第4話 日常の始まり
朝。
昨日は色々ありすぎてよく眠れなかった。それにマンション住まいフローリングの床、ベッドで眠っていた俺にはこの木造の日本家屋、畳、布団で眠るということにも慣れていない。
それにしてもこの布団、やけにポカポカと暖かい。保温性能がいいのかまるで人肌の温もりのようだ。そういえば肌触りもふにふにとしている。
ふにふに。
ふにふに。
ふにふに。
ふに・・・・・・ん?何だこれ!?
がばっ!と布団をめくるとミリアが俺に寄り添うように丸くなって眠っていた。しかも、またしても裸で。
「もしかして、さっきのふにふには!・・・な、生巨乳のふにふにだっだのか?あ、あれが巨乳の感触・・・。・・・はっ!そんなことより、おい!ミリア!起きろ!起きてくれ!!」
ミリアの肩を揺らして必死で起こす。するとミリアは眠そうな目をこすりながらむくっと上半身を起こした。なるべくミリアの身体を見ないようにする。
「ん~・・・おはよう、レイ君」
「レイ?・・・ああ俺のことか」
さすがに改名2日目なのでまだ自分の新しい名前に慣れない。
「ああ、おはよう。・・・じゃなくて!なんで俺の布団で寝ているんだよ!そしてなんで裸なんだよ!」
「それはね~。一緒に寝ればもっと早く仲良しになれるかなって思って!えへへ、それと裸なのは天使は本当は裸の状態がデフォルトで・・・」
「それはもうエリーゼから聞いたよ」
「なので寝る時も当然、裸で眠るのが天使なんだよ~!」
「で、でも!これからは俺の側に近寄る時は必ず服を着ていてくれ!頼むから!耐性が無いんだよ!その、女の子の裸に対する!」
「ん~、よく分かんないけど、レイ君のお願いなら聞いてあげてもいいよ!その代り、ミリアのお願いもいっこ聞いてくれたらね!」
「お願いって?」
「それはね~。ミリアとちゅーして~!」
「・・・は?」
「ちゅ~だよ!キッスだよ~!」
「な、なぜ!?」
「だって、ちゅ~すればもぉ~っと早く仲良しになれるでしょ!これから一つ屋根の下一緒に暮らしていくんだから早く仲良しになっておいた方がいいでしょ!」
「それはそうかもしれないけど」
「んじゃあ、ちゅ~!」
「ま、待ってくれ!いきなりそんな心の準備が。それにそういうのはもうちょっと仲良しになってからのほうが・・・」
「え~!・・・いいのかな~」
「え?」
「ちゅ~してくれないと、鬼さんが来ちゃうかもな~」
「ぐっ!!」
「五つ数える内にちゅ~してくれないと来ちゃうかもな~、鬼さん」
な、なんて卑怯な!
ミリアは小悪魔的な笑みを浮かべこちらににじり寄って来る。そしてゆっくりとカウントダウンを始めた。
「い~ちぃ~、にぃ~い~」
ど、どうする俺!そりゃこんなかわいい子とちゅ~出来るなんて夢のようだけどそれでもなんかこういうのは違う気がするっていうか、なんの苦労もせずに美少女とキスをするっていうのは恋愛経験ゼロの俺からすると、いきなりヘリコプターでエベレストの頂上まで到達してしまったとでもいうべきか、そんな感じで嬉しいんだけどなんだかもどかしい!
「さぁ~ん~、しぃ~い~」
やばい!キスしなければまたあんな痛い目に!
「ご」
「ほっ、ほっぺでいいかな!」
「え?」
「その、いきなり口にキスはあれなので、最初はほっぺでお願いします!」
「しょうがないな~。んじゃあ、はい!」
そういってミリアは左の頬を俺に向ける。
ああ、なんかすべすべで柔らかそうなほっぺただな~。本当にいいのだろうか。しかし、しなければおしおきが。よ、よし!
