第3話-5 ふりだしにもどる SideM
テイラードとの戦いより3年。
魔王軍と勇者との戦いは、熾烈を極めて…はいなかった。
どころか、魔王軍の中で話題に上がらなくなるまでに、勇者の活動は見られなくなってしまっていた。
「けっ、やっぱりただの根性なしだった、ってことじゃねーか」
魔王城作戦会議室。
別の案件で集められたのだが、ふと思い出したようにテイラードが吐き捨てる。
そもそもの原因はお前だろうに、と誰もが思いつつも、勇者に思い入れのあるものなど皆無である。誰も反論をすることはなかった。
「このまま生かさず殺さず、でほったらかしにするってことですかい?」
「ふむ、そうだな。どうしたものか」
急に振られた魔王が思案する、ふりをする。
「実害もなく、関わりがないのであれば、別に放っておいてもよかろう。
わざわざ手間をかけることもない」
「そーですかい」
その場では、それ以上の会話は起こらなかった。
今の魔王城内での勇者の扱い度合いがわかろうというものだった。
「ふぅ、あの
執務室に引き上げた魔王がそうこぼす。
「とは言っても、なんにも考えてはいないでしょうけど」
「そうだな。特に深い意味はなにもないんだろうな。
で、ラミーからの報告は入ったのか?」
「ああ、はい。少しお待ち下さい」
「現在ですが、勇者が生まれ育った村を拠点に活動しているのは、変わりがないようです」
「ああ、まだあそこにいるのか…」
数年前、初めて勇者に会ったときのことを思い浮かべる。
(超がつくほどの田舎だったが、身を潜めるには向いている、か)
「とは言っても、基本的にはどこかへ出ていることの方が多いようですが。
ラミーによれば、最近は試練の宝珠を使って訓練を行っているとか」
「試練の宝珠……もしかして、あれか!」
「恐らく。勇者装備が少しずつ失くなっていっていますので、その際についでにラミーが持っていったのでしょう」
「なるほど」
26あると言われる勇者装備。
ユリンに与えられた1つ以外は全て魔王軍が管理していた。
最初のテイラード戦にて指輪とイヤリングがユリンの手元に渡り、その段階で15個。
その後、活動が『無くなった』と思われた中で既に5個なくなっており、残っているのは魔王城付近に保管されている6個のみとなっていた。
『失くなった』とされているのは、一切の痕跡を残さずに消えているかだった。
「恐らくそれも勇者装備の特殊効果だろう」
「特殊効果。はじめに聞いたときにはにわかには信じられなかったですが、こう結果として見せられると信じないわけにはいかないですね。
勇者以外には使えない以上、こちらではどういった効果があるかわからない、というのがなんともですが」
「実際あれは大したものだぞ。
最初に会った時、いくら魔力を完全封印していたとはいえ、この俺の背後を気配もなくとったのだからな」
なぜか自慢げな魔王。
「なるほど……。
ん?魔王さま?
今、魔力を完全封印、とかおっしゃいましたか?」
「……あ!!あ、いや、そ、それは、だな。えーっと……」
勇者に会いに行く際、様子見を兼ねて魔力を完全に封印した人間に擬態していたことは、ラジーにも内緒にしていたことだった。
ついうっかり。
普段の魔王であればそんな油断はしないのだが、ある意味平和なこの所の空気に気が緩んでしまっていたようだった。
ラジーが、これまでに見たこともないような顔で説教を始め、終わった頃には既に数時間が経過していたのだった。
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