'eono、エオノ。ハワイの言葉で6の意味。
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メダカがたくさん産まれたこと。ベタを飼い始めたこと。Anuenueという店を知っているかということ。湘くんに送りたいメッセージは山程あったが、一つも送れなかった。湘くんからも何も送られて来なかった。LINEの通知音が鳴ると、一度は湘くんからかと思ってみる。期待のようなものは一度も叶わない。
抗鬱剤の量も眠剤の量も増えた。相変わらず夜は二回以上目が覚める。昼間もすぐに眠くなった。今は起きていた方がいいのか、今は眠った方がいいのか、分からなくなった。私の希望的観測は一体どこに行ってしまったんだろう。ただ、それは何の役にも立っていなかった。要するに、無くて良い物がなくなった、というだけのことだ。
あなたに逢って無敵になりました!
出会った頃、車の中で聴きながら湘くんが歌っていた歌がある。私は
あなたに逢って鬱病になりました!
……などと叫びたくない。
「アイ? 眠くなった?」
「旅してた」
「旅ねー。あたしもLINEしてたし」
和希のダンナ、英くんは店を閉めて十時には来る予定だった。和希に会えてはしゃいでいた瑠夏も、つまらない映画の途中で眠ってしまった。もうすぐ十一時になる。
つまらない映画、というのは言葉のあやだ。八歳の瑠夏にはつまらないかもしれないが、この「ペルシャ猫を誰も知らない」という映画は私が購入した数少ないDVDの一つだ。初めてレンタルショップで見かけたときは、ペルシャ猫の映画かと思い逸る心で手に取った。パッケージの裏面の説明を見ても、ミックスらしい猫が一匹映っているだけで音楽の映画らしく、ペルシャ猫のことは載っていないようだったけれどなんとなく上機嫌でレンタルしてきた。瑠夏とフィガロと暮らしていたとき、湘くんと出会う前だった。その映画をフィガロが眠る側で観ていた私は、胸が一杯になってしまった。
「なんかこっちに同級生が店出してるから寄ってから来るって」
「この辺? 何て店?」
「ん、ちょっと待ってね」
和希はキューバリブレを一口飲んで英くんに返信し始めた。私はダイキリに凍らせた苺とソーダを混ぜて飲んでいた。
苺とダイキリ。ああ私は苺とダイキリがあれば生きて行けるのかもしれない、あ、もちろんソーダも、と酔った頭で桃色のカクテルを作り続けた。
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