ちゅっ。
ミリアの頬に微かに俺の唇が触れた。思った通りミリアの頬はすべすべしていてぷにぷにしていた。なぜかちょっと感動する俺。
「えへへ~、なんかちょっと恥ずかしいね!でも嬉しい!んじゃあ、服着てくるね~。あ!何か服装のリクエストある~?」
「ああ、じゃあ人間の女の子が普段着ているような普通の格好で頼むよ」
「は~い!」
そう言ってミリアは部屋を出ていった。
なんだか朝からとても疲れた・・・とりあえず縁側の雨戸でも開けて朝の光でも浴びようかな。
ガラッと雨戸を開けると目の前に裸のクロエが立っていた。
「う、うわぁ!!びっくりした!」
俺は驚いて後ろに倒れる。
「い、いつからそこにいたんですか!ていうかお願いですから服を着て下さい!!」
「ふふふ、ミリアとのやり取り見てたぞ~。レイってウブなんだな」
「う、うるさいな。しょうがないじゃないですか。現世ではそういうことには全く縁が無かったんだから」
「そういうことって?」
「だ、だからその・・・」
「こういうこと?」
そう言ってクロエは俺の上に乗っかり体重を掛けてきた。
う、うわっ。おっぱい柔らかいな。ってそうじゃない!
「ちょっと、こういうことは」
「したいんじゃないの?出来なかったんでしょ?現世では」
「したくないといったら嘘になりますが、でもいきなりは!」
「大丈夫。あたしも初めてだから。ね。初めて同士。気持ちよくなろ?」
「あ、あの~。でも!」
自分でも分かるくらいに顔が真っ赤に熱くなっている。
「ぷ。あははは!!あ~面白い!人間をからかうのって最高~!」
「え?」
クロエが俺から離れる。
「知り合ったばかりなのにいきなりそんなことするわけないでしょ~!!あははは!でも、あんたいいやつかもね。何となく分かった。これからよろしく、レイ!」
クロエは大笑いしながら去っていった。
か、からかわれたのか。く、くそぅ。なんか悔しい。でも、落ち込んでいても仕方ない。クロエのことも幸せにしないといけないんだ。さっきので少しは打ち解けられたのかな。よし!ポジティブシンキングでいこう!・・・大丈夫かなぁ?
「おはようございます!レイさん!」
そう言って今度はエリーゼが
良かった。ちゃんと服を着ている。しかもピンクのエプロン姿で可愛い。
「おはようエリーゼ。その恰好は?」
「みんなの朝ご飯をつくっていたのですよ!今出来上がったのでレイさんも早く来てください!」
「ありがとう!エリーゼ」
そういえば料理が得意って言っていたっけ。これは楽しみだな。と、その前にトイレに行っておこうかな。
俺の寝室と居間の間に位置するトイレに向かう。トイレは幸いぼっとん便所のような和式ではなく水洗のトイレである。ガチャッとドアを開けると中にいたユキちゃんと目が合う。その時、時が止まった。聞こえるのはユキちゃんの股間から流れ出るちょろちょろという聖水の音だけ。
「あ」
「あ、や、やあユキちゃん。おはよう」
「い、いや~~~!!」
ぴんぽ~~~ん。
ああ、ついにやってしまった・・・2回目だ。いくら裸を見られることを恥ずかしいと思わなくてもさすがに排せつシーンは見られたくないよね。今のは俺が悪かったよ。でも出来れば鍵をちゃんと掛けておいて欲しかったなぁ。
「よう、昨日ぶりだな」
振り返るとそこに赤鬼がいた。やはり凄い筋肉だ、とそんなことを言っている場合ではない。
「あ、はは・・・またお会いしましたね・・・」
「朝っぱらからお前も大変だなぁ」
「そ、そうですね。そちらも朝早くからお勤めご苦労様です・・・今日は青鬼さんのほうは?」
「ああ、あいつは朝が苦手なんだ。まだ寝てるんじゃねぇかな」
「そうですか・・・」
「ところで今日はこの新作の棍棒の威力を試してみてぇんだ。お前で」
赤鬼が取り出したのはそれはまあ見事な金の棍棒だった。
「まあ、なんて立派な・・・」
「だろぉ、なんせ純金だぜ。それじゃあ早速」
赤鬼が大きく振りかぶる。ああ、終わった。俺。自然と涙が頬を伝う。
ぐしゃっ。
「はっ!!」
目を覚ますとトイレの前に倒れていた。トイレのドアは開けっ放しで中にユキの姿は無かった。
「おはようございます。レイさん。朝から大変でしたね」
振り返るとそこに穏やかな微笑みを浮かべたティアが立っていた。ティアもちゃんと服を着てくれている。助かる。
「ああ、ティア。おはよう。まったくだね、はは・・・」
