日の丸をこの手に

@Evolve0425

第1話 侍の帰還

 「朝っぱらから何の騒ぎだ?」

青年が家の扉を開けて外に出た。

今日はすごくいい天気だ。


この青年の名は迅(じん)。黒髪で、普通の身長で、ごく普通の青年だ。

ただ一つ、普通ではないところといったら、腰に刀を下げているところだろう。

一昔前までは、侍がそこらを歩いているのが普通だったが、幕府が刀狩令を発令してからは刀を持つものはほとんどいなくなった。

迅は、友人と一緒にこの村を守っていて、そのリーダーだ。この村を幕府から取り戻したのも彼らだ。

そしてこの村は、南端島(みなみはじま)という、南国(200年前までは鹿児島と言われていた)の南の端にある村だ。


 どうやら港の方で何かあったらしいく、村人達が港へ走って行く。

 「おーい、迅!」

背後から何者かが呼んだ。

 「あ?どした、志郎?」

 「そりゃあ、こっちの、セリフだぜ。」

息を切らしながら呆れたような顔で答える。

 

 この青年は志郎(しろう)。高身長でガタイも良く、とてもジンと同い年とは思えない。背中に太刀を背負っている。

 

 「港の方でなんかあったのか?」

志郎が聞く。

 「わかんねぇ、とりあえず行ってみよう。」

二人は港へ向かった。

 港では大勢の人だかりができていた。その先では黒い煙が上がっている。

二人はよく見ようと、人混みを掻き分け、前に出て、騒ぎの原因を見た。

迅はその光景に唖然とした。志郎も何が起こっているのか理解できずにいるようだ。

 二人が見ている先の海の上から、数十隻もの黒くて巨大な船が横に帯のように並び、こちらに向かってきていた…。

 

 それから一時間ほど経った。もう集まっている村人の数はさっきの倍ほどになっていた。しかし、先ほどよりも船と距離をとって見守っている。おそらく、海賊や幕府の船かと思って恐れているのだろう。

 そして遂に、黒船が港に着いた。その頃には村人は隠れており、迅と志郎の二人だけが立っていた。ただ、村人も興味はあるらしく、影から黒船を見ている。

 するとその影から一人の老人が出てきた。村長だ。

村長が船へと歩いていくと、同時に船から大勢の男が降りてきて何列かに分かれて横にさっと隊列を組んだ。軍服のようなものを着て、背中にはライフルのようなものを背負っている。

 その中から一人の男が隊列の前に出てきた。

そして敬礼をしながら叫んだ。

 「我々は、日本国軍である!そして私は元帥海軍大将、東郷 平吾郎(とうごう へいごろう)   だ!」

 「これはこれは東郷殿。わしはこの村の村長じゃ。まだ軍の生き残りが居たとはな…。そして、な  ぜおぬしら軍隊が戻ってきたのじゃ?しかもあの時よりも武装しよって…。」

村長が聞くと、東郷は村長に一歩近づき、こう言った。

 「我々は前回の大戦で大きな被害を被った。がしかし、まだ戦争は終わっていない。

  我々は!この日本を支配したあの忌まわしき幕府から国を奪還すべく馳せ参じたのである!」

東郷は悲しい表情をしながらもその瞳は希望に満ちていた。

 (おい、あいつらは何者だ?どこからきたんだ?)

志郎が小声で聞いてきた。

 (軍隊だろうな。多分、竜宮島(200年前の沖縄)に隠れてたんだろ。)

 (じゃあ、俺達の味方ってわけか?)

 (さあな。)

 「村長殿、貴殿に聞きたいことがあるのだが」

東郷の表情から村長は察したのか、すぐに答えた。

 「幕府のことですかな?彼らならこの村にはおらん。数か月前にこの村から追い払った」

 「追い払ったですと?それではこの村にはそのような戦力が?」

東郷がさらに聞く。

 「まぁ、侍ですがな。」

そう言って、ジン達の方を見た。驚いた表情を浮かべて東郷もそれに続いてこちらを見る。それに続いて後ろの軍人たちもこちらを見た。急に見られ、二人は東郷を睨み返した

東郷が村長の方に向き直って言った

 「ふん、銃器相手に刀など、自殺行為だ。このままではこの村も安全ではない。奴らの怒りを買っ  たのですから。奴らはまた来るだろう。」

迅は彼の言った「自殺行為」という言葉に怒りを覚え、拳を強く握った。

 「まぁしかし、幕府が居ないのには幸運だった。今は戦いよりも補給が先だ。村長殿、この村に宿  は無いかな?我々は疲れている」

 「えぇ、ありますぞ。では、こちらに。」

 「感謝する。」

村長が軍人を先導し、宿に向かった。

その時、迅が東郷に向け叫んだ!

