第2話 目覚めた場所は・・・

 眩しい・・・

 何かの光が見える・・・

 それが段々と大きくなる・・・

 いや、近づいてきているのか?

 すごく、猛スピードで。


「うわ!眩しい!!」


 その光が俺に一直線に向かってきてぶつかりそうになり、俺は慌てて飛び起きた。


「こ、ここは・・・?ここが?」


 辺りを見回すと一面が草原だった。雲一つない青空の下、爽やかな風が穏やかに吹いていた。


「はい!そうですよ。ようこそ、中間の世界へ!」


 何処かから元気な女の子の声がする。もう一度辺りをきょろきょろと見回してみたが何処にも誰もいない。


「何処かではなくここですよ!あなたの目の前です!」


 どうやら俺の前に漂っている光の塊から声がするようだ。目を細めながらその光の塊を見つめていると光は徐々に姿を変え、やがてそれは女の子の形になり光が収まると完全に女の子になった。

 金髪のツインテール。まだ十代前半と思われる幼い顔。凄くかわいい。物凄く。ちょっとハーフっぽいな。それから裸で何も着ていない。そう、裸だ。そして貧乳だ。

裸だ。

貧乳だ。

裸だ。

裸かよ!なんで?!


「ちょ、ちょっと何で裸なの!?ていうか君は誰?ここは何処?俺はどうなってしまったんだーーーっっっ!!」


 大草原に俺の空しい絶叫がこだまする。


「お、落ち着いてください!今から一から説明しますから!」

「ていうかまず君は何か服を着てくれ!!」

「え?服ですか?ああ!すみません、現世の人間は服を着ているんでしたね。えーと、羞恥心ってやつですよね!学校で勉強しました!天使は裸の状態がデフォルトなので、失礼しました!じゃあこれでいいですか?」


 そういうと女の子の身体が一瞬また光に包まれた。その光が弾けるとさっきの女の子が服を着て立っていた。何かアニメの魔法少女みたいな服だな。まあ気にしないようにしよう。


「あの、本当にここはあの世なの?俺は死んだんだよね?」

「はい!あなたは悲しいことに事故にあって死んでしまいここにたどり着いたのです。そして私は天使。あなたのサポート役ですよ!よろしくお願いします!」

「天使?翼とか頭の上の輪っかとか無いけど」

「ああ、翼はこれから生えてきます。その予定です。そうなるといいな~って思っています。それと輪っかは人間が勝手に妄想した天使のイメージなので。本物はこんな感じなんですよ」

「そうなんだ。でも天使がいるってことはもしかしてここは天国?やった!!これから幸せな生活を送れるんだ!」

「いーえ、残念ながら天国ではありません。一応ここは天国と同じ天界の一部ですが先程も言った通り、中間という場所です」

「え?何がちがうの?」

「ここは天国に行く程良い人ではなく地獄に行く程悪い人ではない人たちが集う場所。正式名称は天界管轄第12管区中間人魂生活区域といいますが長いのでみんな中間と呼んでいます」

「はぁ・・・。そ、それでここでの生活は天国みたいに幸せなの?」

「それはあなた次第です!」

「俺、次第?」

「はい!ここ中間で生活する人間にはそれぞれに一つの使命が与えられるのです。その使命を果たしている間は幸せな日々を過ごすことが出来ます」

「もし使命を果たせなかったら?」

「その時は~・・・。おしおきが」

「おしおき?」

「地獄の、おしおきです」

「い、嫌だー!死んでまで辛い思いをするなんてー!!」

「で、でも使命を果たしていれば大丈夫なのですから!」

「その使命って?」

「それはまた後で説明します。取り合えずこんな場所で長話もあれですから、あなたがこれから暮らすことになるお家へ案内しますね」

「ああ・・うん・・お願いします」


 使命。一体どんな使命なのだろうか。天使からの使命だから一日何回人助けをしなさいとか?まさか毎月高額のお金を納めなさいとか。ていうかそもそもあの世にお金というものがあるのか?

 ごちゃごちゃと考えながら歩いているうちに辺りにはちらほらとレンガや石造りの家が見えてきた。その風景はインターネットで見たヨーロッパ辺りの田舎の風景に似ていた。鼻歌を歌いスキップをしながら歩くご機嫌な天使はやがて一軒の家の前で立ち止まる。


「ここが今日からあなたが暮らすことになるお家です!」


 その家は白い木造住宅で思いっ切り日本建築で辺りの風景からはこれでもかという程浮いていた。


「あなたは生前、日本という国に住んでいたと聞いていたのでその国の建築様式のお家にしておいたのですよ!」

「あ、ありがとう。とても素敵なお家だね・・・」

「ほら!見てください!縁側、縁側ですよ!日本人の憧れなんですよね!」


 そ、そうなのか?聞いたことがないぞ。


「え、そうなのですか?私、間違っちゃいました?」


 天使から笑顔が消え表情が曇る。


「い、いや。そんなことないよ!うれしいよ!え、ていうか今の何で?声に出てた?」

「あ、私の能力です。私、すぐ側にいる人間の心の声が読めるのですよ。天使には一人一人このような能力、天使力てんしぢからというものがあるのです」


 うわあ、めんどくさい。


「めんどくさいですよね。ごめんなさい・・・」


 そう言って涙目になる天使。


「ち、違う!こっちのほうがごめん!!」


 慌てて必死に謝る。とその時。


ピンポーーーン!


