第2話 友人に聞いた。
ハルヒが神になってからしばらく経って、俺の生活環境も大分変わってきた。
SOS団のメンバーは、この世界の神となったハルヒの直属の臣下ということで、授業は特別免除されるようになっていた。このことを知ったのは俺が職員室に用事があって、その帰り学年主任に耳打ちされた。
「キョン様、少しお時間頂いてもよろしいでしょうか。お耳に入れたいことがございます」
・・・・・・、人生の先輩で年齢も自分よりずっと上の大人から様付けでやたらと丁寧に話されることになれてない俺は少し面を食らいながらも、どうしましたかと辛うじて返すことができた。
俺はその後、校長室に連れて行かれ、校長からSOS団のメンバーは各学年における全教科全科目
の授業及び試験を、個人の権限で出欠が可能となった。
出席と成績とかはどうなるか気になって確認したら、学校や教育委員会には、SOS団のメンバーには他の学生とは別の存在と認識されてた。
従来の履修コースではなく特別な判断が必要とのことらしい。
いやいや、アナタ方教員何年やってるのか知らんが、目の前にいる俺を良く見てみろと言いたくなったね。どう見ても他の学生と変わらんだろうが。俺なんか別に特別優秀じゃないぜ。
「何を仰られますか!SOS団の皆様は神から選ばれし者。もはや我々と同列に扱うことなど許されることではございません」
マジかよ。
そういう扱いは辛い。
だって人に良い様に見られるんだぜ。神様の仲間でチヤホヤされて何かしら醜態でも晒したら、失望で逆に大衆から酷い目に合いそうなんだが。あと色々演技しなくちゃいけなくなるだろ。
心身ともに疲れるだろそんなの。
そんなんじゃ普通の高校生活を楽しめやしない。
あー何かもう嫌な想像をしちまった。クソ、これもハルヒのせいだ。
何とかしろよ、神様。
谷口という男がいる。
俺のクラスメイトでそこそこ話し、昼飯を一緒に食べる仲だ。
まぁSOS団の仲間以外では、比較的仲が良い部類だろう。
こいつはハルヒと同じ東中出身で、高校入学前のハルヒに関する情報を俺に提供してくれた奴だ。時々SOS団の活動に強制的に参加させられている、俺から見ればハルヒの被害者の一人である。
少なくとも、SOS団の活動開始からしばらくはそのように谷口という男をそのように認識していた。ただ、一緒に高校生活を過ごしていると、谷口がもしかしたらハルヒに何かしらの役割を与えられた何者かではないかと疑い始めた。
谷口との過去の会話や行動を思い出すと、直接ハルヒ又はSOS団に接触や影響を与えるようなことはないように思う。
ただ、俺を媒介にハルヒやSOS団に、又は俺がハルヒが起した騒動に巻き込まれている最中、助言や情報提供といった形で関わろうとしているのではなかろうかと感じていた。
実際のところはわからん。
だが、谷口という男は何かしらの情報を得るという点で評価すると、頼りになる男なのだ。
女好きだが。
「おい谷口」
「ん?んだよキョン、俺腹減ってんだよ。飯ぐらい食わせろって」
谷口と国木田は俺のことを今まで通りキョンという。他の連中は俺達SOS団を遠い存在のように扱う者が多い中では、こいつらのように変わらず接してくれるのは貴重なものだ。
「お前何がっついてるんだよ。犬みたいだぞ」
「お前らみたいな特権階級と違ってこっちはただの学生なんだよ。しかも劣等生だ。試験勉強やその他色々で忙しいんだよ。とっとと食って勉強しなきゃいけねーの」
劣等生かどうかはともかく、お前が俺とそんなに変わらん学生であることは知ってるさ。
それより俺は谷口の【その他色々】の方が気になったね。
こいつのことだからきっと女の物色やらバイトとかそんなんだろう。
こいつの私生活に関しては聞くに及ばず。
また他のクラスの女子生徒の個人情報やら誰と誰が付き合ってるとかそんな話は聞きたくない。
だが、聞くことは他にある。
ハルヒの件だ。
谷口は何故か校内はもちろん、その他方面に詳しいというのが俺の認識だ。
最近だとついつい便利な男として情報提供してもらってる。
こいつ一体何やってるんだろうなマジで。ハルヒとは違った意味でよく分からん奴だ。
「涼宮ね・・・・・・、あいつモノホンの神様になっちまったな。変な奴だったからきっと変なものになるんだろうとは思ってたけどよ」
