15
あまりにも出来すぎたシナリオ。
美雪は出会った時から春馬の彼女で、
決して手を出してはいけない存在。
オレは、あぁ相当ご縁がないってことね……と自分に言い聞かせて、その夜から色んな女の子に電話して、部屋に行って、心の中にある美雪の残像が見えなくなるまで無意味なSEXを重ねた。
なのにさ、一度しか話をしていないのに目を瞑れば美雪が出てくるもんだから、厄介だよ。ほんと。でも、オレはそれを逆手にとって行為を続けた。
「ちょっと、イチくんっ……激しいっ」
「楽しくないでしょ?体位くらい変えさせてよ」
その理由も明白だよね。
だってさ、美雪みたいに肌が白くて、柔らかそうなスタイルの子ばっかり作為的に選んでるんだから。忘れられるはずなんてないじゃない。
どうせ芸能界っている極上のレプリカの中で生きてるから、これくらい汚れている方が色んな意味でイキやすい。
誰にも心の中までは読めないから、どんな妄想をしても犯罪にはならないでしょう?
まぁ、ヒドい男には変わりないんだけどね。
「なんだかんだ言って、おまえも乗り気じゃん」
さっきまでの態度とは裏腹、オレの上に乗って胸を揺らしながら腰振ってるから身体だけを見て絶頂に持っていく。
結局、この子もアイドルっていう虚像のオレとSEXして性感帯を刺激されて好くなっちゃってるだけだろ?そこには、感情なんて存在しない。求められるものを体現するのはこの世界で生きていくには必要な要素の1つだ。欲を吐き出す為だけの道具だよ、おまえは。
手に入らないからこそ、オレの中で美雪の存在が大きくなっているのかもしれない。
それでもいい。
それでもいいと思えたんだよ。
オレは上体を起こしてその子を倒し、入れたまんま膝を立てると見下ろす。
ほんと、身体だけはいいよね、この子。
「後ろ向いてよ」
「んっ……?」
「バックだよ、バック」
だってさ、そしたらほら……美雪に近い要素がグッと高まって、正常位よりもこっちの方がイキやすい。
美雪に似た身体にしがみつきながら欲望のまま無我夢中で腰振って一気に絶頂まで持ってくと自分本位に欲を吐き出した。
「じゃ、またね。連絡するよ」
タバコを吸い終ると、Tシャツを着ながらそういうと、その子の腕が腰に纏わりついてくる。
「もう帰っちゃうの?泊まっていけばいいのに。どうせ明日、同じ現場なんだから」
「ヤダよ。オレ、枕変わると寝れないタイプ」
「いつも終わったらすぐ帰っちゃうから、寂しいじゃない……」
「だからこそ会えた時嬉しいでしょ?」
はぁ……めんどーだから
早く家に帰してよ。
オレはそう言うとその子の髪を撫でてアイドルスマイルを作った。
「分かった……。あっ、そうだ私ね、今度役作りで髪をショートにするんだっ!ねぇ、似合うかな?」
「……似合うんじゃない?きっと可愛いよ。じゃあね」
足早に玄関でスニーカーを履くと溜息をつきながらエレベーターに乗り込んだ。
身体だけは良かったから勿体無い気もするけど、もう、こうやって会うこともない。
「ごめんね」
オレの言葉は、どっかで鳴らしている車のクラクションに掻き消されるけど、前だけを向いて歩いた。どこへ向かうかなんてわかんないけど、不思議と全然不安じゃない。
こんな日々を生きて毎日を重ねてく。
でもね、不公平だなんて思わない。だって、あれから5年経った今でもオレは性懲りもなく可能性はゼロじゃないんじゃないかって、どこかで思いながら生きていた。
それに、おかげさまで仕事は順調で、もはや競う相手もいないほど、Questは日本を代表するアイドルグループとなり、個々の仕事も充実し、常にチャレンジの連続という未知の世界でオレらの存在は確立されていた。
誰も想像できなかっただろうね。
こんなにQuestが大きくなるなんてさ。
その分、あの頃よりも抱えているモノは大きくなり些細なことにまで事務所は目を光らせていた。自由がないから厄介ではあるんだけどね。それと引き換えに大きなものを得ていた。
偽物の世界は成功者に多大な報酬を与える。
だけど、それは次第に春馬を追い込んでいたのかもしれない。
ライブのミーティング後、各々が帰る支度をしている中、春馬が肩を落として携帯を握りしめていた。
勘が働くなんだろうね、オレは。
いつも天邪鬼なのに、その勘に驚くほど従順だった。
「春馬、どうした?」
「イチ、や、ちょっと……ね」
「彼女となんかあった?」
微かな望みを賭けたんだ……この質問に。
「あのさ、この後時間作れる?」
「珍しいね、大丈夫だけど」
「飯食いにいこ?」
「いいよ?じゃあさ、飯食ったあとマスターのとこ行こうよ、春馬、最近顔だしてないだろ?」
「だな、じゃあそうしよう」
オレらはマネージャーに話して、六本木で降ろしてもらうと春馬の行きつけの和風居酒屋に入った。
「電話しておいたんだ」
「まぁね、個室で話したかったから」
全然気づかなかったよ?スマートな進行を見ながら「真のモテる男は違いますねぇ」と呟いた。
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