第4話-4 ラブコメ展開は突然に

ゴオォッ!!!


魔王城内、ユリンのために用意されていた部屋は広い。

広い、のだが。


「そうは言っても、音速で動くには向かんな」

言う魔王は、奥の壁に肩から半分めり込んでいた。

「っと、後で直しておかねば」

瓦礫を払いながら、壁から抜け出しユリンに向き直る。

「いやいやいやいや、マグくんさ。

 音速で動いて、で、なに?いや、ほんと、キミ、何がしたいの??

 あ!わかったわかった!

 愛しのユリンちゃんに攻撃され続けて、おかしくなっちゃったんでしょ!

 あはははははは」

虚空から聞こえる声は、突然音速で壁に突っ込んだマグの行動についていけず、おかしくなったものと笑いを堪えられないようだった。

姿は見えないが、お腹を抱えて床を転がっている姿が容易に想像出来るほどだ。

「や……」

そんな中、魔王に注目を奪われていたユリンの口から、小さな声が漏れた。

「『や』???

 どうしたんだい?ユリン…さん?」

次の瞬間――


「きゃああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」


絹を裂くような悲鳴が響き渡ったのだった。


「え?え?いや、え?

 何が起こったの?ユリンさん???」

「こ、こっち見んなーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」

この際、本当に見てるかどうかなどは関係なく、ちょっとした声にもこの反応である。


ふぁさっ…


突如として叫び声をあげ、体を抱えるようにうずくまったユリンに対し、魔王が羽織っていたマントを上からかけた。

「あー、うん、ユリン、申し訳ない。他に手が浮かばなくてな。

 あ!俺は!見てないぞ!!!」

「うう…マグ兄の…えっち……」

そこには。

音速の衝撃波ソニックブームにより、鎧の下のインナーが全てビリビリに破け、裸鎧、というとてもマニアックな格好の上から魔王のマントをはおり、涙目で魔王を睨みつける勇者がいた……。




「そもそも、勇者装備というのは非常に特殊な作りでな。

 当の貴様もよく理解していないのか無視しているのかはわからんが。

 基本的に『魔力の乗っていない』攻撃に対しては、さほど強い耐久性を持っていない、と思われるフシがあってだな。

 賭けではあったが、うまく行ったようでよかった」

ユリンを後ろにかばって立ち、破壊王の魔力濃度の最も高い虚空をにらみながら魔王が話す。

「そ、そんなことが…」

「恐らく盲点なのだとは思うが。そもそも我ら魔族が勇者と戦う際に、攻撃に魔力が乗らない事はありえないからな。

 特に幽閉されて時間の長い貴様ではそういったことを思いもしなければ、試しもしていないだろう」

「…………」

虚空からは答えはない。


―――――


そもそも、魔王がそれに気づいたのも、ユリンと食事をしていた時のことだった。

「ユリン、非常に言いづらいんだがな。

 その、鎧下に着ているシャツの脇のところに穴が空いているぞ?」

そして、その下の下着が見えているぞ、と続けられなかった魔王は、糊塗恋愛ゴトにおいてはタダのヘタレだといえるだろう。

「あ、ほんとだ?

 なんだろ、普段の戦闘でどんだけ攻撃を受けても破けもしないのに。

 木の枝にでも引っ掛けたかな?」

「おいおい、ユリンよ。

 なぜ戦闘でダメージを受けないものが、木の枝ごときで穴が空くんだ?」

「うん、たしかにそうだね。変なのー」


―――――


そうして、魔王が目論んだ通り。

26の呪縛を破り、羞恥心、という強い心の力を伴うことで、ユリンは支配を免れることができたのだった。

「ま、これでダメなら、強引にキスでもしてやろうかと思っていたがな!」

「いたがな!じゃないよ!マグ兄!!!」

顔を真っ赤にしながらユリンは魔王を睨みつける。

「ふぅ……」

しかし、このままいつまでも蹲っていても始まらない。

ユリンは軽く息を吐くと、マントを掻き抱きながら、短い呪文を口走る。


巻き戻れリターン


一陣の風と共にビリビリに破かれていたインナーは元に戻っていた。


「マグ兄、後で説教ね」

「な、なぜだ!?」

「だって…見たでしょ…?」

「み、見てない!!」

「ホントに~??」

「ほ、ほんとだ…」

「あ!目をそらした!あ~やし~~~」

「…いや、その、ほら。鎧でな?隠れてるだろ?

 だから…」

「見たくても見れなかった?」

「そうそ……はっ!!」

「へ~、見たかったんだ~~~」

「…そ、そりゃ惚れた女の裸ならみたいに決まってるではないか!」

「う…や、うん、そう正直に言われると照れるよ~…」

「ユリンが言えといったようなものだろう?」

「そ、そうだけど…。開き直るのずるいよー」

「ずるい、と言われてもだな」

「はぁ、そうだよねー、マグ兄だって男の子なんだよねー」

「お、男の子!?!?!?

 …ユリン、俺は、数千年生きてるぞ…?」

「えー?それでも男の子には違いないでしょー?」

「うぅむ、そういうものなのか」

「そういうものなのです」

そうして、二人はイチャイチャと…


「イチャイチャしてんじゃねーーーー!!!」

もちろん声の主は破壊王。

「なんなんだ、なんなんだこれは。

 いつからラブコメになった?

 『男の子なんだね~』じゃねええええええ!!」

ごもっとも。

離れた所でラジーも頷く。

「ああ、いたな、お前」

「はぁ、自称神、が黒幕だったなんてねぇ」

言いながら体制を整えたユリンは、改めて武器を構える。

「ほんとうだな。

 今更になってこの男の名前が出て来るとは思わなかったぞ。

 どおりで色々穴が多かったわけだ」

同時に、魔王も両手剣バスタードソードを構え直す。

「あーーもーーーーー!」

その光景に、破壊王のイライラは限界を突破。

魔力反応が膨れ上がったかと思えば、


カッ!!!!


まばゆい光と共に、ついに破壊王が現界していた。

「ふぅ…あまりの怒りで、時の回廊から出てしまったではないか。

 もう少し力が回復してから、と思っていたのだが。

 ま、正体もバレていたことだし構わんか」

身長は2mをゆうに超え、4本の腕にはそれぞれ異なる武器を持っていた。

回復が足りない、と言う割には魔力量も底が知れず、対峙しているだけでものすごい圧力であった。

「なるほど、破壊王の名は伊達ではないということか」


バタバタバタバタ


「ユリン!何があった!?」

「こん魔力はどういうことや?」

「ユリン~生きてる~?」

その魔力反応に、部屋で休んでいた仲間たちも駆けつける。

「みんな!」

「ラジ―!お前も加われ!!!」

「はっ!」


勇者・魔王連合軍vs破壊王の最終決戦が始まる――



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