第4話-2 勇者装備 SideY

「困る、って何がよ?」

唐突に神を名乗る者の声が聞こえることには全く動じず、ユリンは中空に向けて言葉を返す。

「何が、っていってもさ。

 ユリン…さんは、勇者なんだから、ちゃんと魔王を倒さなきゃ」

「そんなの、倒さなくても解決するなら、それでいいじゃない。

 マグ兄は私と争う気はないみたいだし、私だっても戦うつもりはないし」

「ん~~、だからさ~。それだと困るんだよね~」

ユリンの返答に、自称神が本当に困ったように返す。

しかし、困る、というだけで、全く要領を得ない。

「だからー、何が困るのよ。誰も困らないじゃん」

煮え切らない声にイライラが募る。

「ふーー」

大きく息を吐き、体を起こすユリン。

そんなことより他に考えなければいけないことが一杯あるのだ。

よくわからない自称神の事情になんて付き合っていられない。

「だから!なんなの!?はっきり言ってよ!」


「んーっとさ。そもそも、どうしてユリンさんは魔王の言ったことを頭から信じてるの?一目惚れ、だっけ?どう考えても胡散臭いじゃん?」

少しの間を置き、自称神が続ける。

説得にかかっているような声音だ。

「どうもこうも。

 少なくとも、何かの罠だとしたら、わざわざあんな力を封印した姿でなんて出てこないでしょ?」

そう。あの瞬間であれば、ちょっとユリンがその気になれば、いくらでも魔王を倒すことができた。

だからこそ、あの姿を見せたということが、信用に値する、と思ったのだ。

「それがさー、向こうの作戦なんじゃないの?

 ユリンはお人好しだから、ああしたら信じると思ったんでしょ?」

「…ユリン、さん、ね?」

「あ、はい、ごめんなさい」

それはそれで一理ある話。

だが、余りにも危険だし、そうまでして信用させる意味がわからない。

最初に対峙した瞬間、レベルアップしてなお大きな力の差に死を覚悟したほどなのだ。

何のトクがあって、あんな回りくどいことをする意味がある。

さっさと殺してしまえばいいだけなのに。

「あ、その顔は、そうまでして信用させる意味がない、って思ってる顔だね?」

「…そうだけど、そう指摘されるとなんだかムカつく」

「ユリンさん…そこまでボクのこと嫌い?」

上目遣いで目をキラキラさせながら…といった姿が浮かぶような猫撫で声。

「え?知らなかった?」

「……き、聞こえなかったことにしていい?」

「ご自由にどうぞ?」

「…うん、そうする」

気まずい(と思っているのは自称神だけだが)沈黙がしばし。

「えっと、それで。なんで、そんな回りくどいことをするか、っていうと。

 勇者にしか魔王が倒せないから、だと思うんだよね」

「…えっと、それこそ、私を殺せばいいだけじゃない?バカなの?」

「うぐ、バカって…ボク、負けない!」

自称神は、今回は健気なショタキャラでいくつもりだろうか。

「いや、そうじゃなくて。勇者を魔王が倒すと、また新しい勇者が出て来るじゃない?」

「あんたのせいでね?」

「そ、そうだけど…。

 と、とにかく。魔王はそれがうっとおしくなったんじゃないかな、ってこと。勇者を取り込んでしまえば、新しい勇者は生まれないし、煩わされることもなくなる、って」

「…………なるほど」

確かに筋は通っている。

勇者システムを壊せない以上、止めてしまうしかない、と考えるのは間違ってはいない、だろう。

でも……


「ねえ、ユリン…さん?

 信じられないと思うけど、恐らく間違いないと思うんだ。

 念のため、全部集めた勇者装備、準備しておいた方がいいと思うよ?」

「勇者装備を?」

「きっとこの後魔王の使いがやってくるはずだ。

 うまいこと言いくるめてユリンさんを封印してしまおう、とね。

 26の勇者装備はね、魔王のもつ力を全て無効化することができるんだよ。だから、そうなった場合に封印から逃れることができるんだよ」

「…いや、そんなこと…ありえない……」

自称神の声に、ユリンの心は揺れていた。

自分の目でみたマグ兄は、確かにあの時のままだった。

でも。

好きか嫌いかといった恋愛心理には疎いから、そういった話を急にされて正しく見れなくなっていた、と言われたら否定もできない。

「まぁ、念のためだよ。身につけなくても、すぐに手の届く所に置いておいて損はないと思うんだ」

「う、うん。そうだね。念のため、ね、念のため」

鎧や武器といったものを部屋でくつろいでいる時に身につけているのは不自然だが、指輪などのアクセサリーや、インナー類などは身につけておいてもいいかもしれない。

(あ、でも・・・)


自称神の言葉に、疑心暗鬼を募らせていくユリン。

それでも、マグ兄を、自分の心を信じたい、そう思っていたが…


コンコン


「ユリンさん?少しよろしいでしょうか?」

扉の外から、ラジー魔王の側近の声が聞こえて来たのだった。

「ほら、ユリンさん。ボクの言った通りだろ?」

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