第3話-6 ふりだしにもどる SideY
薄暗い洞窟をひた進む。
ユリンの隠れ家より、徒歩で約1日の距離にある、解放の洞窟。
そこをユリンは1人で進んでいた。
「で、そんな大事なことを、何をどうして黙っていたのかな?」
洞窟の奥へと向かいながら、ユリンは宙へ向かって睨みを効かせる。
「だ、黙ってただなんて人聞きが悪いな~。聞いてる人いないけど」
「そういう妙な茶々はいらないの。わかる?自称神さま?」
さらっと流してしまおうと軽口を叩いたのが、かえって怒らせる結果になってしまったようだ。
ユリンの声から、隠す気すらない怒りがダダ漏れていた。
「なにこの『レベル上限』て。馬鹿なの?ある一定以上は絶対に強くならない、とか何の嫌がらせよ?」
「いやー、だってさー。まさかLv70になるまで生き残るとは思ってなかったからさー」
試練の宝珠にて鍛錬を行っていたある日、突然頭に例のファンファーレと共に聞こえたのだ。
★おめでとうございます。Lv70、上限に達しました。
これ以降経験値の獲得はありません。
早急にレベル上限の解放を行って下さい
「あの時は私は耳を疑ったわよ。
説明書読み直してもそんなことヒトコトも書いてないし」
「だ、だから、わざわざこうして説明しに来ただろー?」
●勇者の能力1:経験を【力】に変えることができる。
経験を積めば積むほどに【力】が蓄積していく。一度蓄積したものは、特別なことがない限り失われることはない。
だが、そこには『上限』があった。
説明書に敢えて記載をしていなかった、能力の制限である。
「そんなもん、当たり前でしょう?
説明書の不備があったんだから!ユーザーサポートはちゃんとしてもらわないと、いい加減では困るんだよね!」
「あ、はい、ほんと、すいませんでした…」
相変わらず、神に対して容赦のない勇者である。
「で、この奥で試験を受けたら、上限がなくなる、ってことでいいのね?」
奥に進むにつれ、洞窟は人工的な造りになってきていた。
どうやら、『試験』とやらのためにわざわざ造られた施設のようだった。
「ユリン、キミは何を言っているんだい?ここの試験を受けることで、上限が70から80になるけど、なくなりはしないよ?
もちろん、ここが終わったら、次は80から90になるための試験があって、さらに次が100、その次が150、って感じだっt…」
「…何を言っているんだ、はこっちのセリフだー!!!!」
だーーー!!だーー!だー……
思わず叫び返した声が、洞窟中に響き渡る。
声に驚いた小動物などが勢い良く逃げていっているようだったが、気にしない。
「なにそれ!?こんなめんどくさい試験っての、そんな何回もやんないといけないの!?」
「そりゃそうだよ。だって、試験を通してそれ以降のレベルアップに耐えられるように体の強化をするんだもの。それしないでレベルアップしようとしても、体が耐えられなくて、大変なことになるんだよ?」
「なによその大変なこと、って!」
「え、えっと、、、聞きたい?」
「あったりまえでしょ!」
「んっと…ちょっと、体が…」
珍しく口ごもる神。
「体が、なに!?」
ただでさえイライラしているユリンに、それは逆効果であった。
実体があったら、肩を掴んでぶんぶん振り回しているところだろう。
「ちょーっと、ね。負荷に耐えられなくなった体が、ぽーん、と、ね」
「ぽーん???」
「弾け飛んじゃうんだな、あははー」
…………。
「軽く言わないでーーー!!!」
でーーー!!でーー!でー…
再度響き渡るユリンの声。
(はぁ、ダメだこりゃ。
て、ぽーん、ってなに、ぽーんて。
そんな軽くないじゃん…。はぁ……)
「ちょ、ちょっと、ユリン?そんな、神にアホって振り仮名振るのやめてくれないかな?」
「…ユリン”さん”でしょ?」
「あ、はい、すいません、ユリンさん」
「あと、勝手に人の頭の中読むのやめてもらえませんかね?」
それから2年。
さらに2つの試験を通り、ユリンはLv98になっていた。
「さて、そろそろリベンジと行きましょうか」
「おうよ。この5年でどれだけ強くなったかを試しにいこうぜ」
「あての新しい力も試したいもんやな~」
「回復はまかせて~~。2回位なら死んでも大丈夫だからね、スライク」
「おいおい、縁起でもねーこといわねーでくれよ」
「ふふ、大丈夫、もう、絶対死なせないから(私の命に変えても)」
「ユリンはん?なんかみょ~~なこと、考えとりまへんか?」
「そんなことないよ?今のボクはLv98だからね、そうそう負けない、って、それだけだよ」
「ふ~ん?そういうことにしときましょ」
ユリンが勇者として目覚めてから10年。
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