 「自殺行為なんかじゃない!!」

東郷がこちらを振り向いた。志郎は驚きを隠せていない。

 「この前散っていったあいつらは、武士道を貫いて、この村を守るために散っていったんだ!なに  も死のうと思っていたわけじゃない!!」

迅はもう自分でも止めることができなかった。

 「武士道だと?ふん、そんなもの我らはとうの昔に捨てた!そんなもの何の役にも立たない。守る  ために命を賭けても、死んだら同じだ。我らはそれを誰よりも知っている!貴様ら侍の時代はも  う終わったのだよ。」

ジンの怒りは頂点に達し、刀を抜こうとした。しかしそれを志郎が止めた。

 「もっと自分の命を大事にするんだな。」

東郷はそう言い放ち、村長に着いていった。


 その日の夕方…

迅と、志郎を含む友人たちは迅の家の裏に集まっていた。

彼らは会議などをする時は昔からいつもここに集まるのだ。

 「佐助、なんだ?話って」

迅が聞く。みんなも佐助の方を見る。

 「今朝、村の外を監視してたら、隣村がなんだか騒がしかったんだ。それに、銃声も聞こえた。」

佐助は真剣な顔で話した。

 「それがどうしたんだ?」

迅が聞き返す。

 「もしかしたらだけど、幕府が戦いの準備をしているんだと思う。」

手を顎にあてながら佐助が答える。

 「なぜそんなことわかんだ?」

志郎が聞いた。

 「村で戦っている様子もなかったんだ。それにいくら幕府でも何もないのに銃をぶっ放すはずがな  いだろう?多分、軍隊が帰ってきたことに気づいたのかも。」

 「そうかもな…。」

 「あ、それに、あの村は前の戦いで奴らが逃げていった村だぜ。」

漱石が閃いたように言った。

 「みんな、よく聞け。もしかしたら奴らがまたこの村に来るかもしれない。今朝、戦闘準備をして  いたのなら、来るのは今日の夜の内か、明日だろう。そこで俺たちの出番だ。」

みんな息を飲んだ。 

 「で、作戦は?」

志郎がそう聞くと、みんな、より迅の近くに寄り、耳を澄ました。


 そして真夜中…

村は寝静まり、夕方はお祭り騒ぎだった軍人も戦艦の中や宿で寝ており、宿に収まり切れなかった者は外で寝ていた。

そんな静寂の中…

 「総員警戒態勢!!奴らが来た!!」

監視係の兵士が叫び、鐘を鳴らす。

 カーン カーン カーン

その音は、村の静寂を引き裂いた。

寝ていた村人や兵士が目を覚ます。

 「各員、警戒態勢に入れ!!」

 「村人は避難させろ!!」

兵士たちが武装して、次々と村の外に出て、隠れるように配置に着いた。

しばらくすると、前方の丘から大勢の武装した黒い姿の兵士が見えてきた。 

そして、村の前で止まり、リーダーと思われる者が各員に指示を出している。

そこへ、一人の男が飛び出し、彼らの方へ歩いてゆく。

東郷だ。

 「あなた達は何者だ?そして何の用だ?」

東郷が聞く。

それに気づいたそのリーダーは、彼に銃を向けた。

 「動くな。止まれ。我々は幕府軍である。この村は反逆を犯した。よってここの住人は、反逆罪の  罪に処す!」

それと同時に、他の隊員も彼に銃口を向ける。

 「それはそれは、ご苦労なことだ。貴様らは我々を誰と存ずるかな?」

東郷が笑みを浮かべながら問う。

 「我々…?いいから黙るんだ。撃…」

 「幕府よ!我々は帰ってきた!」

そう言いながら東郷が彼に銃を突きつける。

その次の瞬間、無数の銃弾が東郷の後ろから飛んできて、幕府を襲った。

次々と人が倒れてゆく。日本軍は徐々に距離を詰めてゆく。

もはや日本軍は勝利を確信していた。

 「ははははは!我らの力を思い知ったか!!」

村に攻めてきていた幕府軍を一掃し、再び静寂が訪れた。

それもつかの間、次には兵士たちの笑い声と、歓声が聞こえた。

 「やったぞー!」

 「いける!」

 「進化した俺達なら幕府に勝てるぞ!!」

 「このまま日本を取り返すぞー!!」

だが、東郷には気がかりになことがあった。

 (避難している村人が少なすぎる…)


