第3話 ハルヒ教
ハルヒが神として君臨したこの世界では、ハルヒを崇める教団が存在する。
まぁ最近できたのだが。
その名もハルヒ教団。実は俺も最近教団の名前を知った。何だかハルヒを崇める団体があるってのは知っていた。その時は団体名を知らなかったが、ハルヒの言動や行動に一喜一憂するような連中が作るような団体だから、俺は勝手にその団体名を『SOS教団』かなって思ってた。
そして俺が勝手に名づけてそのように思ってた団体は『SOS教団』ではなく『ハルヒ教団』だった。実に単純である。しかも分かりやすい。
教団の人に聞いた話だが『SOS教団』だと我らがSOS団と混同してしまう可能性があることから、教団の連中が現在の『ハルヒ教団』にしたらしい。
そして『ハルヒ教団』の上部組織が『SOS団』らしい。知らなかったわそれ。どうりで最近周囲がやたらと優しいと思った。言葉遣いがもう完全に崇められてる感じだしな。拝まれたり、貢物をもらったり。そのおかげでSOS団の部室に物が増えた。それでも貢物が増えていき、極力簡素にしておきたい思いから、貰ったものは食品以外は部室の隣の部屋に置いてある。
その部屋はもはや倉庫と化してる。
俺は、部室で信者からの貢物の中から茶菓子を探し出した。
朝比奈さんが来たらお茶入れてもらおう。
そんなことで、ダンボールを開け、ガサゴソ探った。
それにしても多い。一人じゃ食いきれねーよこれ。SOS団総員で片付けないと賞味期限を迎いちまいそうだ。
「長門も何か食うか」
「いい」
即返答された。まー長門が茶菓子食いながら読書してる姿って今まで見たことないし、イメージと違うしな。
相変わらず部室の隅で本を読むことが習慣化している文学少女が一人。長門のその機械的にページをめくる動作は、俺の中ではこのSOS団の伝統芸能的な地位に勝手ながら置いている。
すまんな、長門。
俺は好みの茶菓子探しを再開し、とりあえず賞味期限が近いものを中心に何点か選んだ。
甘いものが多いが許してくれ。今日はSOS団の定期会議なのだ。各自が近日中に知り得た情報を共有し、俺達のの今後の方針を決めるといった大事な会合なのだ。
何でこんな会議が開催されるようになったかというと、傍迷惑な神様が俺達を不条理と不明瞭な現象という試練をお与えになり、あまりのアレさに迷える子羊のようになってしまった俺達が、これを乗り越える為に始めた。
状況が状況なだけに、俺を除く3名とその関係者は活動が激しい。いつもは部室の定位置で読書をしているのがデフォルトの長門もそうだ。今日はいつもどおり読書をしているが、最近は遅くに部室に着たり、また逆にすぐ帰宅することが多い。一体何してるんだろうね。先日長門に聞いてみたら「調査」「忙しいそうだな。何か分かったか?」「まだ分かってない。調査は難航している」というやり取りをしたが、長門が動いて難航なんて言葉を使うくらいだから、今回はクッソレヴェルが高い問題なのか?いや、実際そうなのだろう。ヤバイだろ。
こういうこともあって、それなりに経験値を稼いでしまった俺でも、いつも以上に警戒態勢バリバリなのだ。正直俺はこれ以上危険な目に合いたくはないんだがな。
今後の展開に不安を感じつつ俺は、何だか高級そうな菓子の包装を開け試食しようとした。
「やめておいた方がいい」
「ん?何だよ長門。まだ食えるぞこれ」
もう一度包装紙に貼ってある賞味期限を確認しようとした。
「そうじゃない」
「何か問題があるのか」
「ある。その食品は貴方の生命活動に害を及ぼす」
え・・・・・・何それ。毒物劇物の類が混入しているというのか。嘘だろ。
「嘘じゃない。その食品には微量かつ強力な有害物質が含まれている。表面上では認識できない」
マジかよ。仮に俺が食っていたらどうなってたんだ?下剤とかそういったたちの悪いいじめで使われそうなやつか?
「違う。仮に貴方又は朝比奈みくる及び古泉一樹がその食品を口にしていたら、3名の生命活動は数時間後完全に停止していた」
俺は絶句した。危ねぇ!!危うく死ぬところだったじゃねーか!!嫌がらせってレヴェルじゃねーぞ!どこのどいつだ、こんな毒を盛って暗殺を試みる野郎は!!
「どうかしましたか?」
扉の方から声がした。
古泉か。遅かったな。いや、その方が良かったぜ。俺たった今暗殺されそうだったんだよ。どっかの誰かさんにな。お前もここにいたら、へたすりゃ俺達はこのあの世行きの片道切符的な茶菓子で現世とサヨナラバイバイだったぞ。俺が食う直前に長門が毒物と見抜いて止めてくれなければ、俺は死んでいたんだぜ。
「マズイですね・・・・・・」
「まったくだ、何でこんな目に合わなきゃならん」
ホントどーなってんだよ。
「それもそうですが、僕がマズイと言ったのはSOS団本体に攻撃を仕掛けてきたということです」
ん?(俺達が狙われた)=(SOS団への攻撃)ということではないのか?
