第6章 坂下千智の本心の確認

■第六章 夢原癒津留Side 坂下千智の本心の確認 

  Dec. 22th (Sat)12月22日(土)

  PM5:32 ―76:53:41


 12月22日。あと2日、3日もすればクリスマスだと言うのに、「やっほい、クリスマスだ」というム―ドにはまったくなれない。と言ってもまぁ、去年は去年で別の理由でクリスマスを楽しまなかった気がする。テレビやら世間、そして周りでクリスマスやなんやで騒いでいたとしても、自分がそれに関わるかどうかは別の次元の話なんだなと思った。私にとってはクリスマスも、ただの平日に過ぎない。ただ、このウィッチ・ハントというゲームは12月25日の日曜日に終わるものだから、そういう意味では少し特別なのかもしれない。そう思うことにした。




 ふと、携帯電話に目を落とす。そこには、『付近に、魔女がいます』の表示が。

 その表示を無視して、適当なボタンを押せばひとまず『付近に、魔女がいます』の表示は消える。変な表示が携帯電話になされていても、携帯電話の操作自体は普通にできるらしい。一旦ディスプレイの電源を落として、再び携帯電話のディスプレイを見ようとすると、再び『付近に、魔女がいます』の文字が浮かび上がる。

 1時限目、2時限目の授業が終わり、素早く千智君の席へと駆け寄る。用件はもちろん、生徒会会長藤堂夏目さんの紹介をするためだ。








■坂下千智Side 〝魔女との遭遇〟 三者共闘宣言の確立


携帯電話が震えている――。

 そのことに気付いたのは、1時限の授業が始まって間もない頃だった。

 千智は魔女襲来警報のアラ―ム設定を、マナ―モ―ドの着信のようにしている。つまり、音は鳴り響かないがバイブレ―ダ―が動く、という設定だ。授業中に大きい音を鳴らされても困るし、そもそも授業中に魔女に襲来されても反応に困るものだ。

 近くに魔女がいる――。

 それはとても、恐ろしいことのはずなのに、実際に近くに魔女がいるとわかると、どう行動すればいいのかわからない。逃げればいいのか? でも、どこに?

 学校を抜け出せばいいのだろうか? というかそもそも、学校にいるこの時に魔女襲来警報が鳴るということは、まさか魔女はこの学校の生徒なのか?




 1時限の授業は終わり、2時限の授業が始まった。1時限を受け持った先生の時間配分が下手くそで、1時限と2時限の間の休み時間はなかった。そのお陰で癒津留に話しかける機会を逸してしまった。普段ならふ―んで許す教師の横暴も今回ばっかりは許すわけにはいかない。いや、まぁ、許さないからって何ができるってわけではないが。


 昼休み。一息ついてから、癒津留のところへ行こう。








■ 夢原癒津留・坂下千智Side  

坂下千智の本心の確認 三者共闘宣言の確立


「千智君」

 癒津留が声をかけると、千智はすぐに振り返った。まるで、来ることがわかっていたかのように。



「良かった。もし何も音沙汰がなかったら、こっちから行くところだったよ」

 と、笑顔で千智が答えた。



「うん、いきなりで悪いんだけど、今日は千智君に会ってもらいたい人がいるの」

 途端に千智君の顔が険しくなった。おそらく、ウィッチ・ハント関連の、何か重要な話であることを察したのかもしれない。さすがに『これから魔女と会います』というところまでは想像できないだろうけれど。




「どうやらそれは、魔女襲来警報に関係する人物だったりするのかな」

「……そう。でも、多分大丈夫。あとの説明は、その人から聞いてほしい」

「……OK、わかったよ」

 色々と聞きたいことはあっただろうが、ひとまずこの場は引いてくれた。


 そして、癒津留は千智と共に学校の屋上へと向かった。

 屋上にはすでに藤堂夏目がいた。フェンスの金網に手をかけ、どこか遠くを見つめていた。千智と癒津留に気付くと、すぐそちらの方に振り向いた。



「こんにちは。手間をかけさせてしまい、申し訳ありません」

 優等生かつ生徒会課長らしい一言だった。千智も「いえいえ、こちらこそ」と言って軽く頭を下げる。



「とりあえず、生徒会の会長を務めております、藤堂夏目と申します。それと、ウィッチ・ハントの参加者にして、仮定魔女をしております」

 その言葉に、千智の顔が強張った。なんとなく想像はしていたが、やはり目の前で言われてしまうと気を引き締めざるを得ない。



「魔女、ではありますが、仮定魔女です。それとあと、ここからが大事になりますが、私はゲームをこれ以上動かすつもりはありません。それをあなたに伝えたくて、夢原さんに、このような場を設けてもらいました」

