第3話-4 疑念 SideY

4.疑念 SideY

「…ん…ここ……は…??」

目を覚ましたスライクの目には、見覚えのない光景が広がっていた。

最後の記憶は…そう、テイラードの強烈な一撃を受け止めきれなかったシーンで止まっている。

「俺は…生きて、いるのか……?」

全く実感がない。

あの一撃を受けて到底生きていられたとは思えなかったが、思った以上に自分は頑丈だったようだ、とスライクは思うことにした。


ガチャ


そんな考えを巡らせていた時、ふいにドアの開く音がした。

体に力が入らず、体を起こすことはできなかったため、音のした方へなんとか顔を向けてみる。

「…ユリン…」

「スライク!!!!」

なんとか絞りだした声を聞いて、ユリンが駆け寄ってきた。

目には涙が浮かんでいる。

「よかった、本当に、よかった!!!」

「そんなに……酷かった、のか…。

 確か…に………体が…思うように……うご…かない……が……」

ぽつりぽつり、と絞り出すようにしゃべる。

いつもの豪快な様子は全くなく、体に残ったダメージを物語っていた。

「ううん、うん、うん、よかった…」

駆け寄ったユリンは、抱きつきそうな勢いだったが、体に触らないよう手を握るだけにとどめ、ただひたすらに泣いていた。


―――――――――

「スライク!スライク!!!」

転移の黒曜石ブラックゲートにより、遥か遠方まで逃げることができたユリンたち。

だが、魔力を使い果たしたカキツバタは昏倒しており、ユリンも満足に体を動かせない状況は変わらず。

そして、スライクは、ピクリとも動かなかった。

「ユリン、大丈夫。まだ、まだ間に合う!」

倒れ伏したまま叫び続けるユリンへ、ラミーが声をかける。

「間に合う…??なに、どういうこと?スライクは、助かるの!?」

「うん、助かるよ!だけど、急がないと。

 ユリン、あなたの力、めいっぱい借りる!!」

「私の、力?なんだかわかんないけど、スライクが助かるなら、なんでもする!!」

「じゃあ、少しだけ、血を!」

言うなり、まだ固まりきっていないユリンの額の血を指で軽く拭い取る。


 巡れ巡れ巡りて廻れ

 廻れ廻れ廻りて還れ

 天は地に 地は天に

 此方は彼方に

 彼方は此方に

 其はありし此へ

 

詠唱が進むにつれ、ラミーの指についたユリンの血が光を放ち、同時にユリンの体に負荷がかかる。

「こ、これって……く、ぅ…」

その負荷が一定を超えた頃、ユリンが意識を失う。


 巡り!廻り!還れ!!

 反魂の法リザレクション!!!!


一瞬でも目を開けていられないほどの強烈な光とともに、ラミーの詠唱が終わった。

と、同時に、

「が、がはっ!!!」

ピクリとも動かなかったスライクが、息を吹き返したのだ。

「ふぅ…。

 ユリン、あなたの勇者の呪い力のおかげでなんとか…」


●勇者の能力5:いかに瀕死の怪我を負おうとも、一晩寝れば全て回復する


既に枯渇しかかっていたラミーの魔力では行えなかった蘇生の魔法を、その尋常でない回復の力を使うことで、行ったのだった。

「それにしても、ここまでの力、とはね~…」

そう言って両手を見つめるラミー。

蘇生してなおあまりある力の反動により、ラミーの魔力も半分以上回復していたのだ。


―――――――――


スライクが目を覚ましてから数日。

元々体力があったことに加え、勇者の力を上乗せさせて使われた蘇生魔法により、文字通り死ぬほどのダメージを受けていたにも関わらず、かなりの速さで回復していた。

「それにしても、ラミーはん。あんさん、なかなかおもしろいことしはりますな~」

借りた宿の庭で食事を取りながら、ふいにカキツバタがラミーに話しかける。

気のせいか、目が笑っていないように見える。

「面白い??」

いつもと同じ口調ではあるものの、いつもと違う雰囲気に身構えながら、ラミーが返す。

「せや。転移の黒曜石ブラックゲート持っとっただけでも驚きやのに、まさか邪法である反魂の法リザレクションまで使わりはるとはな~」

そこで、一呼吸を入れ。

今度は浮かんでいた一切の笑みを消し、問う。

「あんさん、何者や?」


死んだ生き物は生き返らない、というのは、どの世界でも共通の常識であり、普遍の真理である。

だが、反魂の法リザレクションはその真理に反する法である。

邪法とされており、魔法を使うものの中では禁忌とされていた。


「う~ん、そうだな~。確かに、話しておいた方がよさそうだね~。

 といっても、元々隠すつもりもなかったんだけど。

 ボク、魔族なんだよね~」

「…い、言うに事欠いて魔族とは。

 目的は、なんや?

 ことと場合によっては……って、やめやめ」

言って、カキツバタは真剣な表情を崩した。

「あんさんのその顔見たら、敵でないことだけは間違いなさそうやしな~」

「うん、それは間違いないね~」

「魔族云々は眉唾もんとしても、そもそも、敵やったらあんな命がけで助けたりしはらへんやろし。

 そこだけは信じさせてもらうわ。裏切らんよってな?」

最後にひと睨み。釘を刺す。

「だ~いじょ~ぶ!」

返すラミーは、笑顔だった。


「さて。

 ユリン、これからのことを少し話さない~?」

ひとしきり食事も終わり、ラミーが告げる。

体は癒えたばかりだが、まだ心は癒えていない。そんな状況ではあったが、だからといって足踏みしているわけにもいかない。

「これから、か。

 ふー……ほんとは、もうこのままここで隠居生活を送りたい気分だけどねぇ」

「隠居生活も悪くないな。それについては俺も同意見ではある。

 が…」

「そうも言ってられへんやろな~」

「だと思う。あの魔戦将軍テイラードが治める土地からは遠く離れることができたけど、他にも強い魔族はいっぱいいるし。

 いつ攻めてくるかもわかんないしね~」

「はぁ……なんで私、勇者なんてやらされてるんだろう……

 っていっても、あの神さまバカのせいなんだけど……はぁ…」

「言ってもしょうがねーさ。俺なんて、そもそも勇者ですらないわ一回死んだわで、もっとひでーぞ?」

「いやー、酷さで言ったら、私の方が上だって。こんなか弱いうら若き乙女に…」

「あ、今そういうの別にいいんで」

「ちょ、ちょっと、ラミー冷たい!」

「あはは」

そうやって笑える所を見ると、まだ、完全とは言えないが、少しは心の傷も癒えてきているように思えた。

(これも勇者の力呪いによるものなのかもだけど…)

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