第2話-3 旅の仲間 SideM

「ふぅむ、魔王のやつ、頭がおかしくなったんじゃねーのか?

 しかしある意味これはチャンスだな。勇者は唯一魔王を殺せる存在。俺様が直接魔王を殺すことはできないが、うまく勇者を育てて、代わりに殺させればいいわけだ。

 くっくっく、俺だって頭を使えるんだぜ?」


「なんてことを、テイラードのやつは考えているんだろうな」

「ええ、そうでしょうね」

魔王城執務室。たった3人による、「本当の会議」が行われていた。

「しかし、あの時の名演技はなかなかだったな、ラジーよ」

「お褒めに預かり光栄です。あの脳筋を騙すくらいならワケもないことです。

ですが、メイリィは未だに納得していない様子。顔を合わせる度に、何かしら探りを入れてきていますよ」

「ははっ、あいつはアレでいい。一人くらい頭が回るものがいないとな。どうだ、お前の補佐として使うか?」

「ふむ、そうですね…魔王さまのお守りも大変ですからね」

言って笑うラジー。魔王にこういった軽口を叩けるのも、魔王軍広しと言えどラジーくらいのものだ。

もっとも、口うるさいディラッグがいる時には、控えるようにしているが。

「それにしても、勇者を育てる、などと言い出した時はお気が触れたのかと思いましたが、なるほどテイラードをおとなしくさせるための策だとわかって、安心いたしましたよ」

軽口ついでに、といったところか、笑いながら続けるラジー。魔王がラジーをからかうために妙な事を言ったのだと思い込んでいるのだ。

「はっは、お前は何を言ってるんだ?テイラードのことなんてついででオマケだ。

あくまで勇者を育てるための策だぞ?惚れた女が強くなって俺に会いに来る、というのはなかなかロマンチックな話だと思わないか?」

しかし、魔王に大真面目な顔でこう返され、表情が凍りつく。

「…ちょ、ちょっとお待ち下さい魔王さま。私の耳がおかしくなったのでしょうか?

 今、惚れた女、と聞こえた気がしたのですが??」

「だから最初から言っているだろう?」

「…いえ、今初めて聞きました」

「あー、そうだったかなー」

 といってとぼける魔王。誰がどう見ても、わざと言わなかったとしか思えない素振りだった。

その方がおもしろそうだったから、と心の声が聞こえてくるようだ。

「魔王さま……正気ですか?相手は、年端もいかない小娘ですよ?

 ま、まさか、ろりこ…」

「まてまてまてまて。あのな、俺が何年生きてると思っている?

 俺からしたら、魔族の女でさえ年端もいかない小娘になってしまうだろうが」

 あらぬ疑いをかけられそうになり、慌てて否定する。

「ええ、そうでしょうね。わかってますよ」

 ちょっとしたラジーによる仕返しであったようだ。

「ったく、お前な…」

「それはこちらのセリフです。何か変な呪い…をかけられる者などいないですし…ああ、お一人いますが、しかし…」

「アレは、時の回廊に幽閉されてもう数千年になるから考えんでよい」

2人の頭に浮かぶは、魔族の中にあってすら異端とされた男。殺しても死なぬその男は、生かしておくと何をしだすかわからない、との理由で先々代の魔王によって封じられたままとなっていた。


「しかし、そうですか。魔王さまを虜にしたというその勇者、少し見てみたい気もしますね」

「お前にはやらんぞ?」

「いりませんよ。あと、まだ魔王さまのものじゃないですが?」

「はっ、いずれそうなる」

(やれやれ、若干勇者が可哀想な気がしないでもないですね)

魔王のドヤ顔を見ながら、そっとため息をつくのだった。


「で、ラジーよ。それがお前の妹か?」

「はい。妹のラミーです。兄がいつもお世話になってます」

この空間にいる最後の一人。3人目の魔族ラミーが、ラジーの代わりに応える。

「ラミー、魔王さまに対してなんという…」

「よいよい、ここにはこの3人しかおらぬ。

 しかし、お前の妹、お前と違ってモテるだろう?」

 ラミーは、ヒューマンタイプのラジーと違い、ダークエルフである母の影響が強い。褐色の肌に白く透き通るような髪、ピンと長く尖った耳、と、ラジーと並ぶととても兄弟とは思えなかった。

「魔王さま、実はこう見えて兄はモテるんですよ?草食系魔族って希少価値ですから」

「ほう、なるほど」

「しかもこれでも魔王軍No.2ですからね。この間なんて…」

「ま、魔王さま!なにか!ラミーのやつに!話があるのでは??」

不穏な空気を感じ、慌ててラジーが割りこむ。

(今日は厄日か……)

「ああ、そうだったな。

 その前にラジー。お前がここに連れ来ている時点で聞くまでもないとは思うが、秘密を守れる、と信用を置いてよいのだろうな?」

「その点はご安心ください」

「ええ、魔王さま。兄の面白話以外の秘密は一切漏らしません」

「はっは、それについては後でじっくり聞きたいところだが。

 ラミーよ。お前はこれから勇者の仲間として一緒に旅をしてこい」

「仲間、ですか…」

あまりの突飛な命令に、しばし固まる。

何かを考えるように、虚空を見つめ……

「ああ、なるほど。勇者の毎日の下着の色をチェックしてご報告すればいいのですね?」

よくわからないことを納得していた。

「なぁ、ラジー。お前の妹は優秀なのか、アホなのかどっちだ?」

「魔王さまの思っている通りで間違いないかと…」


あの緊急招集より1年。魔王軍再編計画は大詰めを迎えており、魔王による勇者育成計画が次の段階へ進むのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る