第2話 勇者育成計画
第2話-1 魔王城事変 SideM
魔王城、転送陣の間。
シュイイイイイイン
まばゆい光が落ち着くと、そこにはいつもの魔王が立っていた。
「お、出迎えご苦労」
「ご苦労、じゃないですよ!魔王さま!一体こんな3日も何をなさって…!」
「あー、もういいじゃないか、そんなことは。
それより、ラジー。幹部どもを集めろ。緊急会議だ」
諌めようとするラジーを気にもとめず、魔王はそのまま執務室へ向かいがてら指示を出す。
「緊急会議、ですか?」
「ああそうだ。勇者を育てるぞ!」
「……はぁ!??!」
静まり返った魔王城に、ラジーの素っ頓狂な声が響き渡る。
「あっはっは、お前でもそんな声をだすんだな!」
――魔王城作戦会議室
魔戦将軍、3魔神、4魔闘。急な召集であったにもかかわらず、主だった幹部は全て揃っていた。
「よ、悪いな、急な呼び出しで」
「ったく、3日音信不通だっていうから、とうとうくたばったかと思って喜んで来てみたら、生きてた上にめんどくせー呼び出しとかしがやって」
不満を隠そうともせず、魔戦将軍テイラードは悪態をつく。
「魔王さまに対してなんたる!不敬であるぞ!」
それを横から、3魔神の一翼―竜魔神ディラッグがすかさず声を荒げる。
「あぁん?不敬だ??
それを言ったら、てめぇより俺の方が階位は上だ。まずは俺に敬意を払えや!」
「はん!我は魔王さまにのみ忠誠を誓っておる。貴様のようなものに敬意などないわ!」
一触即発。
血の気の多い魔族同士、顔を合わせるとこうなるのが常であった。
「お前らな。そのとりあえず喧嘩売るクセなんとかしろ。
俺!が!話があって呼んでんだ。ちったぁ聞けや」
ひと睨み。たったそれだけで、会議室には静寂が訪れた。
一瞬膨れ上がった魔王の力に、本気の殺意を感じ取ったからだ。
魔王軍の幹部とは言え、魔王とそれ以外とでは、力の差は歴然だった。
決して幹部が弱いのではない。魔王が強すぎるのだ。
「で、なんだってんですかい?この呼び出しは」
張り詰めた空気を破ったのは、再びテイラードであった。
良くも悪くも豪胆な男であることは間違いない。
「ああ、そうだったそうだった。
ここ数日、ちょっと勇者の所に行っていたんだが、面白いことを思いついてな」
「面白いこと?ラジーのやつが苦い顔してるってことは…相当楽しそうな予感がしらぁな」
「…魔王さま、どうかお考えを改めて頂くわけにはいかないでしょうか」
「くどい。もう決めたことだ、と言っただろう?」
「…………はい」
絞りだすような返事とともに、その後会議が終わるまでラジーはヒトコトも発することはなかった。
「で、だ。まず、お前らの管理エリアの配置を変更する。
といっても、魔王城に近いエリアから力の強いものを配置していく、というだけだが」
「確かに、魔王城の守りを固める、というのは理にかなってはおりますが、辺境は捨て置く、ということなのでしょうか?」
「ディラックの心配も最もだがな。辺境に手こずっているような弱者は魔王軍には不要だ。
いい加減、人間どもの抵抗もめんどくさくなってきたんでな。中央を総崩れさせて、抵抗の意思を砕くぞ!」
「おー!!!」
魔王の言に、思う存分暴れられる、と幹部たちは大きな声をあげる。
だが、その中で一人、納得のいかない顔をしたものがいた。
「魔王さま。よろしいでしょうか?」
4魔闘が一人、赤のメイリィだ。
「ん?なんだ?不満か?」
「いえ。わたくしは全く不満はないのですが、そのお話の内容で、ラジーさまがあんな顔をされるとは思えないのですが…」
確かに、とても副官が頭を抱えるような内容とは思えない。
「ほう、なかなか頭が冴えてるじゃないか。脳みそまで筋肉で出来ている連中とは大違いだな」
「うふふ。筋肉だけでは、戦いは勝てませぬもので」
メイリィは、テイラードを見ながら挑発するようにそういった。
一瞬、声を荒げそうになるテイラードであるが、先ほどの魔王の殺意を思い出し、ただ睨みつけるだけに留める。
「実はな。今回、勇者を生かしてあるんだよ。唯一俺を倒せる存在だ、と言っても、毎回さくっと殺して終わっちまうだろ?だが、今度の勇者はちょっと面白くてな。
メイリィ、お前の言うとおり、戦いは力だけではなく、頭も必要だ。で、その『頭』があいつにはあったんだよ。だから、育ててから命の削り合いをしようかと思ってな!」
そうして、つつがなく魔王軍の配置変換は行われた。
【勇者のいる】辺境は力の弱いものが治め、魔王城に近づくにつれて強いものが支配する地域へとなっていったのだ。
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