そして、彼らの喜びも、一瞬で幻となった。

遠くで太い銃声のような音が聞こえ、次の瞬間には、村全体を覆うように、砲弾の雨が降り注いだ。 「なんだ!?」

 「砲弾!?」

一瞬で、周りの家が潰れ、火の海になったことで、兵士たちは混乱していた。

 「一旦退却しろ!隠れるんだ!!」

東郷が叫ぶ。それに各隊の隊長も続く。

 「退却!!」

 「建物の裏に隠れろ!!」

一息つき、全員、丘の方を見た。そこには信じられない光景があった。

先ほどとは比べ物にならない数の軍団がこちらへ来ていた。

 (くそ、援軍を呼ばれたか。)

東郷は驚きを隠せなかった。しかし、それに追い打ちをかけるように、悪夢はやってくる。

 「おい、なんだあれは!?」

 「砲台が動いているぞ!!」

武装した集団の後ろからは、戦車がこちらへ向かっていた。

 (あれは、鎖国前の戦争で使っていた、戦車というものか?なぜあんなものを持っているの     だ…!?)

そして遂に、第二次戦闘が始まった。

あちこちで銃弾が飛び交う。しかし、明らかに戦力の差があった。

 「くそ!!奴ら、携帯型の機関銃を使ってやがる!!」

 「こんなの勝てねえ!」

 「弾が残り少ない!!」

 「死にたくない…。」

幕府の兵器により、日本軍兵士に負の感情が植えつけられ、蝕み、広がってゆく。

 (なに?携帯型の機関銃だと…?マシンガンか!?奴ら…あんなものを、我々が知らない間にあん  なものを造っていたのか…!?我々が進化している分奴らも進化していたのか…!!)

その負の感情は大将である東郷の心をも蝕んだ。

 (これではあの時と全く変わらないではないか…!!このままでは敗けてしまう。このままで    は…!!)


日本軍人の殆どが、死を覚悟していたその時…

 「今だ!いっけえええええ!!」

数十人の男達が、幕府軍を挟み撃ちにするように左右から突っ込んでゆく。

戦場の時が一瞬止まった。幕府軍も、日本軍も、突然の奇襲に驚いていた。

どんどん幕府の兵士が刀や槍や鍬などで斬られ、倒れてゆく。

東郷は、そのうちの一人の青年が眼に入った。

 (あの青年は、あの港の…!)


 「くそ、あれではあいつらが邪魔でこちらからは撃てん!」

兵士が叫ぶ。

この時、東郷の心に変化が起きた。

 (そうだ、我々はあの時、我が国を守るために武士道を貫き、刀で戦っていたではないか。彼らは  あの時の我らに似ている。この村を守るため、戦っているのだ。)


 「立ち上がれ!!我らは日本軍!!この国の侍だ!!奪われた我らの故郷を取り戻すために帰っ   て来たが、なんだこの有様は!!!相手がどんな兵器を使っていようと関係ない!」

日本軍兵士達は、撃つ手を止め、東郷の叫び声に聞き入っていた。

 「戦え!!!!我らに守るべきものなど何もない!!刀を抜け!!命を賭けろ!!!!死ぬのはそ  の後だ!!!奴らに我らの武士道を見せてやれ!!日の丸をこの手に!!!!!」

うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!

全員、刀を抜き、叫びながら走っていた。


結果、この戦いは夜明けまで続き、日本国軍の勝利となった。

この戦いに、幕府軍は九州の南部の戦力の半分以上を投入したが、投入された戦力は壊滅し、数人が日本国軍の捕虜となった。

幕府の九州の南部勢力は大きな痛手を負い、北部に撤退することになる。

日本国軍側は、敵兵器を前に、総戦力の25%を失うという、大打撃を受けるが、敵の兵器の入手により、一歩前進した。


この出来事は後に「侍の帰還」と呼ばれ、語り継がれることになる。

しかし、これで終わりではない。始まりなのだ。今、幕府中で混乱が起きていた。

「奴らが帰ってきた」と。


…続く…


 

  



 




 



 


 



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