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東京の夜は明るいって、良く言うけど、東京で生まれ育ったオレとしてはやっぱり暗いよね。
だからこそ、街灯は多いし雑踏に紛れて主張するみたいにネオンの電飾は光り続ける。
だからさ、結局はどこでも同じ。
真っ暗なのよ……。
ただ、東京ではアイデンティティーを確立してないと、流されたり喪失しちゃうから人を求め温もりを探す。
なのに、何か問題があると手のひらを返す様に人に裏切られたりするからさ、常にバリケードを張らないと逆にやられるからね。
人に感謝する事と同じくらい自分を守る事も大切だ。
ビールを片手に、美雪の部屋の窓から景色を眺めると、温かそうな家庭から漏れる灯りたちがたくさん見えた。
同じ東京で、夜なら車で20分で来れる距離なのにオレの部屋から見るのとは全然違う。
「どうしたの?眉間にしわ寄せながら外を見て」
「いや、なんかいいなーってね」
「ん?何がいいの?」
「女の子の家で未遂っていうのも」
「う……ん、ごめん」
「いや、冗談。半分はホントだけど?」
美雪の肩を抱いて、前髪を掻き分けておでこにキスすると、身体を引き寄せ後ろから抱きしめた。
「ここから見える景色の方が好きだなって思ってね」
「そう?夜景とはかけ離れているけど」
「でも、灯りから息吹を感じるよ」
「息吹か……住宅街だからね。朝は、この前の道が通学路になるからたくさんの子供たちが通るんだよ」
「へぇ、そっか。最近……そんな風景はドラマの撮影とかでしか見てないな。実家にいるときは日常的だったんだけどな」
アイドルという職業を選んだ事で、得たものがあれば失ったものも多い。
「……私の部屋と和の部屋の窓からは見える風景が違うけど、両方とも同じ広い世界を切り抜いた一面だと思うよ。その証拠に星空はおそろいだから」
いつも感じてた。
心の空虚が満たされてく。
「だから、そんな顔しないで?」
「え?オレ、そんなヘンな顔?好きでしょ?こーゆーのも」
「うん」
美雪といるとね、自分でも知らなかった一ノ瀬和秋が顔を出すから不思議だよね。
「ねぇ、和……」
「ん?」
「連絡するね」
「してよ。いつもオレばっかでしょ?」
「そうだね。でも、忙しくて会えなかったら、遠慮しないでそう言ってね」
「んふふ、分かった」
「あと……わがまま言ってね」
「わがまま?」
「うん。ちょっと位ならわがまま言ってくれても、対応出来るから」
「それは頼もしいね、じゃあ……」
「……そういう意味じゃなくて」
「分かってるよ、なんかいじめたくなっただけ。ほら、好きな子をいじめたくなるタイプだから」
ただ、それだけ。
そう、それだけを話してキスをして、その夜は帰った。
ま、正しくは夜遅くて泊まるわけにもいかないから、肩を落としてトボトボと?帰るしかなかったんだけどね。
でもさ、家に帰って……久しぶりにさっきと同じく窓の外を見てみたらやっぱりギラついたネオンとおしゃれなイルミネーションが街を照らしてて、少しだけ、ここからの風景も悪くないかなって思えたのは、美雪のおかげだね。
そのまま空を見上げて
息を吸って吐く。
前とは違う、2人の関係。
だけど、それはあまりにも曖昧で頼りなく消えてしまいそうな程罪深いものとなった。
決して、幻じゃないけどオレが掴んでいないとするりとすり抜けてしまうのは確かで……恋愛は楽しいだけじゃなく、苦しみも伴うというフレーズが頭を掠める。
嫌な予感は昔から的中率が良い。
まぁ、なんとでも言ってよ。
輝きが増すほど、闇は深くなるもんでしょ?ま、それを逸脱してるのも知ってるけどね。
今夜も、おそろいの空を見上げて、1番光る星を見つけたらアナタのこと、思うからさ。
やっと空を見上げるという美雪譲りのめるへんが習慣化してきたのに?
あの2人の気持ちを確かめ合った夜から、あっという間に1週間は経って、携帯はならないわ、受信もしないわで、完全に美雪不足のオレは、早速、その、ちょっとくらいのわがまま使ってみたくなる。
だけど、そんな携帯をいじるオレの前に仁王立ちで立つという、インパクトある登場の仕方をする春馬が、
「イチ。メシ食いに行かない?」
立ち方に反して、いつもと同じ感じで話しかけてくるからさ拍子抜け、するよ。
「え?ん…………、なんで」
からの、警戒心ね。
「やっぱりイチには話したいんだ。今日は?リハ終わり後時間ある?」
「まぁ、あるけど、あ、じゃ元気も連れてこーよ」
「えーやだよ、目立つだろ?それに、オレはイチと話したい。案外真面目に」
ビシッとスーツを着こなした春馬が、楽屋のソファで寝転ぶオレを見下ろして、
また「な、いーだろ?」って若干しつこいんだけど……。
状況と空気を読んで起き上がると、
「分かった、いこ。メシね」
話せることは限られてるけど、行かなきゃいけない事は分かってたから、ちゃんと返事した。
「それにしても、今日はビシッとしてんじゃん。取材?」
「ま、取材もしたけど、メインは挨拶」
「挨拶?偉い方系ね」
「まぁ、そんなとこ」
明らかにヒントは隠れてたのにさ、オレは美雪から連絡こねーなってばっか考えながらゲームしてて、気づかなかったわ。春馬の思惑がね。
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