9

目を開けると見慣れた天井があった。

私は、肌寒さを感じて露わになっている肩まで布団を引き寄せると


「おっ、やっと起きた」


ぼんやりとした間接照明の中で、程よく付いた腕や胸板の筋肉が影になる、裸の春馬が右肘をついてこっちを見ていたから、今度は顔が隠れるぐらいに布団を引き上げた。


「おいおい、美雪の顔とか見えないじゃん」


そうだった。


私……あれから抱き合ったまま、春馬とキスをして、寝室まで連れられて、そのままベッドに押し倒された。


もっと、強く抵抗することもできたのに、まるで今までの寂しさが解消されるかの様に感じて、私はただ流れに身を任せた。


やっぱり、心の中では春馬を求めていた。


こうして2人でベッドの中にいると、素直になれない私を解放して、この懐かしい優しさで包み込んでくれたんだと思う。


春馬はニットの裾から右手を入れると、性急にキャミソールを超え肌に触れて、もどかしそうに腰を撫でながらも、その手をゆっくりと上昇させ、柔らかさを確かめるみたいに優しく私の胸を触る。


「美雪。好きだよ、それなのに……傷付けてごめん」


張り詰めていた空気が蕩ける。

聞こえる、春馬の圧し殺すみたいな熱い息遣い。

薄く開けた視界には、さっきまでとは明らかに違う色気を放つ目をした春馬が、私の肌蹴た下着姿を見下ろしていた。


「背中浮かせて?」


私は言われた通りにすると、背中の真ん中で小さな音を立てて鍵が開く。


「やべぇ、美雪……すげぇ興奮する」


「……あまり、見ないで?」


「それは、ムリ」


春馬はそれを剥ぎ取って、ベッドサイドに落とすと、胸を両手で包む様に触って……それは次第に激しくなり、余裕なく膨らみにたくさんのキスを落とした。


春馬の肩が呼吸の度に揺れて、短い息を漏らしながら、左手をデニムのスカートに忍ばせ内腿を触って、直ぐに下着の隙間から冷たい指を入れてきた。


「んっ……はる、ま……待って?」


「だから……ムリ」


春馬の息が熱い。


私は、ただ感じながら乱れて、ふわふわと浮遊する意識の中、春馬のあたたかい体温や筋肉に抱かれて足の指が開くほど我を忘れて快感に溺れてしまたから、今更ながら恥ずかしくてたまならい。


「もう、離さない」


ベッドの上の言葉なんて、甘いだけで信憑性にかけると思ってた。

だけど、春馬は決して自分勝手ではなく私の反応を確かめるように探って見つけては、壊さない様に激しく抱き続ける。

もう、どちらの汗か分からないほど重なって打ち付けられる度に、呪文みたいに名前を呼ばれて、遠くなる意識の中、頂点に達して、久しぶりに生きた心地がした……




「私、いつの間に寝ちゃったの?もう……春馬……ずっと見ていたの?」

「さぁ、どうかな?俺がこうやって頭撫でたらすやすや寝ちゃったから、見てたよ。美雪のこと」

「もう、やだ……恥ずかしい」

「いいじゃん?可愛いんだから。まぁ、それは寝顔だけじゃないけどね」


そういうと春馬はシーツの擦れる音と共に私を抱き寄せて、唇にキスをすると、髪に頬にもキスをして……


「起きるの、待ってた。あーやばい。美雪、1回じゃ……全然足りねー」


耳元で囁いて、首元に顔を埋める。


「でもさ、その前に……ちゃんと聞きたい。美雪の気持ち」

「……気持ち」

「そう、気持ち。ほら、言って?」

「……好き。たくさん、好き。だからずっと好きな気持ちを我慢してた」


春馬の身体の重みが圧してきて


「……ごめん。もう迷わない。俺も美雪のこと好きだよ」


整った懐かしい唇が重なると肌が感度が研ぎ澄まされて、また身体に熱を帯びる。


春馬は、布団の中で2つの身体を隙間なくぴたっとくっつけると、私に跨いで覆いかぶさり、わざと首筋……鎖骨……胸元に音を立てたキスを落とす。私は、その擽ったさと快感の狭間から逃げることなんて出来なくて、仕掛けられる甘い罠に嵌って疼いてどんどん溺れてしまう。