「すみませんが、魔女だという証拠はありますか?」

 すかさず千智が尋ねる。それに対しても藤堂は涼しい顔で、



「昨日、夢原さんとお会いしたときに証拠を見せました。ここでもう一度、やってみましょうか?」

 千智はすぐ横にいる癒津留の方を向く。癒津留は千智を見返し、うん、と頷いた。



「いや、わかりました。あとで彼女に聞いてみますので、今は結構です」

「ありがとうございます。次に話を進めたいところですが、まぁ、私が言いたいことはもうほとんど終わってしまいました。私はこれ以上、ゲームが動くのを望んではいません。魔女として叶えたい願いがあります。が、それは人を何人も殺して叶えたいことでは決してありません。ですから、僕が魔女であることをここで告白して、紳士協定を結びたいんです。私はあなた方を殺すことは一切しない。その代わり、あなたも私を殺さない。そしてウィッチ・ハントというゲームを静かに終わらせようじゃありませんか」




「なるほど、そういうことでしたか」

「そこでひとつ、坂下君に聞きたいことがあります。できれば、正直に答えていただきたい」

「なんでしょうか。質問によりますが、正直に答えたいと思います」

「そういって頂けるとありがたいです。では……」

 エヘンッ、とわざとらしい咳払いをひとつして、




「坂下君には、願いごとはありますか? 人を殺してでも叶えたいような、そんな願いが」

 一瞬の間があった。風も吹かず、息をつかない。世界が一瞬、そこで息を止めた。そして。

「ありません」

 簡潔に、それだけを答えた。




「結構。ありがとうございました。では、私が提案した共闘について、了承して頂けますでしょうか」

「やろうとすることはわかりました。ゲームをこれ以上の被害なく終わらせること。その狙いは結構です。しかし、具体的に僕は、僕と、癒津留は何をすればいいんでしょうか? できればそれを教えてもらいたいです」



「共闘、とは言っても、ベタベタくっついて互いが互いを見はったり、外敵に備えたりしたりすることはしません。しません、というか今の段階ではそういうことは考えていない、ということですが。もし我々3人の中で、何か〝不都合なこと〟が起きたら互いに連絡を取り合う。情報を共有する。それでいいのではないでしょうか。共闘というのはあくまで、3人がある情報を共有している、というだけに過ぎませんから」

「……結構です。僕は、その〝共闘〟に乗りたいと思います。癒津留は?」

「うん、私も、その共闘に……乗る」


「ありがとうございます。では、互いに連絡先を交換して、この場は解散としましょう。ところで、この学校の生徒で他にウィッチ・ハントに参加しているであろう人、というのはいるんでしょうかね。お二方、何かお心当たりなどは……?」

 千智はそれに対して、首を横に振る。癒津留も同じくだ。参加者が3人いた。4人いてもおかしはない。



「結構。では、夢原さん、何かありますか?」

 癒津留は一瞬躊躇いを見せたが、すぐにその躊躇いを振り払い、千智の方へ向いた。

「千智、ちょっと変な質問をするけど、この質問にも正直に答えてほしい」

「……どうしたんだよ、いきなり……」

「妹さん……坂下光ちゃんって、どんな病気なの……?」

 その一言で、千智の顔が引きつった。あまりされたくない種類の質問だったことは、その表情を見れば明らかだった。



「どうして……妹のことを……?」

「お願い。答えて」

 手を叩き、拝むようなポ―ズを作る癒津留。できれば言いたくない、浮気がバレる10秒前のお父さんみたいな表情を作りだした後、千智は、

「わかった。……話すよ。妹は、肺炎なんだ」

「……はい、えん?」

「そう、肺炎。妹は病弱であまりしょっちゅう入院してるんだ。あまり外にも出たがらない奴だから、僕もあまり他の人に妹のことは言わないことにしてるんだけど、何で知ってたんだ?」

「……結構、噂になってるよ……」

「ふ―ん……、そっか」

 そして、癒津留はすぐさま藤堂のことを見る。そして、藤堂は気付く。癒津留は自分に、今の一言が嘘でないかどうか教えろと要求しているのだと。藤堂はその要求に対し、ただただ無言で頷いた。



「では、そうですね。この辺でお開きにしましょうか。皆さん、お昼もまだでしょう?」

 藤堂のその一言で、その場はお開きとなった。


 その後、癒津留は千智と一言も会話することなく、下校時間となった。

 突然、普通の手段では知り得ない千智の妹について尋ねてしまったため、話を切り出しにくくなってしまったのだ。話したいのに、何か話さなくてはいけないことがあるはずなのに、うまく切りだすことができない。そんなもどかしさに襲われていた。

