第9話 エリーゼと夜の散歩

 「「いただきま~す」」


 みんな揃って夜ご飯。やはりこの世界には個性的な動植物が溢れているようだ。しかし、一々驚いていたのではきりがないので、俺はこの世界の食材に関して心を閉ざすことにした。料理をしてくれるエリーゼとティアなら変なものは出してこないだろうし、味は悪くないものばかりだから。料理として味の部分だけを見るんだ俺。

 そうして俺は、何かの動物の肉を箸でつまんだ。何か色がめっちゃオレンジだけど・・・オレンジだけど、でも気にするな。俺。ぱくっ。・・・うん、やはり味は悪くないな。食感がちょっとナタデココっぽくて癖があるけど。


エ「今日のお料理はいかがですか?レイさん」

レ「うん。美味しいよ、エリーゼ」

エ「それは良かったです!」

ク「ところでレイ。今日のミリアとのデートはどうだったんだ?」

テ「あ、わたくしも聞きたいです。色々あったのでしょう?」

レ「あはは、大変だったけど楽しかったよ」

ミ「ね~!」

ユ「おかわり」

エ「はい、ちょっと待ってくださいね」

ク「それで?あたしは特にその大変だった部分を聞きたいな」


 俺はみんなに今日あった出来事を順番に話した。まずは小さな汽車に乗っていた人間のおじさんのこと。


エ「ああ、その人は大五郎さんという方ですよ、きっと。何でもこの中間に来てからもう100年以上その小さな汽車に乗っているみたいです。中間のちょっとした有名人みたいですよ。私はお会いしたことありませんが」

レ「へえ、あのおじさんが」

ク「やっぱりタンクトップ着てた?」

レ「うん、着てた」

ク「あはは。あの人いっつも同じ格好なんだってさ。一体タンクトップ何枚持ってるんだよって話だよ」

ユ「おかわり」

エ「はい、ちょっと待ってくださいね」


 次は洞窟で見た素晴らしい光景について話した。


ミ「本当に綺麗だったよね~!」

レ「うん。綺麗だった」

テ「いいですね~。今度はわたくしも連れて行ってくださいね」

ミ「じゃあ今度はみんなで行こうよ!きっと楽しいよ」

ク「気が向いたらな」

ユ「おかわり」

エ「はい、ちょっと待ってくださいね」

レ「ユキ。よく食べるね」

ユ「成長期」

レ「自分で言うんだ(ていうか天使は階級で成長するのでは?)」

エ「天使も人間と同じように日々のエネルギーを補給するために食事は大切なんですよ。今のユキちゃんには沢山のエネルギーが必要みたいですね」

ユ「そういうこと」


 ユキがぐっと親指を立てる。


テ「レイさん。それからどうなったんですか」

レ「ああ、うん。それから」


 その後の騒動と神様との出会いについて話す。


ク「あっはっはっは。面白いなー、怪物に追っかけられて鬼にダブルでふっ飛ばされたって。あははは」

レ「俺にとっては笑い事じゃないけどね」

テ「レイさんは神様のお手伝いをされるつもりなのですか?」

レ「う~ん、そうだね。報酬もくれるっていうから、ほら自分で自由に使えるお金も欲しいしさ。それに引きこもりにならずにすむかなって。みんなが学校に行っている間だけでもって」

ユ「レイ。前向きポジティブシンキング、良いと思う」

レ「ありがとう、ユキ」

ク「その前向きさはあたしたちのおかげかな~?」

レ「うん、そうだよ。ありがとうクロエ、みんなも」

ク「う、茶化したつもりだったのに、そんな風に素直に言われると、照れる」

テ「カヤノヒメ様ならお優しい方ですので、レイさんも安心だと思いますよ」

レ「あ、ティアは会ったことあるんだ」

テ「はい。学校の授業で一度、講師としていらしたことがあるんです」

ク「ああ、そういやあったね。そんなことも」

エ「頑張って来てくださいね。レイさん」

ミ「ミリアも応援してるよ~!」

レ「うん。頑張るよ」

ユ「ふ~。ごちそうさま」



 食事が終わり皿洗いを済ませた後、俺は縁側のお決まりの場所で横になっていた。


「ふふ。そうやって寝ていたら、牛さんになっちゃいますよ」

「あ、エリーゼ。あはは、その言い回し天界でも使うんだ」

「あの、レイさん。良かったら一緒にお散歩に行きませんか?」

「え、今から?もうお風呂入ったんじゃないの?」

「はい。でもあったかくして行きますから」

「そっか。じゃあせっかくのお誘いだし行こうかな」

「はいっ。ありがとうございます!」


 俺とエリーゼは2人で夜の田舎道へと出た。道は星の光のおかげで真っ暗にはなっていなかった。辺りに点在している家々からは温かな生活の光が漏れている。あそこにも俺と同じように使命を与えられた人間が住んでいるんだよな。それより何も言わずに家を出て来ちゃったけど、良かったかな。

 そんなことを考えていると、エリーゼが俺の手をぎゅっと掴んできた。


「エリーゼ?」

「もう、レイさん。今は私が一番近くにいるのに他のことばっかり考えてます」

「あ、ああ。ごめん。そうだよね」

「私だって、ミリアちゃんみたいに嫉妬、するんですからね」

「あはは。でもそうやってみんな俺にかまってくれて嬉しいよ。たまたま俺は使命で、みんなは学校の課題で一緒になっただけなのに」

「レイさん。そのたまたまが、もしかしたら運命だったりしちゃうかもしれませんよ」

「そうかも、ね」

「そのレイさんの運命。私がしっかりサポートさせていただきますね!」

「うん。よろしくお願いします」


 エリーゼと一緒に寄り添って歩く。エリーゼがまた鼻歌を歌いだす。子守歌みたいな静かな歌を。そうしてしばらく歩いていると、道の先に不思議な光景が広がった。草原が、光ってる?


「エリーゼ。これって」

「わあ!夜光たんぽぽですね。こんなに沢山群生しているのは初めて見ました。綺麗~!」

「綺麗だね~」


 草原には一面に綿毛になったたんぽぽが淡い光を放っていた。あの洞窟で見た光景に負けず劣らずだなぁ。天界にはいい場所がいっぱいだ。


「ねえ、レイさん。夜光たんぽぽにも花言葉があるんですよ」

「へえ、どんなのかな」


 エリーゼはたんぽぽをいくつか摘んでそれを花束のようにした。そして、それを俺に差し出しながら言う。


「天使の真心、です。レイさん、私の真心、受け取ってくれますか?」

「う、うん」


 花束を受け取る。な、なんだか凄く照れて恥ずかしいんですけど!


「レ、レイさんにそんなに照れられると私も照れちゃいます!」


 たんぽぽの光に照らされて見えたエリーゼの顔は、確かに赤くなっているようだった。そして俺の顔も、たぶん。


「そろそろ帰ろっか」

「そうですね。みんなが心配しちゃうかもですし」

「じゃあ、また手を繋いで」

「ふふ、レ~イさん!」

「ん?うわっ」


 エリーゼが俺の背中におぶさってきた。


「エリーゼ?」

「今度は、おんぶがいいな、なんて」

「あはは、了解」


 エリーゼをおんぶして来た道を戻っていく。しばらくはまた鼻歌を歌っていたエリーゼだったがそれはすぐに寝息に変わった。その聞こえてくる寝息が愛しい。

 エリーゼは普段真面目で良い子だけど。本当はまだ子供と大人の中間で、嫉妬とか可愛いわがままとか、そんな普通の感情を持つ普通の女の子なんだな。早くそれに答えられるようにならなくっちゃね。おやすみ、エリーゼ。

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