「美雪、ずっとこうしたかった」


また……春馬の無骨な右手が私の胸の形をなぞる様に優しく触れて、長い指が先端に届くと円を描くように転がされて、快感に反応して自分でも分かるくらい突起してしまう。


「可愛いくらい素直だよね、美雪の身体は。ほら、触っただけでこんなになって」


息が荒い春馬は、脱力する私を自分の胡座の中に座らせると、意地悪そうに笑って、胸を指の腹で摘んだりして弄ぶと唇を這わせ舌を絡めて丁寧にゆっくり輪郭をなぞりながら甘噛みをするから、声が漏れてしまう。


「あっ、あっんん……」

「……もっと鳴いて?」


私はその愛撫の波に襲われて、さっきから擦り合わせてた内腿を何度も浮かないようにしながら、右手で隠しながらに力をかけていると唇を唾液で濡らした春馬が、私の胸を揉みながら右手で簡単に、もっと私の足を開かせて内腿を触る。


「すっげぇ濡れてんだけど。1回イカしておくか」

「えっ?あ、あっ、はぁん、ん、んっあっ」


春馬の指が私の快感をダイレクトに捉えながら、いやらしい水音を立てるけど、それをもたらしているのが私自身だからこそ、恥ずかしさが膨れ上がって、止めどなく溢れる。


「あっん、や、ダメっ、そこは、んっ、だめ」


「いい声……、相当高い声で鳴いてる……マジでエロいんだけど。美雪……俺の指、ふやけてる。しかも、ほら……腰動いてるよ?」


力なく抵抗するけど、あっという間にいっぱいになって弾ける様に溢れた。


「……はぁはぁ……」

「可愛い……ほら、まだだよ?」

「はぁ……ちょっと……待って……?」

「ヤダよ、さっきはマジ余裕無くて堪能には程かったし、コッチも限界」


そう言って、春馬は私を寝かせると、口角を上げて閉じようとした私の両足を掴んでこじ開けた。


そのとき……ベッドの下に脱ぎ捨てられた、春馬のジーンズから携帯のバイブ音が聞こえて、


「んっ、はっ……春馬、携帯鳴ってる?」


「いい、あっちは後で」


でも、1度鳴り止んだ携帯がまた震えだす。


「んっ、春馬、きっとまだそんなに遅くないから仕事の電話だよ。まだ、電話出ないと」


私は春馬の頭にそっと手を伸ばして髪を掬うと、宥める様にもう一度言う。


「ね、春馬……仕事。私はここにいるから」


そうすると、やっと春馬は上体を起こして頭を掻きむしると大きな溜息をついて苦笑いをする。


「はぁ……、ここでおあずけかよ。でも、美雪にそう言われると弱いんだよな。ちょっと待ってて確認してくる」


春馬は、そのままベッドサイドに落ちていた服の中から携帯を探して手にすると、着信を確認してこっちに戻って来て、光る携帯の液晶をかざして見せた。


「違ったよ、仕事じゃない。千夏だった。なんだろな、2回も連絡してくるなんて」


千夏先輩……。


「まぁ、何かあればメールしてくるだろ。じゃ、続きでもしますか。美雪が気になる仕事じゃなかったわけだし。こっちも限界だから」


昨日の千夏先輩の言葉を思い出す。


「みいちゃん……私、春馬が好きなの。近い内に、告白しようと思ってる」


千夏先輩の春馬への気持ちを応援するって言ったのに。私、何しているんだろう。


「美雪?どうした?」


私は、本当に弱くてずるい人間だ。

こんなに優しい人たちに囲まれて恵まれているのに、こんな簡単に裏切ってしまった。急に怖くなって、肌が冷たくなるのを感じて、私の顔を覗き込む春馬にしがみつく。


「ううん。なんでもない。ねぇ、春馬。早く……続きして?」


寂しくて堪らなかった日々を満たしたくて、春馬に甘えて肌を摺り寄せた。

抱きしめてくれる春馬のなで肩越しの景色は……何も変わらない。



春馬、私ね……あの日のままなんだよ。

本当はね、全然成長なんてしていない。

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