 しかし、放課後になるとそんな心配はなんてその、千智の方から癒津留に声をかけてきた。人生とは往々にしてそういうものである。

「今日は……、どうする? 一緒に帰るか?」

 という千智の声は柔らかかった。おそらく柔軟剤を使ったのだろうと思われる。

「うん……。一緒に、帰りたい。ちょっと頼みたいこともあるから」

 と、癒津留は答えた。少しばかり自信なさ気な声になってしまったのは仕方ないと思いたい。




 そして、千智と癒津留は一緒にまた共に美山大橋を渡っている。

 千智としてみれば、学校から出てここまで歩いてきたのに何も話してくれない癒津留に対してなんとも言えない違和感を心のどこかで感じていた。いや、それは違和感とは違うものかもしれない。焦り、みたいなものなのかもしれない。何かを言ってほしいが、それを男の方から急かすのは果たしてどうなんだろう、というなんとも言えぬ微妙な心の動きがそこにはあった。もしかしたらこれが青春なのかもしれない、としょうもないことを考えつつ。




「今日ね、……ううん、今日からね、千智君の家に、泊まりたいの」

 千智はまず、その言葉が自分に向けられたものだと理解しなかった。しなかったというか、理解できなかった。どうでもいいかもしれないけど、こういう時遅れて言葉が耳に入ってくる現象は果たしてなんて言うんだろうね。ドップラ―現象の仲間のような気もするが。いや、違うか。




「……えっと、ごめん、理由をちょっと聞かせてもらってもいいかな」

 千智は自分で自分の発言を採点する。この質問は決して、突飛なものではないはずだ、と。



「えっと、その……。ウィッチ・ハントが終わるまでは、できるだけ私たち、そばに居た方が何かといいような気がしたから……。もし夜に襲われたら私たち、うまく連絡を取り合うことができないかもしれないでしょ?」

 そこで意外と納得してしまう自分がいることに千智は驚いた。たしかに。というか一回聞いてしまうとそれがさも当然のように聞こえてしまうから不思議だ。そうまで言われてしまえばこちらも別に拒否する気はない。




「わかった。あと、もうひとつ教えてほしいことがある」

「うん、なんでも聞いて」

「教えてほしいというか、癒津留の知恵を拝借したいんだが、あの人、えっと、名前なんだったかな……。あ、藤堂さんだったね。藤堂さんはさ、叶えたい願い事はあるけど、人を殺してまで叶えたい願い事はないって言ってたよね?」

「あぁ……、うん。たしかにそんなことを言ってたね。それが、どうかしたの?」

 怪訝な表情でこちらを見る癒津留。




「いや、さ。間違ってたら申し訳ないんだけど、でも、なんだかんだ言って彼は今、魔女なわけじゃないか。ていうことは前の魔女を殺したってことだよね?」

 あまり人を殺した殺したと物騒なことは言いたくはないのだが、純粋な疑問だからしょうがない。



「いや、そういうことじゃないよ。〝仮定魔女〟だから多分、突然魔女の能力を与えられたんじゃないかな。だったら、あの一言は何にも矛盾しないよ」

「カテイ……魔女……」

 そういえば先ほど、藤堂もそんな単語を口にしていたかもしれない。〝カテイ〟魔女。



「ちょっと待って。その、カテイ魔女って、何?」

 この直後の癒津留の表情を一体どう表せばいいのだろうか? まるで、『山』この漢字を読めない高校生を初めて見たかのような、そんな表情だった。それはさすがにまずいっすよ先輩、と言わんばかりの表情を浮かべていた。



「カ、テ、イ、魔女だよ、千智。カテイ魔女。仮に定める魔女。仮定魔女」

「仮に定める魔女……仮定魔女……」

 どう漢字を当てるのかは分かった。で、それがなんだっていうんだ。



「で、その仮定魔女って、何?」

 癒津留の表情が驚愕のソレへと変わっていくのがすぐにわかった。



「千智……。ウィッチ・ハントのルールテキストちゃんと見た?」

 突然の右ストレ―トに千智の表情が固まってしまう。そんな非難がましく言わなくても……という乙女心が炸裂しそうになったが、それをぎゅっと抑えて別のことを考える。


 ルールテキスト。ちゃんと読んだはずだ。精読とまでは言わないまでも、目は通した。さすがに〝仮定魔女〟なんて単語があればしっかりと、とまでは言わないまでも、それなりに覚えているはずだ。しかし、残念ながらグ―グルセンチ支社の検索結果には何も表示はされなかった。仮定魔女で検索した結果、ヒット件数は0件だった。



