星が輝き始めた田舎道をユキ(とユキが抱きしめているホタテ)を背負って歩く。背中のユキは眠そうになりながらゆっくりとした曲調の鼻歌を歌っている。エリーゼの鼻歌もそうだったけど、天使の歌はとても良いな。ああ、なんていうか。俺は今とても幸せだ。
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