第10章 最終決戦の地へ




■第十章 坂下千智・夢原癒津留Side 最終決戦の地へ 


 12月25日からは冬休みが始まる。なので、もう朝から学校に行く必要はない。しかし、それでも生徒会長からお呼ばれするというなかなかできない経験をしてしまったが故に、クリスマスにも関わらず学校に足を運ばなければならないという奇妙な事態が起こってしまった。いくら誘ったのが向こう側とは言え、生徒会長(あとオマケに魔女)との待ち合わせに遅刻するわけにもいかない。10分前に到着しようと意識し、午後3時20分ほどに家を出た。学校に着いたのは午後3時44分だった。



 誰もいない学校は、いつもの学校とまるで違うものに見えた。吹く風もいちいちホラ―な演出をしているのではないかと邪推してしまう。

 昇降口の扉前には貼り紙があった。それを見て癒津留は「えっ」と思ってしまう。




『12月25日午後3時を以て、すべての鍵を締めさせてもらいます。宿題などを忘れてしまった生徒は、明日以降来るように。午前9時から午後4時まで、ここの鍵は開けておきます』

 なんてことだ、あの用務員、鍵をかけてしまったのか。これでは中に入ることができない。

 これからどうしようか癒津留が千智に尋ねようとしたところ、千智はまったく別の行動をとっていた。鍵穴に鍵をいれて、鍵を開けていた。




「さ、入るか」

 何事も無かったかのように千智は言う。

「千智君……、鍵、持ってるの?」

「あぁ。念のため、用務員室からパクっといた。後で返すから問題ないだろ」

 何がどう、どのように、どこの国の法理論において問題ないと断言できるのか疑問を呈したいところではあるが、いちいち異論を挟まず生温かい目と気持ちで精一杯スル―する。こうして世の中は滑らかにまわっているのだ。言わばこの気持ちはこの世の潤滑油だ。




 放課後、夕陽(夕陽は教室の窓からは見えない)、教室には二人っきり。

 何かこう、普段はなかなかあり得ないシチュエ―ションに、癒津留の心拍数は良い感じの一次方程式的グラフを形成しつつある。傾きは2でx軸は時間だ。1秒毎に心拍数yが2ずつ上がっている。今なら、そう、誰もいない。何かこう、普段ならできないあんなことやこんなことができるんじゃないんかい?




「教室の窓から夕陽が射すといいのにって思うことがたまにある」

「え?」

 突然の千智の一言に癒津留は少しばかり高い声で聞き返してしまう。

「でも、それはあり得ない。学校の校舎っていうのはそういう風に設計されているからね」

「…………」

 今は2人っきりかもしれないが、あと数分もすれば藤堂生徒会長が来てしまうのだ。ええい、ちくしょう、藤堂先輩なんて来るんじゃないやい、と心の中でひたすらのエ―ルを送るも、それは現実世界には影響しない。ただただ黙って教室の、自分の席に座りながら時間が経つのを待つだけだった。携帯電話は机の上に置いてある。魔女襲来警報が鳴れば、藤堂先輩が来ることがわかるからだ。しかし、今なお魔女襲来警報は鳴っていない。午後3時57分。約束の時間まで、あと、3分。

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