「見たけど、仮定魔女なんてあったかな……」

 正直に心の中の状況をそのまま言葉にした。すると、

「あった。携帯電話、見せて」

 その力強い申し出に千智はNoを言うことができなかった。これぞ日本人の姿。こういう時には黙って渡すのがいいのです。というわけで、ちょっと躊躇うフリをしてから渡す。大丈夫だよな、多分。携帯電話に変なファイルを入れたりはしていないはずだ。うん。い、いや、パソコンにも入れてないぞ。



 癒津留は千智の携帯電話をひったくると落としてしまったコンタクトレンズを探す人みたいな必死の形相で上から下まであちらこちらを見遣る。視力矯正トレ―ニングか何かですか? と問いたくなるのをグッとこらえる。全世界の人間が自分の問いたいことを好き放題問うていたら世界が回らない。とは思うのだが、国会を見るとそうとは思えない。まぁ、それはいいや。



「あれ……、変だな……。もしかして千智君ってメール読んだらすぐに消しちゃう派?」

「うん? うん、あぁ、まぁ、そうだなぁ。すぐ消すことはないけど、早め早めに消すね」

 なんでそんなことを聞くんだろう、とは思いながらそう答えた。



「……なんでかよくわからないけど、このメール、変だよ」

「……変?」

 まぁ、たしかに。メールのタイトルから内容まで、変なところが多すぎて変だと気付かなかった。そうだ、このメールはたしかに変と言えるかもしれない。

「いろいろと変なところはあるけど……とりあえず掻い摘んで説明するね。まず、内容が変。これが私のところに来たメールだけど、千智君に送られてきたメールには一部記載されていないところがある。私のところにきたメールだけど、はい、読んで」

 またあの無駄に長いルールテキストを読まされるのかと思ったが、その勢いに押されて渋々読むことにした。




Rule ―ルール 

Chapter1

 ①定点Aを中心とした半径10km圏内にいる8人の参加者の内、7人は〝人間〟、1人は〝魔女〟となる。

 ②〝人間〟は〝魔女〟を見つけ出し、殺すこと。〝魔女〟はゲームの参加者〝人間〟を見つけ出し、殺すこと。または、生き残ること。

 ③12月25日午後6時時点で、後述する〝確定〟魔女が存在した場合、〝確定魔女〟が優勝者となり、ゲーム終了となる。


 ④ゲームは短い時間で行われるため、ウィッチ・ハント(Witch Hunt)ゲームの硬直化は出来得る限り避けなければならない。そのため、当方がゲーム進行において、著しく不適切と判断した場合は、ゲーム参加者を殺害する可能性がある。

 以下に一例を記載する。



 ●〝確定魔女〟になった者が第三者から知覚されない場所に移動すること

 (今回のゲームでは、日常生活でその地域から移動しないものを当事務局が意図的に選出した。日常生活においてどうしても必要な移動である場合、個々の事情に応じて対応をする。例えば、ゲームの記憶を抹消してゲームから自然失格させる、と言った対応が考えられる。それ以外の移動、例えば、第三者からの殺害、戦闘の機会を著しく損なう場合、それは当ゲームの不正行為と見なす。)

 他にも不正行為となるであろうケ―スは存在するが、数多く存在するためここには記載しない。不正行為に抵触しそうな行動をゲーム参加者が行いそうになった場合、また、ゲーム参加者が行ってしまった場合、突然失格にすることはない。事前にウィッチ・ハント事務局から数回の警告を行わせていただく。また、その不正行為がゲーム終了数日以内に行われた場合は、ゲーム終了時間を延長させていただく次第である。不正行為によってゲームが終了させられることはあり得ないことをここに付記させていただく。


 ⑤ゲーム硬直化を防ぐためのルールにおいて、以下の事例については既にルールが確立されているので、ここに明文化させていただく。

 問:〝確定魔女〟がひとつの場所から動かなくなった場合、ゲーム硬直化に繋がると考えられますが、ウィッチ・ハント事務局はどのような対応をするのか。

 応:どのような理由であれ、〝確定魔女〟にはゲーム進行を円滑に進めるための役割を演じてもらう必要がある。そのため、ひとつの場所に留まり続けることは禁止行為をさせていただく(尚、このルールについては一部例外があるので、一部例外については『注1』を参照すること)。

