天使といっしょ!!

@selec

第1話 俺と死と冥界

 真っ暗な部屋に目覚まし時計の音が鳴り響き、俺は渋々と起き上ってそれを止めた。蛍光している時計の文字盤を見ると午前9時、こんなに早い時間に目を覚ましたのは久しぶりだ。最近は完全に昼夜逆転生活だったからな。この部屋の暗さを見ると、この間通販サイトで買った遮光カーテンは正解だったみたいだな。外の様子をうかがおうとそのカーテンをめくると強い太陽の光が俺の目を射した。うわっ、眩しい。いい天気だ、俺の心の中とは裏腹に・・・。さてと、準備をしなくちゃな。


 昔から俺は何故か自分の人生に興味を持てなかった。どうせいつかは死んで全てが無になると思っていたから?どんなに頑張っても俺なんかじゃどうせ大した人生は送れないと思っていたから?それは分からないが、とにかく何に対しても無気力でいた。そんなんだから当然人間関係も薄く、ずっと一人ぼっちだった。そして高校生の時には遂に家に引きこもるようになり、孤独はさらに増していった。何とか出席日数ぎりぎりで高校を卒業したが、その後は特に進学するでもなく、就職するでもなく、またアルバイトをするでもなく、そのまま家に引きこもっていた。そして遂に先日、親から「働かないなら、家から出ていけ」と言われ、今日俺はハローワークへ行くことになった。最初は死ぬことも考えたが、生存本能に打ち勝つことは俺には出来なかったのだ。


 誰もいないリビングで簡単な朝食を食べ、洗面所で歯を磨き、伸びっ放しの髭を剃り、寝癖を軽く整える。あっ、外に着ていく服が無い・・・。まあ、適当なのでいいか。それにしても外出なんてどれくらいぶりだろうか。う~ん、覚えてない程に久しぶりだってことだな。


「行ってきます」


 玄関に立ち振り返ってそっと呟いてみたが、平日の昼間だから当然家族は全員学校か仕事で誰もいないので、返事はなかった。いたとしてもあるかどうか。

 家を出て電車に乗るため駅に向かう。ああ、何か緊張してきたな。家族以外の人と話すのも久しぶりになる。上手くしゃべれるかな。というか声出るかな。ああ、もう帰りたい。

 駅に着き階段を上って中に入る。うわ、人間が沢山いる。切符を買って改札に向かう。行きたくないな、帰りたいな。俺は改札の前で立ち止まった。身体がそこから先に進むのを全力で拒んでいる。手も足も動かせず固まってしまった。


「あの、すみません。早く行ってくれませんか」

「あっ!!ご、ごめんなさい!!」


 後ろの人に急かされて慌てた俺はいつの間にか反対方向へと走り出していた。やっぱりだめだ、帰ろう!

 階段を下りてバスターミナルに飛び出した。その時、俺の視界に大きくバスが映し出された。そして聞こえる大きなクラクションの音。俺は悟った。ああ、俺死ぬんだな。そう、この世界で上手く生きられないなら、それでいいのかもしれない。何にも無い、つまらない人生だった。次はもう少しまともな人間に生まれ変わりたいな。

 強い衝撃の後、俺の意識は無くなった。。。



 はっ!・・・・・・ここは。あれ?意識がある。生きていたのか?俺。前方に人の行列が見える。何を待っているのだろうか。


「はい、お兄さん。ちゃんと並んでね」


 小柄の男が俺にそう言って、行列を指差した。やけに黄色いひとだな。全身黄色だ。それに頭の上に角のようなものまで付けている。何かのコスプレか?俺は家に帰りたいんだけどなぁ。でもこの場所が何処か分からない。何かゲームに出てくるの神殿のような場所だ。こんな場所、家の近くにあったかな。仕方ない、とりあえず並ぶしかない。

 俺は列の最後尾に並ぶ。そういえば列に並んでいる人はみんな同じ白い着物のようなものを着ている。あれっ?俺も同じ服だ。どうして?

 何が何やら分からないまま列はどんどんと前に進み、俺は神殿の奥へと入って行った。奥には物凄く大きな扉があり列の先頭はそこで終わっていた。そこにはさっきのコスプレと同じ格好の人がいて、一人ずつ順番に白い着物の人を大きな扉の端についている普通の大きさの扉の中へと案内していた。この扉の中に何があるんだろうか。やばい、また緊張してきた。

 やがて俺の番になり、扉の中に案内された。そこには綺麗な彫刻が施された大きな柱が何本も並び立ち、部屋の真ん中には血のように真っ赤なカーペットが道のように敷かれていた。そしてその道を辿った先の部屋の最奥にはこれまた大きな玉座があり、そこに一人の大男が座っていた。その大男を見た瞬間、俺は自分が死んだのだと悟った。何故ならその大男は誰もが想像した通りの閻魔大王そのものだったのだ。俺は死んで、今から閻魔大王の裁きを受けるのだ。

 俺は赤い道を進む。閻魔大王は恐ろしい見た目をしていたが、何故か怖いとは思わなかった。なんでだろう、この部屋に入ってからは心が落ち着いている。そして俺は閻魔大王の前に辿り着いた。閻魔大王が口を開く。


「え~、次の者は。うむ、若いな。先程まで来る者は爺さん婆さんばかりだったからな、ははは。だが、ぎりぎり子供の年齢ではないな。少年法は適用されんぞ」


 閻魔の裁きにも少年法があるのか。


「それにしてもお前の人生記録は真っ白だな。何もせずに生きてきたのか?もったいない」

「あはは・・・すみません」

「悪事もせず良い事もせず、というより本当に何もしていないではないか」

「あはは・・・」

「う~む、これでは天国へも地獄へも行かせられぬ」

「えっ。・・・では、俺はどうなるのでしょうか」

「お前は行きだ」

「えっ?何ですか、それ」


 俺の問いには答えず、閻魔大王は木槌をがんっと鳴らす。


「おい、黄鬼よ。早くこいつを連れていけ」


 閻魔大王の言葉を受け、さっきの黄色いコスプレの人が2人こちらにやって来て、俺の両脇を掴んだ。そうかっ、ここが死後の世界であの人が閻魔大王ならこの黄色い人は人間じゃなくて、本当の鬼!鬼というよりはゴブリンって感じだけど。それでも俺を引っ張る力は相当強かった。


「あ、あの!ちょっとまだ聞き足りないことが!」

「ええい、後は向こうで担当の天使が説明するだろうから、心配いらん。さっさと行け」


 黄鬼に抱えられ俺は別の部屋へと連れてこられた。その部屋には宙に浮いた謎の扉が3つあった。俺はその真ん中の扉の前に立たされる。扉の中は光と闇が渦巻いていて異様な光景だった。


「お前はこの中に進め」

「は・・・はい」


 だ、大丈夫なのかなぁ。


「さっさと行ってくれ、よ!」


 黄鬼が俺の尻を蹴り、俺はその勢いで扉の中に飛び込んでしまった!中は重力があべこべで俺はいろんな方向へ引き寄せられたり、突き放されたりしながら、落ちていったり、上っていったりした。よ、酔って気持ち悪くなってきた・・・い、意識が・・・。俺は意識を失った。

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