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あれから数日経って
鳴らない携帯を眺めるのはもう嫌だからね、結局待たずに短い内容のメールをした。
『会いたい』
レギュラー番組の2本撮り収録が終わると、もう20時をまわってて、各々着替えると帰り支度を始めた。
春馬とはあくまでもビジネスとして付き合う関係も維持してて、我ながら互いの割り切り具合に感心するわ。
早速、リュックから携帯を取り出して、画面に出てるメール受信を知らせる定型文を逸る気持ちを抑えタップして内容を読むと誰よりも早く支度を済ませた。
『私も、もう一度会いたいです』
こんなメールもらったら、状況をスルーしても有頂天になるじゃない。
『今から、家に行ってもいい?』
平日だけど、今の時間ならギリかな。都合良い思考回路は案外美雪への最短距離かもしれない。
『分かりました。待っています。気を付けて来てください』
ほらね。
だってさ、好きな子の気持ちをこっちに向けるには、ある程度のリードが必要でしょう?
そんなオレをね
こーゆー時に限って見ているのよ、コイツは。
「明日から、ライブの音合わせか。今年はツアー長めだから体力勝負だね」
元気がオレの肩を組んで体重をかけるから、反対で重さを逃がしながらかわす。
「はいはい、そうね」
「イチ、今日なんかつめたくない?」
「そう?変わらないよ。ワタシはね?」
「なら、いいけど。最近働きすぎじゃない?チャンネル回せばたくさん出てるから」
「それはアナタもでしょーよ。じゃ、オレは先に帰るから。お疲れ」
「はやっ!なんだよー」
元気に絡まれながらも、楽屋を出ようとすると、背中に強めの視線を受けたけど、その正体が誰なのか分かっていたから振り返ることなく移動車に乗った。
「お疲れ。送り先は自宅でいい?」
「うん、そーして」
「コンビニは?」
「今日はいいや」
まさか言えないからね、世田谷に行ってなんてさ。
とりあえず、自宅前で降ろしてもらうとそのままマンションに行くふりして、大通りに向かいタクシーを拾った。
「経堂駅手前まで」
タクシーの運転手に告げた行き先が、なんか美雪に会うための呪文に聞こえて恥ずかしくて右腕で口元を隠す。
三軒茶屋の交差点から246を外れて世田谷通りを走ると、小道に入って住宅街に入った。
近くまできたから「この辺で」って行ってお金を払うと、すぐ先に美雪の住むマンションが見える。
女の子の家に行くのは慣れてるよ?むしろ、オレの家に来る事がないからね。でも、前はここから見上げてたあの部屋に入れてるんだな……と。キャップを被りなおして、メールじゃなくて電話すると3コール目で愛しい声が耳から伝わる。
『今、エントランス着いた。開けて?』
『はい、分かりました。部屋は503です』
『了解』
通話が終わるタイミングでオートロックの自動ドアが開く。
このワクワクみたいなのも恋愛の醍醐味だよね。
分かってるよ、問題は山積み。
はぁ……慎重にいきますよ。って熱を冷ましながら503のプレートのある扉の前に辿り着いた。
だけど
前言撤回。
「いらっしゃい。会いに来てくれてありがとう」
ハニカミながらの、お風呂上がりのシャンプーの香りからの、その部屋着。
ちょっとちょっと、キレイな鎖骨が見えるキャミソールにふわふわのカーディガンにショートパンツって……。
「ん?どうかしました?」
「いや、なんでも?」
「あの……よかったら、どうぞ」
「おじゃまします」
美雪は大事にしたいから
付き合ってからって決めてたんだけどね。結局、そんなのはアナタの前じゃ脆くもなるのよ。
あーーー。
オレの理性もつかなーーー。
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