 とチャイムの音が鳴った。


「な、なんの音だ!?」


 すると俺の目の前に突然、闇の塊とでも言うべき黒い雲が現れた。それは次第に渦を巻きながら大きくなっていき中から2体の鬼が現れた。

 そう、それは一目で鬼と分かる程イメージ通りの鬼だ。身長は2メートルを優に超え漫画で見る様なガチムチな身体の色はそれぞれ赤と青、赤鬼の方は角が2本に目が2つ、青鬼の方は角が1本に一つ目。片手にトゲトゲが付いた太い棍棒をそれぞれ1本ずつ。さっき見た小柄な黄鬼とは全く違っていた。

 突然現れたそいつらのインパクトは凄まじく俺は腰が抜け、しりもちをつきながら開いたままの口から声にならない叫び声を上げていた。


「よう、はじめまして」


 赤鬼が野太い声で挨拶をした。


「それじゃあ、さっそく最初のおしおきやっちゃうぜ」

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!一体どういうことですか!」

「なに?ちょっとエリーゼちゃんまだこの人間に説明してないの?」


 赤鬼が振り返り天使に質問する。あの天使、エリーゼっていう名前なのか。可愛くてよく似合っている名前だ。いや、今はそんなことより何処かに逃げた方がよさそうな。で、でも立ち上がれない!


「はい、すみません。まだここに着いたばかりで」

「じゃあ、ちゃっちゃと説明しちゃって」

「はい、それでは」


 天使エリーゼが目の淵に溜まった涙を拭う。


「では説明します!あなたの使命はずばり担当の天使を幸せにすること!天使を幸せにしている間はあなたも幸せに暮らせるのです。ですが先程のように天使を悲しませたりストレスを溜めるような行動・発言をしてしまうと地獄のおしおき、つまり鬼さんからの暴力的制裁が待っているのです」

「そ・・・そんな・・・」

「はいじゃあ理解したところで最初のおしおき始めるぜ」


 赤鬼は俺の前に来ると、手に持った棍棒を振りかぶった。


「ちょちょちょ!!そんなので殴られたら死んじゃうじゃないですか!!」

「何言ってんだお前。お前もう死んでるじゃねえか」


 そうだった。


「で、でも・・・」

「つべこべ言うな。ちょっと黙ってろ」


 赤鬼はバッターのように再び棍棒を振りかぶる。


「じゃあ、いっくぜー!」

「嫌だーーーーーー!!」


 がきんっ。


 ああ、俺、今、飛んでるよ~。全身が痛いな~・・・ばたっ。



「あ!気が付きましたか!よかった~」


 目が覚めると布団の中にいた。枕元には天使エリーゼの姿。


「ここは・・・?」

「お家の中ですよ!赤鬼さんが運んでくれたのです!最初だけのサービスって言ってました」

「そうだ!俺の身体は!」


 飛び起きて身体を調べてみたが何処にも傷跡らしきものは見当たらなかった。


「あれ?なんで?傷一つ付いてない」

「それはあなたはすでに死んでいますから。身体に傷を負うことはありません。でも感覚はそのままなので痛みとかは感じるのです」

「そうなんだ」


 それじゃあ俺はこの天使を悲しませる度にあんな思いをしなければいけないのか・・・


「そういうことになっちゃいますね」

「あ!そうだ、聞こえるんだったね。心の声」

「はい。ご迷惑をお掛けしてすみません」

「いや、そんなことないよ!」


 俺は少し無心になり心を落ち着かせ覚悟を決めてエリーゼの前に正座した。


「エリーゼ!」

「は、はい!」

「あの、何にも出来ない俺だけど、その、出来る限り精一杯、君を幸せにするから!だから、これからよろしくお願いします!!」

「はい!!こちらこそふつつかものですがよろしくお願いします!」


 エリーゼが満面の笑みで俺を見つめる。可愛い、まるで天使だ。あ、天使だった。


「あ、でも私だけじゃなくてみんなのこともよろしくお願いしますね!」

「え?みんな?」


 すると俺の頭上に光が4つ現れた。そしてそれぞれの光が女の子の形になるとそれらが俺の上に降ってきた。


 どかっ。

 どかっ。

 どかっ。

 どかっ。


 いって~。な、何なんだ?やたらと柔らかくて温かい。って!?

 それは4人の女の子だった。そして全員裸だった。

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