12

 眠る時は部屋を真っ暗にする湘くんが、暗闇の中に浮かべた言葉。普段は聞き取れないことが多いのに、どうして暗闇の中にはくっきり響くのだろう。私は目を開いている。なのに暗闇、いや視力を失ったようになる。

 まだ仕事をしていた頃は、歩きながらたまに泣いていた。暗闇にくっきり浮かぶ言葉は止められない速さで心臓に突き刺さり、痛みで涙が溢れる。寝る時は更に覿面だった。本当に目を閉じるのだから否応なしに暗闇の中に入る。毎朝目が腫れるか頭痛がするか、または両方か。私は仕事に行かなくなり精神科を訪れた。

 前回は三回目の診察だった。睡眠導入剤はほとんど効かない。飲むのを忘れることが多い。だけど精神科に通うようになって確実に変わったことがあった。

「いまでも毎晩泣いていますか?」

「そういえば……。泣いてないです」

 私は笑顔で答え、先生も微笑み返してくれた。

 薬を飲み始めてから泣いていない。涙まで、私を置いて行ってしまったのだろうか。


 ぼんやりとメダカが卵を擦り付けたホテイアオイの根を見つめていると、何か小さすぎる物が水面を流れた。稚魚が産まれたら観察出来るように、無色透明の十五センチ四方の容れ物を百円ショップで買ったのだ。ホテイアオイを入れると一杯になってしまった。

「?」

 一ミリ以下の小さな光の粒が二つ並んで、ほとんどホテイアオイに占められた水面を行き来している。動きからすると頭と腹か背が光っているのだろう。ヒカリメダカは産まれた時から光るのだ。

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