苦笑いで答える俺。
「ところで俺はどれくらい倒れていたのかな」
「そうですね・・・5分くらいでしょうか。ぐしゃっという音が聞こえてから」
「そ、そうか」
昨日は数時間倒れたままだったから慣れてきたのか?まあ、とりあえずトイレにいってそれからエリーゼがつくった朝食をいただこう。
「じゃあ俺は先にトイレに入ってから居間に向かうよ。また後で、ティア」
「はい。ではお待ちしております」
トイレに入りズボンを脱ぎ便座に座ると俺は大きなため息をついた。
はあぁぁぁ。
全く前途多難だ。
居間に入ると既にみんな集合していて大きなちゃぶ台を囲んで座っていた。ちゃぶ台の上にはザ・日本食といった朝食メニューが並んでいる。白飯に味噌汁、目玉焼きにシャケの塩焼き、そして海苔と納豆と醤油。凄く美味しそうだ。エリーゼは不満そうな表情だ。
「あ!レイさん!遅いですよ~!」
「ごめん!遅れちゃって。あんまり怒らないで~」
「もう!しょうがないですね。ではみんなでいただきますをしましょう!レイさんはこちらに座ってください」
「ああ、ありがとう」
俺は言われた通りにエリーゼとユキの間に座る。
「あ、ユキちゃん。さっきは本当にごめんね・・・」
「あ・・・だ、大丈夫です。私こそ鍵掛けるの忘れちゃって、ごめんなさい」
「う、うん」
全員が揃って座ったところでエリーゼが音頭を取る。
「さぁ~て!今回がみんなとの初めてのごはんタ~イムですよ!これからみんなと一緒に仲良く暮らしていけるように、そしてみんなの増々の健康と発展を願って!いただきま~す!!」
「「いただきま~す」」
なんだかよく分からないエリーゼの演説で朝食が始まった。健康って、俺はもう死人なんだけどな。
もぐもぐ・・・うんっ、美味しい。自分で得意だといえる程の味だ。それに誰かがつくってくれた手料理を食べるなんて久しぶりだ。母親はあまり料理をしない人だったし俺のために料理をつくってくれる女の子なんてもちろん一人もいなかったわけで。うう・・・なんだか泣けてきたなぁ、こんな美少女が俺のためにこんなに美味しい料理を・・・。ああ、死んで良かったかも。
「レイさんお味はどうで・・・え!?何で泣いてるんですか!?美味しくなかったのですか!?」
「いや、逆だよ、エリーゼ。こんな美味しい料理初めて食べたよ。ありがとう、エリーゼ」
「そうなのですか。それならとっても良かったです!いっぱい食べてくださいね!ご飯とお味噌汁はおかわりもありますよ!」
「うん、本当にありがとう!でも、日本食なんてよくつくれたね」
「はい!レイさんのために本を読んで勉強したのですよ~!あ、他のみんなはお口に合いましたか?」
テ「ええ、わたくしはとても美味しくいただいていますわ。特にこの深緑色の板状の物体が美味しいですね」
ずいぶん渋いチョイスだな。
レ「物体って・・・それは海苔だよ。ティア。海藻を乾燥させたものなんだ」
テ「海藻?」
レ「海藻っていうのは海に生えている植物で」
ミ「海ってなぁに?レイ君」
レ「え、海を知らないの?」
ク「天界に海は無いんだよ、レイ」
レ「そうなんだ」
エ「ミリアちゃん、海はこの前習ったじゃないですか。現世にあるそれはとても大きい水たまりのことですよ。ね!レイさん」
レ「まあ、だいたいそんな感じ、かな」
エ「ユキちゃんは美味しいですか?」
ユ「うん。やっぱりエリーゼはお料理得意だね」
エ「ありがとうございます!」
ユ「このオレンジのが好き。ちょっとしょっぱいけど美味しいな」
レ「それはシャケだね。海を泳いでいる魚っていうやつだよ」
ク「なんだか海ばったりだな」
レ「日本は海で囲まれた島国だからね」
ミ「へぇ~行ってみたいなぁ~」
テ「ふふ、ミリアさんたちはまだ現世での研修はしたことありませんものね」
レ「そういえば気になってたんだけど、みんなは前から知り合いだったの?」
ミ「うん!そうだよ。ミリアたちはみんな第6天使学校の生徒なの」
エ「私とミリアちゃんが同じ学年でユキちゃんが一つ下、クロエさんとティアさんが一つ上です」
レ「へえ、みんな学校に通っているんだね。だからみんな年齢が若いのか」
ク「いや、天使に年齢っていう概念は無いよ。天使は全て階級で決まるんだ」
レ「階級?」
テ「天使としての適性や日々の行いを評価され階級を上げていくことでわたくしたちは外見も心も成長していくんですよ。学校では階級は学年ということになりますね」
