第3話-3 疑念 SideM

(あれは・・・テイラード?随分上機嫌のようだな)

魔王が執務室へと向かう廊下にて、普段は見ないテイラードの様子に、ふと立ち止まる。

テイラードも同様こちらに気がついたようで、おもむろに近づいてくる。

普段なら挨拶すらしないのだから、やはり様子が違う。

「どうしたテイラード、機嫌良さそうだな」

「これはこれは魔王サマ。はっはー、ちぃとばかしな、楽しいことがあったもんでよ」

「楽しいこと・・・?」

わざわざ含みをもたせた言い方に、何かしら魔王にとって不利益が生じているだろうことが予測された。

そこへ、

「魔王様!!緊急のご報告が!!」

ラジーが駆け込んでくるのだった。


「こ、これはテイラード様。お話の途中で大変申し訳ございません。危急の報告であったもので、お許しください」

「はん、構わねぇよ。急ぎじゃあしょうがねーやな」

急ぎじゃしょうがない、など、テイラードの口から聞ける日が来るとは。

あまりに普段との違いに、ラジーは訝しげな目でテイラードを一瞥し、そのまま魔王に向き直る。

「で、では、執務室にて報告を・・・」

「あん?急ぎじゃねーのかよ?ここでやりゃいいじゃねーか」

にやにや。

そう表現するのがふさわしい笑みで横槍を入れてくるテイラード。

(ふむ、なるほどな)

「ラジー。よい、こやつに聞かれて困る内容でもあるまい。報告せよ」

「は、はい!」


「勇者パーティ壊滅・・・そうか」

「わりぃな、あまりにも弱すぎてなー。これでも手加減はしたんだぜ?」

全く悪びれることもなく、にやにやを崩さないままテイラードが言う。

魔王の慌てる姿が見たくてしょうがない、ということなのだろう。

「まぁよい。ダメならダメでその時だ。所詮はそこまでだった、ということだ」

だが、魔王はそれだけ言うと、一切慌てることなく立ち去ったのだった。

「お、おい!いいのかよ!?魔王サマのお気に入りだったんじゃねーのか!?」

「お前は阿呆か?お気に入りのおもちゃが壊れたからって、いちいち泣き叫ぶとでも?

ラジー、行くぞ」

「はっ」

後には、思惑通り行かずに悔しがるテイラードのみが残された。


−−−−執務室

「ラジー、詳細の報告を」

執務室に着くなり、これまでのポーカーフェイスが崩れる魔王。

危うく、テイラードに焦りの表情を見せるところだった。早々に話を切り捨て、立ち去ったのはそういうわけだったのだ。

「はい。ラミーによりますと・・・・・・」


「・・・・・・ふぅ、ご苦労。あのテイラードバカが思ったよりも大暴れしたようだな。

転移の黒曜石ブラックゲートまで使ったとはな」

大きく息を吐きながら、椅子に深く沈み込む。

テイラードの様子から嫌な予感はしていたが、思った以上に深刻だった。

「よほどの緊急事態だったようです」

「そのようだな。

テイラードは脳筋だからいいとして、アズラーがめんどくさいな。おそらく何かしらの探りを入れてくる」

転移の黒曜石ブラックゲート使用の瞬間を見られているでしょうからね。適当に嘘情報を流しておきます」

「たのむ。で、ひとまずは全員生きていた、ということでいいんだな?勇者の様子は?」

「ええ、なんとか全員生きている、とのこと。とはいえ、反魂の法リザレクションを使わざるを得なかったようですが。

勇者は、勇者システム呪いによって身体面では問題ないようですが・・・」

「精神面の方が問題、か。ふむ、どうしたものか・・・」

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