第4話-3 勇者装備 SideM

魔王城内に突然現れた、本来あるはずのない気配。

(まさか、ありえない!)

だが、頭に浮かぶのはたったひとつの名前。

ありえない、が、このような魔力を持つものが他にいくらもいてはたまらない。

「ラジー!」

「はっ、心得ております!」

同じ気配を感じ、同じ考えに至った副官。

ただ、名前を呼ぶだけで全てが通じた。

やはり、ありえないことが起こっている、と。


「これは…まさか、ユリンの部屋か!」

「恐らく!」

言うや否や、魔王はユリンの部屋へかけていく。

追う副官は、すぐに魔王を追い抜く。

「魔王さま、お気持ちは察しますが、何が起こっているかわかりません。

 私が先に行きます!」

「だが…!」

「何か不足の事態が起こっていることは間違いありません。万が一の場合に、魔王さまが先行では、対応しきれないことだってあります。

 お願いですから!」

「……そう、だな。すまぬ。頭に血が登っていたようだ。

 冷静な副官がいてくれてよかった」

「ありがたきお言葉」

走る速度を緩めることなく、二人は駆けていく。


(この魔力…やはり、そうなのか)

ユリンの部屋の前まで来て、疑惑は確信に変わる。

間違いなく、ヤツの魔力だ。

ラジーを見ると、大きく頷く。

そして


コンコン


「ユリンさん?少しよろしいでしょうか?」

「…………」

返答はない。

「ユリンさん?もう、おやすみになっていましたでしょうか?」

再度声をかける。

「…………」


ギィ…


「…………ああ、ラジーさん?

 ………どうぞ」

長い沈黙のあと。

ゆっくりとドアが開く。

明らかに先程までのユリンとは違う雰囲気だった。

「ユリン…」

「ああ、魔王も一緒ですか…」

見た目に変わった所はない。

謁見の間で対峙した時のまま、鎧や武器なども全て身につけたままだ。

いや。

自室で『鎧や武器を身に着けたままでいる事自体』がおかしい!

そして、

「今、俺を『魔王』と呼んだ、な?

 ユリン、何があった?」

「…………」

顔をそらしたまま、再びの沈黙。

「やだなぁ、マグ兄。

 なんにもないよ?」

再び振り向いた時には、不自然な笑顔でそう答えるのであった。


「ラジー?」

「ええ、間違いない、というか、これは間違えようがありません」

ユリンから若干距離を置いたまま、対峙する二人。

魔力探知に長けたラジーが解析の結果を告げる。

間違いない、と。

「何がどうなってこういうことになったのかはわからんが。

 出てこい!シグラニストール!!貴様の仕業だな!?」

はるか数千年前。

先代魔王の統治時代に、時の回廊と呼ばれる異次元の牢獄へ幽閉された者がいた。

先代魔王の実の弟であるその者は、破壊王の名を冠していた。

全てのものを破壊しつくさんとする暴走っぷりに、封じられる事になった存在。

数千年の時をかけ、少しずつ力を削られ、最後には塵になり滅びるはずのもの。

「あらら、さーすがにここで力を使ったらバレちゃうねぇ」

自称神、を名乗る声が、魔王の呼びかけに答えた。

「隠れてないで姿を現せ!」

虚空から声がしたが、声だけで姿は見えず。

「いーやいや、なに言っちゃってんの?

 ボクは時の回廊に幽閉中なんだから、出てこれるわけないじゃん?

 それとも、出してくれるの?『マグ兄』」

あくまでもおちょくる態度を崩さない自称神、こと、破壊王。

「ならば、回廊ごと滅してくれる!!!」

そう言うと、魔王は虚空から巨大な両手剣バスタードソードを掴みだし、魔力の最も濃い空間へ向かって切り付け……


ガキィィィィィン!!!!!


次の瞬間。

ユリンによって、その斬撃は弾かれていた。

「おお、あぶないあぶない。

 ほらね、ユリンさん。言ったとおりだろう?

 倒すべき魔王なんだって、これでわかったろう?」

「…そう、ね。ここで倒しておかなければ、いけない…」

生気を失った眼で、だが、力強い構えで武器を握り直し、ユリンが立つ。

「くっ、おのれ!!」

「あっはっはっは。

 ユリンの身につけている26の勇者装備はね、全てボクの力が込めてあるんだよ。

 そして心には、キミへの疑心暗鬼を植え付けておいたからね。

 もうユリンは、ボクの操り人形おもちゃさ!!」


レベルで言えば。

魔王マグラニストは150を超える。

レベル98となった勇者ユリンと比べても、単純な力比べであれば負ける要素がない。

だが、破壊王の力を込められた26の装備に身を包み、そもそもが反撃ができない状況に、魔王は疲労をつのらせていた。

もちろん、副官ラジーの援護もあったが、誤って攻撃がユリンに当たりそうになるたびに魔王がユリンをかばうため、回復などの単純なサポートしかできなくなっていた。

(ん??26の装備、と言ったか…?)

「ラジー、限界まで加速付与ブーストエンチャントをかけてくれ!」

「魔王さま?しかし、わざわざ加速せずとも対処しきれるかと…?」

「いや、受けきれない、というのではないのだ。

 少し考えがあってな」

「わかりました!」


多重加速付与マルチプルブーストエンチャント


ラジーのありったけの魔力を乗せたブーストに、魔王は次の瞬間。


音速を超えた。

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