23
「美雪が楽しそうにしてくれてよかった」
春馬がそう言って笑うから
「どうしたの?急に。すごく楽しいよ?」
私は首を傾げて聞くと、春馬は、少し気まずそうな顔をして髪をわしゃわしゃと掻くと腕を組んで下を向くけど
「いや、さすがに前回の俺はヤリすぎだったというか……我ながら暴走してしまったなと反省していまして、何ていうか……美雪に対する気持ちが言えたのと同時に、それが受け入れてもらえたものだから嬉しくて止められなかったから」
わざと視線だけを残す仕草は、まるで悪いことをして怒られている子供みたい。
「あのね……春馬、私も嬉しかったんだよ」
それだけで、春馬はすぐに顔を上げて「そっか、そっか」って目尻を下げて嬉しそうにしてくれるから、何だか可笑しくなった。
「あー……どうしたらいいんだろう。俺は」
でも、今度は眉間に皺を寄せてうなり始めて、テーブルに両手を乗せてニュースキャスターのように両手を組むと
「今度はどうしたの?」
「いや、ね。それでも俺は懲りない奴と言って笑ってくれても構わないよ」
「それは、どういうこと?」
「取ってある」
「ん?」
「部屋」
春馬が、カバンの中からカチャっと音を立てて見せたホテルのルームキーが、一瞬キラッと光って
「行く?部屋。っていうか、むしろ美雪が一緒に泊まってくれないと、俺は1人、あの広い部屋の真ん中でポツンとしてしまうわけだけど」
結局、どこまでもスマートに誘おうとしてくれるけど最後まではなかなかうまくいかない。
「お互いの家以外の外泊なんて初めてだね」
「これからはたくさんしよう。あ、そういう意味のしようじゃないから……まぁ、下心は常にあるのは否めないか。でも、たまの休みに温泉とか旅行もしたいし、もっと外にも出掛けよう。確かに常に制限される生活という点は変わらないけど、俺は美雪と色々な世界を見てみたい。今夜は予行練習みたいなものかな?」
春馬の気持ちが嬉しくて、ほろ酔い気分のままレストランを出ると、私達はエレベーターに乗って空に届きそうなくらい上昇した。
用意してくれた部屋は想像以上に広くて、手を引かれて進むリビングの二面の窓いっぱいに新宿の煌めきが広がっている。
「すごい、綺麗!たくさんキラキラしてるよ。こんなに夜景って綺麗なんだね」
窓に両手をついて、高層ビルやネオンが眩く光る欠片達を見ながら、星を見上げて地上と空の狭間はどこなのかって考えいたら……
「本当だ、綺麗だね」
春馬にぎゅっと後ろから抱きしめられて、耳元で囁かれるから身体を捩じらせるけど、そんなこと全然構わないみたいに簡単に捕まって、顔が肩にもたれて隙間なく身体がぴったりとくっつく。
「これじゃあ、予行練習じゃなくて本番だよ。こんな素敵な夜景にお部屋までとってくれているなんて。なんだか……夢みたい」
「だって、俺が美雪を連れてきたかったんだもん。それに、予行練習っていうのは、これからは東京じゃない遠出にも行きたいって意味だし?」
「……ありがとう。嬉しい」
「お気に召していただいて、何よりです。お姫様」
「もう……だから違うってば」
「俺にとっては唯一無二のお姫様だよ」
肩を引かれて、夜景を背にするように振り返ると優しそうに目を細めて笑う王子様みたいな春馬にそのまま顎をクイッと指で掴まれて上を向かされると、少し強引なキスがおりてくる。
「で、俺のデザートは美雪みたいな?」
「ごめん、ちょっと笑っちゃう」
「だよね。むしろ笑ってもらった方が、気が楽だわ。でも、強ち間違ってはいないけど?それに、これじゃあ赤ずきんと狼かもね」
また春馬に抱きしめられる。
今夜も、目を瞑る私は自分の小さな罪達にも目を背けて、ふかふかのキングサイズのベッドの真ん中で離れていた時間を埋めるみたいに肌を重ねた。
その行為を、ベッドの正面にある大きなテレビの画面が映して、まるでブラックホールに吸い込まれてしまう錯覚に陥ったから、私は春馬の首に絡まる様にしがみつく。
「んっ、あっ……春馬っ……もう、離さないで」
春馬は、筋肉質な腕で私の不安ごと抱きとめては、強く打ちつけて痛みにも似た快楽へと連れてってくれる。
「はっ……んっ…行かない。もう、離さない」
私は、すごくズルい。
嫌な事や、都合の悪いことからこうやって逃げて、春馬が私から離れていかないように女の武器を使って惹きつけている。
だからね、春馬。
私をお姫様なんて言わないで。
この不安は自分の不甲斐なさが原因なのに身勝手にも泣きそうな気持ちになる。
だから、ギュッと目を閉じた。
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