第18章 振り出しに戻る




■第十八章 戻・坂下千智side 振り出しに戻る


 翌日の夕方。美山市外れにある喫茶店で富樫と千智は会っていた。

 富樫の手元には、昨日ウィッチ・ハントへの参加が確認できなかった18人分の顔写真と名前の入ったリストがあった。そこには、橋の向こうの美山市こと、胡央村に住んでいる夢原癒津留の情報もあった。千智はこのタイミングで、自分がウィッチ・ハントに参加していることと、ウィッチ・ハントのルールの詳細、自分が何をしているのか、そして何を仕掛けているのか、自分の目的などをすべて話した。千智は富樫に全幅の信頼を寄せていた。



 ウィッチ・ハントについて話しているときも、富樫は一切口を挟まず、神妙な面持ちで黙って聞いていた。



「まぁ、そうですな。で、私はこの後どうすればよろしいのでしょうか? そういうぶっちゃけ話を聞かされたということは、私への、何かしらの依頼がある、ということでしょう?」

「えぇ、その通りです。その18人の中に、もしかしたらウィッチ・ハントの参加者がいるかもしれない。その参加者が〝人間〟である内はまだいいんです。しかし、これが魔女になると非常に脅威な存在になります……」


 自分の記憶がなくなるのはいつか、自分がこれからとるウィッチ・ハントの戦略のすべてを伝えた。つまり、藤堂を殺したのは富樫弁護士であった。正確には、富樫弁護士が差し向けたヒットマンだった。

「まぁ、あとは、うん、そうですね。実際にゲームが動いてからでないと、どうなるかわからないでしょうな。いいでしょう、今回もまた協力しましょう。報酬は、前と同じ金額ですか?」



「えぇ、前と同じ金額で、どうでしょう」

「結構。では、こちらも全力で当たらせてもらいます。あなたをウィッチ・ハントの勝者にすれば良いんですよね。では、坂下様がこれまでに仕掛けた罠などをメモして、私に渡してください。それと、その記憶操作がいつからいつまで続くのか、それは非常に重要なことですから、その部分は詳細にお願いします」

 こうして、弁護士富樫と坂下千智は再び、手を組んだ。富樫はウィッチ・ハントの陰で暗躍し、衰弱状態の手石一真を宮沢ビルから胡央村の公立F高校近くの廃ビルに移動させた。確定魔女である手石一真が死んだ時、確定魔女の座が坂下千智に移動するように策を講じた。12月20日の午後12時35分ぴったりに偽のウィッチ・ハント開催のメールを送った。ゲーム中も彼はいつも隠れた場所から坂下千智のことを見張り、千智の同意を得て彼がいつも持っている携帯電話に盗聴器を仕掛けた。それによって、富樫はいつでも坂下千智の行動をキャッチすること、そして、ウィッチ・ハントの参加者の情報を効率良く集めた。そして、隙を見つけて、夢原癒津留の携帯のウィッチ・ハントのメールを改竄した。日にちの部分だけを削除し、記憶の齟齬ができないように工夫したのだ。さらに、すでに坂下千智が把握していた参加者のひとり藤堂夏目の家に盗聴器を仕掛け、夢原癒津留との会話後、殺害。殺害は富樫が直接行ったわけではないが、ここでは富樫が行ったと記載する。

 



 ウィッチ・ハントは12月25日午後6時に終了した。優勝者は坂下千智。

 魔女としての願いは、〝妹坂下光の末期癌の完全除去または治癒〟、そして代償は、その末期癌を自分に移すことだった。

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