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「うん、分かった!俺は応援するよ!春馬がそこまで言うくらいの女の子なんでしょ?だったら、応援する!」
元気は、無邪気に満面の笑みで喜ぶと、春馬の肩に腕を掛けて絡み始める。
「まぁ、いいんじゃない?春馬も24だろ?そういう人が出てきてもおかしくない年齢ではあるしね」
龍も、セットしてもらった髪の毛先を遊ばせながらメイク台の鏡越しに春馬と視線を合わせて口角を上げた。
「ありがとう2人とも。まぁ、この先どうなるかは分からないけど、メンバーには分かってもらいたかったんだ」
明らかに安堵の表情を浮かべる春馬はそう言うとオレに視線を向ける。
「別にいいんじゃない?スキャンダルにならなきゃ」
オレらだって、商品の前に人間だしね?
「ありがとう。イチ」
「でもさ、聞いてもいい?」
そう、1つだけ聞きたいことがある。
敢えて、スタッフが居なくなってメンバーだけになった楽屋でオレは問う。
「どうすんの?その大好きな彼女と付き合い続けて、まさか結婚するつもりなんて言わないだろ?」
内情も加わるし、意地悪な言い方だったかな。
だけど、一番肝心なのはココでしょう?
だってさ、個人の仕事が増えてきてるって言っても、オレらはあくまでQuestっていうアイドルグループでパッケージ売りなわけ。確かにね、女の子のアイドル程の恋愛御法度レベルではないにせよNGなのは変わりない。それに、時には1人のメンバーによって人気は大きく揺さぶられて、この世界で生き辛くなり、何より愛すべき彼女が計り知れないバッシングを受ける。現にそんなアイドルをたくさん見てきたわけで、春馬の考えを聞いておきたかった。参考までにね。
「イチ、今の段階でそこまで答えを求める必要ないだろ?」
「そーだよ、今は彼氏、彼女の関係を楽しんで育む時期なんだよ」
「じゃあさ、元気ならどうすんの?そのさ、育む先の未来が無いパターンも考えてあげられるわけ?その分、彼女の貴重な20代という若さと輝かしい時間を奪ってくことになるんだよ?」
オレらがアイドルでいる限り制限は付きまとう。それを承知で身売りしている以上、結局この壁にぶち当たるわけじゃない?春馬なら綺麗事じゃ済まされないことも想定してんでしょ?
「イチの言う通りだよ、俺も同じこと考えてた。確かに、一般人同士の恋愛なら付き合っていく延長戦上に結婚っていうものは生じてくると思うし、自然の摂理とさえ思う。でも、俺達は立場上、当事者同士で結婚を決めるとことはできないと思ってる。もしかしたら、結婚はリスクなのかもしれないとさえ思うよ」
春馬はそういうと腕を組んで、オレの正面に座り直してこう続けた。
「でも、今はまだ彼女も22歳で、大学生で、就職活動の真っ最中で、自分の未来を模索してる。俺はそんな彼女を応援してやりたい。そばにいたいんだ。イチの質問の答えにはなってないと思うけど、これが今の俺の全てだよ。みんなには迷惑をかけないようにする」
春馬がいいヤツだってことは知ってる。
メンバー1真面目で頭も良い。
仕事をしながら学業も疎かにすることなく、自分の意志で有名大学を卒業してさ、相当大変だったことは一番近くでその姿を見ていたから分かるよ。待ち時間の合間に楽屋で試験勉強をしてたこともあったし、あの正門前で大学生の輪から春馬1人が移動車で乗ってきてそのままスタジオ収録に直行ってこともあった。
きっと見えない所でも努力して且つ実力も伴うからね。
全然敵わないよ。
だから、元気も龍も、真っ直ぐオレを見る春馬を見ていたけど、きっと頭ん中は同じことを考えている。
「なんて、彼女に愛想つかされる可能性大なんだけどね?」
「えっ?そうなの?」
「まぁ、今は彼女も実家暮らしでバイトもしたことがないお嬢様だからね。その子が社会人になって視野が広がるわけだからさ、環境変わるし、世の中に放たれるとね……」
「心配なんだ」
「ま、そんなとこです」
「わぁ、春馬って意外に過保護~」
「だから彼女の1人暮らしのマンション候補も事前にチェックってことね?」
「いや、チェックってほどじゃねーよ。ただ、相談受けたからね。どんな間取りが良いとか?場所とか?」
「でもさ、これってどれも春馬の家の近くの港区じゃないよ?いいの~?近くじゃなくても」
「初めての1人暮らしだから、彼女自身もそうだけどご両親も心配だろ?だから何かあった時に、電車ですぐ帰れるように同じ路線にしたら少しは安心だって提案したんだよ。俺は車もあるしすぐに会いに行けるし、出来る限り彼女の目線で考えてあげたいから」
きっとさ、オレを含めたメンバーも、おんなじ考えだったと思うよ。
一体、春馬にここまで言わせる彼女はどんな子なんだろうってね。
だってこんな幸せそうな顔してさ、こうやって感情を表に出すことなんて無いから。
白い眩しいほどの光がレフ版に反射してオレら商品を照らす。
幾度と切られるシャッターの音の度に、ある程度のカメラマンの指示に従って適当に体を揺らしながらポーズと言うまでもないポーズをとる。それが一通り終わったら、カメラの前で先週体に入れた振りを、メンバー4人で合わせた。
14歳の時になんとなく始めた事が、17歳でQuestとしてデビューしてもう5年経った。まだ成長過程の大変な中にいるけど、ここまでやってきたのは、この4人だからだ。
そう、オレらはいつもこうやってターニングポイントに立った時は自分の意見を言い合って軌道修正しながら今を生きて未来を描いていく。
このスタイルは今までもこれからも変わらない。
商品である前に人間だから。
こうやって手を翳せば青い血管が透けて、胸に手を当てれば順調に脈を打つ。
オレはね単純に羨ましいと思った。
春馬を。
それで、そう……強く思ったんだ。
美雪ちゃんに会いたい。
この偽物の光の中で、確かなものを見つけるのは困難でどこで足を引っ張られるか分からない、世界全部がギャンブルだからいつ泡となって全部消えてしまうかもしれない。その中で、きっと美雪ちゃんの笑顔は現実を照らす希望なのかもしれない。1度しか会ったことしかない美雪ちゃんにここまで想いを馳せるのは間違っているかもしれないし、いい迷惑かもしれないけどね。春馬のあんな話聞いた後だよ?ワタシの想い人に重ねて、先走る妄想くらいしても罪にはならないでしょう?
衣装をチェンジして、セットを変えて、4人のショットを撮り終えるとソロパートになって、元気以外のメンバーは楽屋に戻って聞いてみる。
「あのさ、春馬」
「ん?なに?」
「彼女、見せてくんない?」
「あ、俺も見たい。その春馬がぞっこんの彼女」
「ハハッ、ぞっこんって死語じゃね?いいよ。携帯に画像あるからちょっと待って」
春馬はカバンから携帯を取り出して画像を液晶に出すと、オレと龍に見せてくれた。
「すげぇ可愛いじゃん。本当に業界の人じゃない?なら、よくこんな子見つけたね、確かに春馬が大切にしたくなる気持ち分からなくもないわ」
ほんと、可愛いよね。
あまりの衝撃的な可愛いさで
切なくて、苦しくなるよ。
春馬と一緒に寄り添いながら写ってた可愛い笑顔の女の子は、美雪ちゃんなんだから。
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