虹色 美雪side

41

春馬に「会いたい」とメールをして携帯をベッドに放ると、そのまま私も脱力して横たわる。


溜息と共に目をぎゅっとして、体を丸めて……暫くすると起き上がり膝を抱えて体育座りをした。

壁にもたれていると、リビングの方を眺めると開け放ったドアのせいで点けたままの灯りが廊下まで伸びていた。


私には分かっていた。

一ノ瀬さん……じゃなくて、

和に惹かれているって。

だから、一定の距離を保ちながらステキな人のカテゴリーのままで関係を構築したかったのに……

いつも、あの仕草、薄茶色の瞳に心を揺さぶられて


触れて

離れて

触れたくなって

離れたくなくて


気持ちは雪のように静かに積もり

頭の中が真っ白になって……




「一ノ瀬さんが好きです」




いっぱいになって溢れた想いが、言葉に変わり、張り詰めていた気持ちが解放され、同時に逃げ場のない罪悪感が決定的となる。


自分の気持ちに気付いて、それを和に伝えたら、もうこのままではいられない。

人は過去によって作られて……未来は分からない……

私も、その例に倣って生きてきた。初めては苦手。

だけど、この気持ちを抱えたまま私を受け止めてくれる春馬の腕の中に居れない。



「……自分勝手……偽善者……」



春馬という素敵な恋人がいるのに、和を好きになるなんて。

しかも、2人は同じアイドルグループのメンバーで……


有耶無耶にしていた部分がはっきりと見えて、また目を閉じると携帯がなってディスプレイに春馬の文字が浮かんだ。


「もしもし」

「美雪?どうした?」


少し慌てた春馬の声を聞いて、やっと中途半端なメールをしたことに後悔する。


「ごめんね、忙しいのに……びっくりしたよね」

「いや、嬉しかったけど。美雪からメールしてくれること自体、少ないから」

「そうかな?」

「そうだよ。まぁ、そうさせちゃった原因の発端は俺の取り巻く状況だけどね」

「……そんなことない」

「夜遅くなったけど、今から行くよ」


時計を見上げると、もう午前0時を過ぎていた。


「ううん……疲れてるのにごめんなさい。大丈夫。また時間がある時でいいよ」

「……いや、俺が心配だから」

「……え?」

「今日、イチに会ってたんだろ?」


あの雨の夜。

和の家に居た私に、春馬は何も聞かなかった。ただ、私の肩をしっかりと抱いて……家に帰るとお風呂を沸かしてくれて、服を脱がないまま、ただ、私が眠りにつくまで頭を撫でてくれていた。


あの時、春馬はどんな気持ちだったのだろう。


この時の春馬は、もしかしたら私にカマをかけていたのかもしれない。

でも、それも仕方ない。春馬をそうさせてしまったのは私なんだから。


さっきまで和と過ごした部屋に春馬が来るなんて……居た堪れない気持ちが膨らむ。


「……うん」

「……じゃあ、今から行く」

「……うん」

「近くになったら連絡するから」

「……うん」



私がメールを送って、春馬が心配して連絡をくれた。


隠せない。これ以上。


嫌われても仕方がない事をしてしまったから。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る