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美雪からの連絡はないまま
それは唐突に……
いや、オレに至って違うわけだけど、マネージャーからメンバー全員召集って連絡が入って事務所の会議室に向かった。
春馬がスーツだったワケも
オレと一席設けたワケも
全部美雪の為だ。
「結婚することになりました」
春馬は、メンバーと一部のスタッフの前でそう宣言すると、ざわめきの後、拍手に包まれて祝福された。きっとそれは、春馬が色々と手回しをしたのもあるかもしれないけど、仕事ぶりとか信頼があってこそだと思う。
オレ自身は、「結婚」って聞いて、もっと動揺したり取り乱したりする?とか想像したけど、現実はそんな事を容易く越えて腕を組んで、条件反射的に無気力が漏れない様に感情を殺してた。
ゲームで人と壁作って、求められた事を忠実に再現する才能を身につけて、自分を無くして美雪と出会って、光を見つけた。
……と、思ったんだけどな。
その光は儚く
遠くへ行ってしまうわけか……
……また。
空中で「おめでとう」とか「良かったね」というポジティヴな言葉が行き交う度に、心から水分が吸い取られ、からっからに渇いて閉ざしてくのが分かる。
そんなオレの肩に、空気も読めないNoデリカシー男の手が乗っかってきて、いつもみたいに体重をかけてくるのよ。
「イーチー、どうしたの?この春馬の決意の日に。難しい顔なんてしてさ!ね、すごいよね。結婚だって、相手は誰かな。最近フリーって聞いてたのにね、イチ知ってる?」
「知ってる」
「マジ?だれ?だれ?」
「お前落ち着きなさいよー、重いし。相手も発表されるんじゃない?この、ワイワイ感がある程度収まったら」
元気は、前方にいる春馬を1目見る度に席を立って背伸びをすると
「おーい、おーい、ね!相手の発表まだー?」
大声で、ぶんぶん手を振って話の進行をするから、春馬もそれに応えて
「だよな!今から奥さんになってくれる人を紹介しますので、1度席についてもらっても良いですか?連れてきますから」
その言葉に喜ぶ大人や、ハンカチで涙を拭いていた女の子も席に着いて、ドアに視線を向けた。
「美雪、おいで」
「……うん、でも、私まだ…」
「いいから、ね?」
「……うん、分かった」
ドア1枚隔てだだけだから、 春馬と美雪の声は会議室内にまで聞こえて、オレ以外の人達は、また賑わい始めた。
「……じゃ、いい?」
「……う、うん」
開け放たれたドアから、スーツ姿の春馬にデコルテがキレイに開いた桜色のレースのワンピースを着たみゆきがエスコートされて来た。
「わぁ……かわいい。どこの事務所の子?」
「スタイル良い、かわいい、ステキ。モデルさん?」
かわいい?
そりょそーよ。
いろんなところでざわめき出して、その注目の的は、そう……アナタだよ。
一般人の子にしちゃ、可愛すぎるのよ。なのに、そんなに控えめでさ。
もっと自信持ちなさいや。
美雪は、柔らかい髪をゆるく巻いてさ、その髪は光を集めるとハチミツみたいに艶めいて……桜色のワンピースも高めのヒールも、
全部……
全部……
全部、好きだよ。
春馬と美雪は並んでみんなの前に立つと、笑顔から真面目に表情へと変化して、
「改めて 紹介します。彼女は有澤美雪さんと言います。大学在籍中から交際していましたがアイドルという職業柄……1度別れたりもしました。でも、やはり彼女しかいないと思い結婚を前提に付き合いはじめ、この度、有澤美雪さんと結婚することになりました。皆様にご迷惑おかけすると思いますが、彼女と一生を共にしたいんです。アイドルは、結婚がリスクになることは承知していますが、何卒よろしくお願い申し上げます」
春馬が頭を下げている隣で、涙をこぼす美雪は、流れた涙をハンカチで拭いて、下唇を噛み締めて体を正面に向けた。
そこで、やっと美雪と目があう。
やっとだよ。
相当会いたかった。
今すぐ、美雪に駆け寄って抱きしめたい。
奪い去りたい。
そんなオレのテレパシーが届き、美雪はオレを見るなり、また、泣きそうな顔して首を横に振る……
そして……深呼吸をすると、春馬と同じ角度で頭をさげた。
また湧き上がる拍手に包まれた2人は、世間への発表までには少し時間を置こうって流れ。やっぱり今の仕事の影響が大きいからね。
ライブ、イベントが通常営業に加わり、今クールから新しい番組も始まるメンバーが多い。ま、オレもその1人でラブストーリーだってさ。神様は、傷口に塩を塗るよね。
1年後まで、仕事パンパンだけど?
発表時期は、そーゆーことが考慮されて今年の末になった。
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