あーこいつは東中の時からずっとハルヒと同じクラスなんだっけ。
こいつもある意味ハルヒに選ばれていた奴だったのかな。付き合いで言えば谷口は俺よりハルヒと長いわけだし。
まぁ世間は広い。中学から高校まで同じ教室で育ったどころか小学校から同じだったり、それ以前から同じ付き合いの奴もいるだろう。
別に特別不思議なことでもないよな、とか思いつつもハルヒが関わってるからなとも思う。
実際、SOS団の活動にはレギュラーメンバーの他に、友情出演的な参加者の名簿にはこの谷口も登場するのだ。その際、女好きなのが露呈するのだが。
ま、それも仕方がないことだな。SOS団の女性陣及びその関係者は綺麗どころばかりだしな。
正直俺も困るときがあるのだ。目のやり場とかにな。
「俺もSOS団の用事であんまり授業出席してないんだ。俺がいない間ハルヒが登校してるとか、何かまた珍妙なことをしでかしてるとか知らないか。分かる範囲で教えてくれ」
「ん~むしゃむしゃ、涼宮ねぇ、そうだな、先週1回来てたな教室に」
「本当か!?」
来てたのかよあいつ・・・・・・。
たまに登校したなら部室にも顔を出して欲しいものだ。
この混乱もそうだが、SOS団は今とても忙しくなってしまった。
神様(ハルヒ)のおかげでな。なんとかせい、神様。
谷口が弁当のから揚げに箸を付けて一時停止して言った。
「あぁ、でもすぐ帰ったぜ。思ったんだが涼宮マジ変わったよな。まー神様になっちまうくらいなんだから人も変わるか。雰囲気がまるで違うもんな」
「そんな変わったか?俺も久しく会ってないがあいつが急変するとは思えないぞ。おい谷口、お前中学からずっと同じクラスだったんだろ?以前も今回みたいに人が変わっちまうようなことがあったか?」
「ん~、・・・・・・ないな。ない。確かに今回は変だな。涼宮は一貫して変な奴ってだったわ。そりゃ人間だから一時的に印象が変わるってことはあるけどよ、ここまで変わるのは以上だな。それに日に日に周りの様子が変わってる感じがするぜ」
ふーむ、何があったのかねハルヒに。
連絡は取れないしどうしようもない。
短時間だけど登校したということは何か用事があったのだろう。それも短時間いただけで帰ったということは、それほどの大事ではなかったということか。
しかし、今やハルヒは神だからな。
大事も小事になんじゃないのか。何でもできるはずだし。
本当に何してるんだよあいつ。しかも部室に来ない。
今まで何かする時はSOS団や、場合によっては関係者も巻き込むような言動や行動をとっていたのに。
ハルヒによって、わけの分からんことに巻き込まれるのは何度もあった。
だが今回はなんだ。ハルヒが自発的に動いて巻き込まれて俺達には説明なし。
SOS団は団長不在の状態で不可思議な現象に直面している。
俺が事態を把握しきれないことに不満を感じていたのを察したのか、谷口はから揚げをもしゃもしゃ食いながら言った。
「もしかしたら会えない事情があったんじゃないか」
ハルヒが?なぜ?理由がわからん。会いたくないと思われるようなことした覚えはない。SOS団のメンバーはもちろん俺もそうだ。むしろ団長にちゃんと従ってたぞ。朝比奈さんなんか特に奉仕してたと思っているのは俺だけじゃないはずだ。
「違うぞキョン」
「じゃあ何だよ」
俺が思いもしなかったことを谷口は咀嚼済みの白米を飲み込んで言った。
「何か理由があってお前らを巻き込みたくなかったんじゃないのか?」
ハルヒが?何で?むしろあいついつも俺達を巻き込んでたと記憶してるのだがな。
「巻き込みたくない、関わらせたくない、まぁ言い方はなんでもいいけどよ、ようは良くない理由から距離を取る必要があったってことじゃねーの」
それは何だかハルヒらしくない気もするんだが。今のあいつは神様だからな、仮によからぬ問題が発生しても、真に万能の力を以ってして即解決すると思うが。
しかも、俺達を巻き込みそうなものだけどな。
だからありえんと思うぞ。
「そうか?涼宮にとってお前らが大事な仲間だから当たり前な気がするんだけどな俺には」
・・・・・・なるほど、それはハルヒらしいかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます