35
「私は……」
「ん?」
「一ノ瀬さんが好きです」
躊躇いながらも、はっきりと好きと言われたから、心が速まる鼓動と共に音を立てて満たされてく。
「ふふ、ヤバい。すげー嬉しいね」
抱きしめてた腕を緩めて、俺の胸に埋めている美雪の頭を撫でると、わざと赤くなっている耳を通って顔の輪郭をなぞった。
「んっ、くすぐったい」
「知ってる、ワザとだからね。美雪、顔見せて?」
「イヤです。こんな至近距離で見られると思ってないから、あんまりお化粧もしてないし」
「そう?充分可愛いよ。ね、良い子だから、見せて。美雪ちゃん」
オレの言葉に、美雪の頭がゆっくりと動いて睫毛にあしらわれた、上目使いの二重の瞳と桜色の柔らかそうな唇が誘う。確かに、初めて会った日みたいに、表情はあどけなく幼さが際立つ。ただ、いつものメークもあんまり濃くないから、さして気に留めなかったわけだけど。
「こっちの方が良いじゃない。ほらね、美雪はいつ見ても可愛いよ」
「……一ノ瀬さん……」
「もう、やめない?敬語。オレら年令変わらないでしょ?」
アナタに触れたくて
少しずつ、顔を近づける。
「……うん」
「オレの事も、名前で呼んで?知ってる?オレの名前」
「……和秋さん」
「そ、正解。でも、さんはいらない」
「でも、いきなり呼び捨ては……ちょっと」
「んーじゃあ、呼びやすいのでいいよ」
「なんて呼ばれる事が多いの?」
「仕事関係とかはイチかな。まぁ家族だと、和とか、和秋とか」
うーんって唸りながら首を傾げる仕草が可愛いくて、これならずっと見てられるなと思いながらも、唇ばかり見つめちゃうよね。
「じゃあ……和にする。呼び捨てよりあだ名みたいだし。いい?」
「ん、いーよ。じゃあ、呼んで?」
「今っ?」
「そ、早速」
「……和」
あーもう、萌えるわ。
ヤバいね、これだけで相当の破壊力。
つい、返事をする前に首を傾けて唇を重ねた。
キスは、何度かしてきたけどさ、やっぱり想いが通じ合ってからは、より一層甘美で、キスを堪能するほど下心に火がついて、美雪を求めて、唇を割って舌を入れると吸い寄せられるみたいに絡まり、
もっと
もっと……と
欲深くなる。
美雪の吐息が乱れ始めて、俺の服を掴んできたから、1度唇を離したけど、名残惜しくて軽めのキスをする。
欲しい。
堪らなく欲しい。
オレの全細胞が脳に訴えかけてるにしてもよ?思春期かよって位、早めに身体が反応しててバレない様に腰を引く性を許して欲しい。
なんせ、こんな経験初めてだから。
キスだけでって……、オレ30歳よ?
ギリギリの理性で、口角を上げて優しい眼差しで見つめる。
「……美雪……」
美雪の腰に置いていた手が、勝手に撫でる様に動きふわふわの部屋着を超えてキャミソールまで潜ると、指先は素肌に届きはじめる。
「……ん。かず。ちょっと待って」
「待てない。……イヤ?」
「イヤじゃないけど、でも」
オレはね、オトコだからさ。
この良いムードの流れを止めない様に華奢な身体を押さえ込んで、いとも簡単にソファの淵まで追い詰めてしまうわけだけど。
「お願い……待って」
「ん……何?あんまり待てないよ?」
「まだ、これ以上先には進めない。春馬とも話ししたいし。今更かもしれないけど、春馬をこれ以上……裏切りたくはないの」
「……で、お預けってこと?」
「……ごめんなさい」
そんな困った顔で見つめられちゃさ。
止めてあげなきゃね。
ほんと、アナタには敵わないよ。
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