 もし仮に〝確定魔女〟がひとつの場所に留まり続けた場合、(期間は3日以上とする)魔女の権限を他の参加者に委譲する。移譲された魔女を、ここでは〝仮定魔女〟と呼ぶことにする。確定魔女、仮定魔女、共にひとつの魔女に留まり続けた場合も同じことが繰り返される。また、この際に魔女権限が移譲する先は、その確定魔女に一番近い場所にいる参加者(魔女を除く)となる。その後、さらに3日間確定魔女に動きがなかった場合、確定魔女にデス・ペナルティが与えられる。そして、〝仮定魔女〟には〝仮定魔女〟の資格は剥奪され、〝確定魔女〟資格が与えられる。


 ●注1:仮定魔女が決まった後、さらに3日間確定魔女に動きが無かった場合、確定魔女にはデス・ペナルティが与えられるが、その3日の間に確定魔女が移動した際、当然ではあるがデス・ペナルティは回避される。しかし、仮定魔女の称号、権利も剥奪されず、ウィッチ・ハントのゲームに2人の魔女が混在するというダブル・ウィッチ状態となる。2人の魔女が混在しているときにゲームが終了した場合、勝者は確定魔女の側になるので、注意されたし。


 解説:なぜ近くにいる人間が魔女権限が移譲されるかと言うと、一番魔女の近くにいる人間が、魔女に殺害されるリスクを背負っているからである。


:魔女死亡時による交代についての事項 Chapter2

 ⑥〝確定魔女〟が死亡した際、それが第三者からの外因であった場合、最も強く〝確定魔女〟の死亡に関与したものが次期〝確定魔女〟となる。


 ⑦〝確定魔女〟から資格が〝仮定魔女〟に移る前に〝仮定魔女〟が死亡した場合、新たな〝仮定魔女〟を即時設けることはしない。


 ⑧もし万が一、ウィッチ・ハント参加者以外の人間が〝確定魔女〟を殺してしまった場合、殺された瞬間〝確定魔女〟に最も近くにいた人間が〝確定魔女となる〟。理由はChapter1の解説にある通りである。



:ウィッチ・ハントへの積極的且つ複合理由的不参加について Chapter3

 ウィッチ・ハントへの参加については、当方が一方的に決めているため、中には参加したいという強い意志を持ち合わせていない人もいると思われる。途中まではまったく参加する気はなかったが、最終日直前になって仮定魔女の座が転がり込んで、優勝争いを演じることになった、という悪例を避けるため、ウィッチ・ハントへの積極的且複合理由的不参加についてのルールを定めさせていただく次第である。(前々大会より規定)


■積極的且つ複合理由的不参加とは?

 ゲームが始まっても魔女を探さない、探そうともしない、他、ウィッチ・ハントに関わろうとする意思がない状態をさす。なお、確定魔女役職の者は、積極的に動かない場合、デス・ペナルティが課されるため、ここでいう積極的且つ複合理由的不参加は、人間役職にのみ当てはまるものである。


■積極的且つ複合理由的不参加によるペナルティ

①今回のウィッチ・ハントのゲームでは、積極的且つ複合理由的不参加によるペナルティは一切課さない。ただし、積極的且つ複合理由的不参加者は、ゲーム開始1週間後の午後6:00に魔女になる権利を失う。

 ここで言う魔女とは、『確定魔女』『仮定魔女』その他ここで規定していないあらゆる魔女の権利である。つまり、勝者になれる可能性はない。だが、参加者としての権利は残るため、その他の確定魔女及び仮定魔女に殺される可能性はあるので注意されたし。


■最後に

 ウィッチ・ハント参加者の携帯電話には、細工をさせていただきました。

 参加者には、魔女が近くに居た場合、センサ―が反応するようになります。

 電話の着信音、メールの着信音のように、音量、バイブレ―ションの設定を自由にいじれるようになっておりますので、各自ご自由に設定してください。


 ゲーム終了は、12月25日(火)午後6時ちょうどを予定しております。




 ◆

 途中から、自分が読んでいたルールテキストと違うことに気付いた。思えば、このテキストに喰いつき、すべてばっちりと読んでしまっていた。たしかに、このルールテキストを読んだら、〝仮定魔女〟がなんなのか、わかる。というかむしろなんで仮定魔女のことが、自分に送られてきたルールテキストには書いていないのだろう?

「わかった? これが本当の、ウィッチ・ハントのルール」

 そんなドヤ顔で言われても正直困るわけだが、実際そんなドヤ顔をするのは仕方ないのかもしれない。

 たしかにこれは、非常事態だった。まぁ、だから何がどう変わるってわけでもないわけだけど。

 そんなことを話している間に、千智の家に到着していた。

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