32
新聞紙を折りたたむ音の後すぐに
「昨日は迷惑かけた。ウチのを保護してくれてありがとう」
春馬の視線が痛い位に突き刺さる。
……ありがとう?
真逆の感情でしょーよ。
春馬も大人になったもんだね。
ため息を殺して腰に手をあてて、ちょっと笑いながら春馬に視線をやる。
「保護?拉致の勘違いじゃなくて?」
分からないかな。
昔からそーゆーとこが鼻につくんだよ。
あたかも、自分は常に優位とでも思ってるんでしょ?上から目線でさ、たしなめるみたいに、丸く収める。
「拉致?とんでもない。美雪も救われたんじゃないかな?千夏の気持ち知りながら俺とヨリ戻してくれたんだから。でもさ……」
春馬は立ち上がると、オレの正面に立って
「……俺からの電話もメールも無視して、部屋に連れ込むのはどうかと思うよ」
胸ぐらを掴むと、鋭い眼光でガン飛ばしてきた。
……出来るんじゃない。
お前にも。
感情露わに。
「離してよ。何にもならないじゃない、暴力じゃ。拳交わらせるの得意じゃないでしょう?お互いに」
それほど大事なのね、美雪の事が。でも、ごめんね、春馬。オレもさ譲れないものくらいあるのよ。
胸ぐらを掴んでいた春馬の手が緩んでポケットにしまわれると、
「……悪い。感情的になって」
「別に、春馬の指摘はあながち間違ってないんだから」
「それは、どう捉えればいい?」
「……そのまんま。どーぞご自由に」
「美雪の事、……好きってこと?」
春馬は、また元の位置に座って同じ目線に戻る。
「好きだよ」
ずっと口にしてなかっただけで、隠してたわけでもないから、今更嘘で飾るつもりもない。
初めから、簡単に奪えるとも思ってないからただ伝えた。
今の……ずっと前から抱いていた気持ちを。
「……美雪と付き合っているのは、俺だよ?」
「知ってるよ、そんな事。何年も前から。だけど、前は手出さなかったじゃない。なのに、なんなのよ、コッチはあくまで争いにならないよーに虎視眈々と、この時を待ってたのにさ、2度は無理よ。気持ち抑えるの」
春馬はオレの言葉に目を見開いて、手を組むと、天井を仰いでゆっくりと息を吐く。
「……渡さない。美雪は俺の彼女だから」
「決めるのは春馬じゃない。美雪だよ」
「美雪は俺と別れたりしないよ。そんな決断下せるほど強くない。イチから、美雪がどう見えて、どこが好きか分からないけど、美雪を支えて守ってあげられるのは俺しかいないよ、断言できる」
「さぁ?それはやってみないと分からないよね。もう、何もしないで奪われるのは、イヤなのよ。だから口説き落とすから、本気モードで」
「美雪が困るだけなんじゃない?昨日も俺の家に泊まってったけど、つかれてたみたいだし?」
「そりゃねぇ……ワタシの家に来たんだから、疲れちゃったのかもねぇ。色々と」
「イチ……お前、美雪に何か」
春馬の眉間にグッとシワが寄るタイミングで、楽屋にスタッフが入ってきて
自然とオレらの話は終わり、各々の準備をワザとらしくする。
そうこうしてるうちに龍も元気も、時間通りに来ると用意された揃いの衣装を着て、4人でスタジオ入りして仕事は進められていく。
こんなにたくさんのカメラと照明があっても、心中までは見られないからね。
あんなシリアスな話した後でも、春馬から話を振られても笑顔で返してOAにのる。
辛くても、気まずくても
笑えって言われれば、そうする。
これが、オレらの生きている世界で
アイドルなんだ。
だから、安らぎという名の美雪が欲しくなる。
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