レ「へえ、知らなかったよ。じゃあ、みんながまだ若い女の子の姿っていうことは」
エ「まだ私たちは天使として未熟者ってことですね」
ク「だから学校で勉強してるんだよ。この同居生活だって学校から課せられたミッションなんだ。天使として人間とも上手く付き合っていけるようにっていう」
レ「そうなんだ」
ユ「私も勉強頑張って早くティアやクロエみたいなお姉さんになりたいな」
ミ「そうなんだよ・・・勉強せずに留年するといつまでも成長できずこの姿のままになっちゃうんだ~!」
ク「ミリアはいつもテスト赤点ぎりぎりだもんな」
いつまでも若いままっていうのは現世の女性なら泣いて喜ぶだろうな。天使の価値観はまた違うんだろう。
エ「そうですね。現世と冥界では価値観やシステムも色々と違ってきます」
レ「あ、読んでたんだ。心」
エ「あ、すみません。今の私では自分の力をコントロール出来ないのです。なので常にレイさんの心を読めてしまうのです。プライバシーの侵害ですよね。ごめんなさい」
レ「コントロール出来ないならしょうがないよ。あんまり落ち込まないで、ね?」
エ「はい。レイさんは優しい方ですね」
エリーゼと微笑み合う。だがその優しい時間はうめき声によって掻き消された。見るとうめき声はクロエが発していた。
レ「ど、どうした!クロエ!」
ミ「だいじょうぶ~?」
ク「な、何だこれ・・・」
クロエが手にしているものは納豆だ。
レ「ああ、それは納豆っていって」
ク「た、食べるものなのか・・・」
レ「そうだけど。ああでも食べ慣れていないと合わないかも」
ク「それを・・・食べる前に・・・言ってくれ・・・もうだめだ・・・ぐは」
ぴんぽ~~~ん
レ「え!?何でチャイム!?」
テ「残念ながらレイさんが直接関係していなくても、わたくしたちが悲しみや過度のストレスを感じてしまった場合おしおきとなってしまうんですよ・・・お気を付けになってください」
レ「そ、そんなのどうやって気を付けたら!」
赤「よう」
赤鬼登場。
レ「お、おう」
ぐしゃっ。
「では!レイさんのサポート役としてこの私、エリーゼがレイさんに便利な能力をお授けしましょう!!」
エリーゼが胸を張り少し大げさに言う。
「ありがとう、エリーゼ。で、どんな能力なのかな」
「ふふ~ん、それはですね~。これです!!!」
そう言うとエリーゼは右手の人差し指をズビシッ!っと俺に向かって指した。すると、指の先端から何やら光がほとばしる。次の瞬間その光が俺を包む。
「うわっ、びっくりした。あれ?エリーゼの頭の上に何か出てるよ?」
エリーゼの頭の上には半透明のウィンドウで何かのメーターが2つ浮かび上がっていた。それぞれのメーターの上には泣いている顔のアイコンと怒っている顔のアイコンが付いている。
「これはですね!悲しみ&ストレスメーター!なのです!それぞれのメーターが今その天使が感じている悲しみ、ストレスの値を表していてこのメーターが満タンになってしまった時、鬼さんが来てしまうというものです!あ、それから常にメーターが出っ放しですと色々と邪魔だと思いますので、普段は見えなくしておいて感情に変化があった時にだけ自動で現れるようにしておきますね!」
「へえ!それじゃこれで少しはおしおきの回数も減るかな。ありがとう、エリーゼ。でもこんなものがあるならもっと早く出してくれればよかったな」
「えへっ、この能力大天使様から預かっていたのですがついさっきまで忘れていたのです。すみません」
「ああ、そうなんだ・・・」
エ「それではみなさんごちそうさまでした~」
「「ごちそうさまでした~」」
エ「それではレイさん、私たちは学校に行ってきますね!食器を洗うのお願いしてもいいですか?」
レ「ああ、うん、いいよ。いってらっしゃい」
ミ「いってきま~す!」
ユ「いってきます」
ク「いってくるわ~」
4人の身体が光に包まれ、その光が外へと飛んでいった。
「あれ?ティアは行かなくていいの?」
「はい。わたくしは今日の授業は既に履修済みですのでお休みなんです。ですから洗い物、お手伝いしますよ」
「ありがとう、ティア。助かるよ」
こうして俺とティアは6人分の食器洗いを始めた。
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