幕間1
幕間1 魔王城でティータイムを
「と、いうわけでだ。ユリン。俺はキミと戦うつもりはないよ。
久々の再会だ、お茶の用意もしてある。こっちでゆっくりと話しをしようじゃないか。
ラジー、先に行っているから案内を頼む」
「かしこまりました」
そう言うと、魔王は椅子から立ち上がり、あっさりと背中を向けて行ってしまった。
「え、いや、そんな、急に言われたって!」
あまりに突然のことに、武器を構えたままユリンは固まってしまった。
10年前に会って以来、一度も会うことはなかったが、目の前にいるのがマグ兄であることに疑問はなかった。
だからこそ、そのマグ兄が魔王である、というのが理解できなかった。
たまたま勇者より先に来ていて、先に魔王を倒した、と言われたほうがよっぽど納得できる。
「ユリン」
「あ、スライク…」
屈強な体を持った戦士スライクが、固まるユリンの肩に手をかける。
「全く話はわからないが、今すぐ戦闘にはなりそうにないことだけはわかった。
一旦、武器を降ろそう」
「…うん」
長らく共に旅をしていたが、こんな顔のユリンを見るのは初めてだった。
「みんなも、まずは魔王の話を聞こう」
そうして、魔王と勇者の最終決戦は、一転、魔王主催のティーパーティへとなったのだった。
「申し遅れました、私、魔王さまの副官をしております、ラジーと申します。
隣の部屋に用意をしておりますので、みなさまこちらへどうぞ」
一行が落ち着くのを待って、ラジーが声をかける。
隣の部屋、といっても、いまいる玉座の間が広すぎるため、それなりに歩かないといけない。
「あの、ラジーさん?あなたは、その…マグ兄の言っていた話は…」
「ええ、もちろん存じておりますよ。
10年前のあの日。勇者討伐に行ったはずの魔王さまが、帰ってくるなり『勇者を育てるぞ』なんておっしゃるもので、何か質の悪い呪いにでもかかったのかと思いましたよ」
「ふふふ、呪い、って」
ラジーとしては、冗談を言ったつもりはなかったのだが、ユリンからは笑いが漏れた。
未だに状況は飲み込めていないが、少し心に余裕がでてきたようだ。
「いえいえ、笑い事ではありませんよ、ユリンどの。
いつもは数時間で帰ってくるのに、3日も音信不通になった挙句、ですからね」
「あー…なんか、あの時すごく盛り上がっちゃったんです…よ……ん??」
話しているうちに、ふとあることに思い至って、ユリンの足が止まる。
「ユリンどの、どうかいたしましたか?」
「ねぇ、もしかして。いや、もしかしなくても、10年前のあの日、私死んでてもおかしくなかった?」
「むしろ、奇跡以上の奇跡ですよ」
なにを当たり前のことを、と言わんばかりのラジー。
「ですよねー…あははは」
ユリンからは、先ほどとは違った乾いた笑い声が漏れて出る。
これだけ鍛錬を積んだ今でさえ、戦いの構えすら見せない魔王に圧倒されたのだ。
少しでもその気があれば、一瞬の間もなくこの世から消されていたことだろう。
(それを全く気づきもせずに、よくもまぁあんな事言ったなぁ、私)
『おにーさん、そんな変な人じゃないですよ。って、私のカンがそう言ってます』
(絶対、マグ兄、笑いをこらえてたよ、あの時…)
とりあえず、ヒトコト文句を言ってやろう、と心に誓うのであった。
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