「その式は成立してますよ。ただ、今回の攻撃対象が不明であること、そして暗殺手段が普通の人間では気が付かない方法で実行されている点です」
・・・・・・まぁ俺達の中の誰をターゲットにしてるか分からないな。この方法だと長門以外の3人は確実に死亡するぞ。長門以外・・・・・・長門の関係者か?確か情報統合思念体には色々な派閥があって、中には過激な手段を実行するヤバイ奴らもいるらしいしな。
「おい長門。お前の親玉の関係者にこんなことしそうな奴いそうか?」
「いる」
やっぱいるのか。まぁそうだよな。以前、俺も朝倉に殺されかかったしな。あいつまたこの件で出てきそうで嫌だな。ナイフ持ってスタンバイしてんじゃねーのか。
「それはない」
長門即答。
ホント?俺もうヤバイ目に合わない?
あいつコエーんだよな。もうすでに2回俺は朝倉に殺されかかってるしな。2度あることは3度あるって言うじゃないか。正直俺は今回の犯人はまた朝倉じゃないかと疑ってるんだが。また復活して暗躍してるんじゃないのか。
「確かに朝倉涼子も私達と同様にこの原因不明の現象に関わっている。それは正しい。しかし、この毒物を使用した暗殺未遂事件には無関係だと断言できる」
なぜだ?
「朝倉涼子は涼宮 ハルヒの忠実な信徒だから」
は?
「現在、朝倉涼子は教団のトップにいる。涼宮ハルヒを神と崇め我々にも極めて協力的。かつて彼女が所属していた情報統合思念体の急進派からも自ら距離を置いている。彼女は犯人ではない」
・・・・・・マジか。最近驚くことが多いわ。
朝倉がハルヒの信者?何でこんなことになったんだろうね。ハルヒのどこを見て信仰の対象としたんだ?朝倉も長門同様に超人的な能力を持ってるのは知ってるが、それ以上の超常の存在であるハルヒに憧憬でもしたのかね。
「理由はわからない。本人に聞かない限り」
そうだよな。
「しかし推察は可能」
長門も変わったな。他人の心中を察することを口にすることができるようになったなんて。少しホロリとしちまった。
長門も朝倉も所属してる派閥は違っても親玉は同じだし、立場的には同類だし共通項からより精度が高く推し量ることも可能だろう。ぜひ聞かせてくれ。
「救いが欲しかったものと考えられる」
救い?あいつ自業自得じゃないか?自分で罪を犯して罰を与えられるって印象だぞ。
「・・・・・・そういうことですか」
なんだ古泉。分かるんなら言ってみろ。
「僕も確信がある訳ではないのですが、朝倉師は情報統合思念体の急進派に属してます。そして彼女はそこの構成員として暗躍し活動していました。彼女は立場は違えど長門さんと同じように与えられた指名に忠実に生きていました。しかし、彼女の今までの行動の結果はご存知のとおり、当人が考えていたものとは違うものになり、最終的には朝倉師は処分されるというケースのみです」
人の口から聞くと余計に朝倉が自業自得であると思えるぜ。
「確かに、自身の行動から予期せぬ結果を与えられた自業自得は正しいでしょう。しかし、長門さん達は所属する情報統合思念体の派閥の方針で動いています。そして、現在活動している長門さんの関係者は現場の最前線で活動しています。僕もそうですが、組織の末端は思うところがあるのですよ。任務内容や組織の方針やら色々とね。情報統合思念体ともなると、我々人類の及ばない自称についても何かしら思うところがあるのではないでしょうか」
何か会社員みたいなこというんだな。まぁこいつらの立場や事情を考慮すればそうなんだろうさ。
「長門はどうなんだ?現状に不満やら疑念とか持ってるのか?」
「・・・・・・」
無言のアンサーサンキュー。
これはYESと解釈していいのかな。長門の表情を多少は読み取れるようになってきた俺にはそのように思える。それに沈黙で返答する場合もあるしな。
「遅くなりました~」
あぁ、朝比奈さんだ。今日も遅かったですね。やっぱりハルヒ関係で?
「えぇ、そうなの。涼宮さんに頼まれ物されてのでそれで」
ハルヒの頼みって何頼まれたんですか。どうせ厄介ごとじゃないんですか?安請け合いするとどんどん付け上がるので断ってもいいんですよ。
「それが緊急の要件らしくて大急ぎでやってる感じなの。私も詳細は知らないから涼宮さんに直接聞いたほうが早いかも」
何だかやな予感がするんだが。聞くのも怖い。
「何が怖いですって?」
ハルヒ様登場だよ。クソ。嫌な感じがしたからとっとと帰ろうかなと思ったところなのに。
「そうはいかないわよ。帰すもんですか」
ハルヒはそんなこと言いながら手に持ってる資料を俺達に配り始めた。何これ。
「怪文書」
は?
「」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます